徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:中山七里著、『帝都地下迷宮』(PHP文芸文庫)

2023年05月21日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
鉄道マニアの公務員・小日向巧はある日、廃駅で立ち入り禁止となっている地下鉄銀座線萬世橋駅へと潜り込む。そこで出会ったのは、政府の“ある事情”により地下で生活する謎の集団「エクスプローラー」だった。その集団内で起こった殺人事件をきっかけに、小日向は捜査一課と公安の対立も絡む大事件に巻き込まれていき・・・・・・。エクスプローラーが抱える秘密とは? 殺人犯は誰か? 東京の地下で縦横に展開するノンストップミステリー!

「ひょっとすると僕は死体愛好家なのかもしれない」という主人公・小日向巧の独白から始まる本作は、一体どんな偏執狂的殺人犯の話なのかと戸惑いますが、どうやらそれも著者の策略のひとつのようです。
小日向は鉄道マニアの中でも珍しい廃駅マニアで、廃駅の寂れた侘しい様子が死体を連想させるため、「死体愛好家」という表現に至ったようです。
立ち入り禁止で、誰もいないはずの地下鉄線とその駅に「エクスプローラー」と名乗る謎の集団が暮らしていたーーというあり得ない設定がSF染みていて面白いのですが、その100名ばかりの人たちが政府の思惑により文字通り日陰の存在にさせられたのだとしたら? 
小日向巧は区役所で生活保護を担当する公務員であるため、その方面からエクスプローラーの人々を支援しようと試み、彼らの相談に乗るうちにその正体にだんだんと気づいていきます。
そこで起こる殺人事件と、捜査の手から逃れるために集団移動を企み、地下鉄の廃駅に詳しい小日向が彼らを先導することになります。病気の高齢者が多いので、困難な逃避行になります。
追ってくるのは強行犯係の捜査一課と公安。
この地下の逃避行という舞台がサスペンスとして面白くしている要素で、「エクスプローラー」の謎や殺人事件のミステリーの筋自体はそれほど秀逸なわけではないという印象を受けました。



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