徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:中山七里著、『夜がどれほど暗くても』(ハルキ文庫)

2023年05月21日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
志賀倫成(しがみちなり)は、大手出版社の雑誌『週刊春潮』の副編集長で、その売上は会社の大黒柱だった。
志賀は、スキャンダル記事こそが他の部門も支えているという自負を持ち、充実した編集者生活を送っていた。
だが大学生の息子・健輔(けんすけ)が、ストーカー殺人を犯した上で自殺したという疑いがかかったことで、
幸福だった生活は崩れ去る。スキャンダルを追う立場から追われる立場に転落、社の問題雑誌である『春潮48』へと左遷。
取材対象のみならず同僚からも罵倒される日々に精神をすりつぶしていく。
一人生き残った被害者の娘・奈々美から襲われ、妻も家出してしまった。
奈々美と触れ合ううちに、新たな光が見え始めるのだが……。 

日本では、加害者家族はもちろんのこと、犯罪被害者の家族も正義の皮をかぶった匿名の誹謗中傷に晒され、野次馬根性の下劣さに神経をすり減らされていくのが現状です。
この作品では、ストーカー殺人犯とされた大学生の父親と、そのストーカー殺人犯に両親を殺されてしまいただ一人生き残った未成年の娘が出会い、何度も衝突するうちに、庇護する者と庇護される者の関係に変貌していく過程が語られます。
特に菜々美が同級生たちから受ける仕打ちは凄惨を極めており、思春期の少年少女たちの非常識な酷薄さが浮き彫りになります。そうしたいじめを受けながらも警察にも誰にも相談せず、1人で立ち向かおうとする菜々美は悲壮で、たしかに大人の庇護欲を掻き立てるかもしれません。
一方、志賀の方は自分や息子の犯した犯罪、被害者遺族をネタに記事を書かざるを得ない状況に追いやられ、これまで自分がしてきたことの下劣さをわが身をもって体験することになります。
マスコミ批判と正義面した匿名の悪意に対する厳しい批判が込められているものの、その批判は一方的ではなく、そのような悪意に負けずに強くしなやかに生きようとする志賀と菜々美の生き様に焦点を当て、感動的な物語を生み出しています。


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