徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:島田荘司著、『暗闇坂の人喰いの木』(講談社文庫)

2018年11月20日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『暗闇坂の人喰いの木』(1990)は御手洗潔シリーズ第6作目の長編。

元は処刑場があったという横浜の暗闇坂には樹齢2000年になる人を食べるという噂のある楠が不気味に枝を伸ばす。その広大な土地を戦後に安く買って学校を建てた英国人ジェイムズ・ペインは20年前に突然帰国し、学校は閉鎖。妻の藤並八千代が銭湯を経営したりマンションを建てたりして資産管理しながら三人の子ども卓・護・玲王奈を育て上げた。1984年、ある嵐の翌朝に長男が敷地内に建つ古い洋館の屋根の上にまたがった姿勢で絶命しており、また八千代は楠の前で大けがを負って倒れていた。そしてまた次の嵐の翌朝には次男の護が楠に体を突っ込んだような形で変死し、八千代は楠の前で息絶えていた。

この事件に御手洗潔はちょっと遠回りな縁から調査に乗り出し、「人喰いの木」の謎やジェイムズ・ペインの行方なども含めて解決します。

おどろおどろしい歴史的背景を持つ舞台設定や曰く付きの一家に起こる連続殺人事件であること、過去の事件との関りがあることなどは横溝正史的な構成を連想させます。

卓・護を殺すトリックは、偶然の産物の要素が大きく、むしろ計画が失敗した結果ともいえるのですが(物理的可能性に疑問あり?)、それがジェイムズ・ペインが過去に描き残していた絵とそっくりになったという「偶然」はちょっと眉唾でファンタジーな感じです。

ストーリー展開のテンポがよく読みやすいので、長編でも一気読みできました。探偵小説としてはファンタジー要素が強いような気がしますが、ミステリーとしては面白かったです。

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