徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:島田荘司著、『上高地の切り裂きジャック』(文春文庫)

2018年10月03日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

御手洗シリーズ第17作目『上高地の切り裂きジャック』はマドリード行きの飛行機の中で読みました。

腹を横一文字に切り裂かれ、内臓のかわりに石が詰め込まれた女優の死体が上高地で見つかり、浮上した最有力容疑者には鉄壁のアリバイがあるという厄介な事件の話です。膣から検出された精子は強姦殺人を意味するのか、死姦を意味するのかといった問題も浮上します。北欧にいる御手洗は死体の写真に写っていた蛆の状態から謎を解くという中編です。

「切り裂きジャック」というタイトルからつい連続殺人犯を連想してしまいましたが、殺人事件は1件だけで、腹を切り裂いて内蔵を取ったという意味では猟奇性がありますが、動機は結構平凡な感じなので、タイトルから連想されるイメージと作品の結末が全く噛み合っていないという違和感が否めません。

その点を除けばとても面白い展開でした。

横浜時代の御手洗が活躍する中編『山手の幽霊』も収録されています。怪談が多く、野狐の祟りがあるという噂の山手に建つ一軒家で、医学生の正木幸一が入居前に完全に塞いだはずの地下室から一か月後ほどして死体が発見され、警察が事件を持て余して御手洗を頼るところから物語が始まります。発見された死体は家を正木に譲った前所有者でした。持ち主および住人が次々と亡くなっている件の家にはどんな謎があるのか。その謎について考えている御手洗のところへ根岸線の運転手の奥さんがやってきて、その運転手がある日の終電で体験した怪奇について話します。その日のうちに御手洗は怪奇事件以来臥せっているという根岸線の運転手のところに押しかけ、一挙に二つの事件の関連性を認識し、解決に持ち込みます。幽霊の正体は、人の執念のたまものと言ったところでしょうか。なんともやるせないエピソードでした。

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