徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:島田荘司著、『御手洗潔と進々堂珈琲』(新潮文庫)

2018年10月03日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『御手洗潔と進々堂珈琲』(新潮文庫)はマドリードから帰国する途中で読みました。なにせ12時間以上の長旅になってしまったので本を読む時間はたっぷりありました。

『御手洗潔と進々堂珈琲』は御手洗シリーズ第27作目の『進々堂世界一周 追憶のカシュガル』を改題したもので、「進々堂ブレンド1974」、「シェフィールドの奇跡」、「戻り橋と悲願花」、「追憶のカシュガル」の4編が収録されている短編集です。語り手は兄弟を目指す予備校生のサトル。京大傍の珈琲店「進々堂」に通い、世界一周の旅を終えた若き御手洗との思い出を語ります。「進々堂ブレンド1974」ではサトル自身の甘酸っぱい失恋譚が語られ、それに対する御手洗のコメントにサトルが救われる、というような内容です。その他3篇はすべて御手洗の体験が語られます。「シェフィールドの奇跡」では障害者に対する社会の在り方を問い、学習障害を抱えた男の子が重量挙げの選手になるエピソード、「戻り橋と悲願花」では第二次世界大戦で日本軍に徴用された朝鮮人たちの悲哀と【風船爆弾】にまつわるエピソード、「追憶のカシュガル」ではシルクロードの街カシュガルで御手洗が出会ったパン売りの少年と路上生活をする老人のエピソード。老人が語るのは第一次世界大戦後のカシュガルが世界中のスパイで溢れていた頃の、舞姫への恋心と仲良くなった日本人アキヤマへの嫉妬と、その悲しい結末。どれもミステリー色が一切ない追想ですが、味わい深く切ないエピソードです。

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