徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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ドイツ:右翼テログループ逮捕とAfDの過激化

2016年04月20日 | 社会

右翼テロ

近頃は、「テロ」のキーワードですぐに連想されるのは【イスラム過激派】と言っても過言ではありません。しかしながら、今回ドイツのザクセン州フライタール(Freital)で逮捕されたのは難民排斥を旨とする右翼テログループでした。そのグループはフェースブックで『市民防衛隊(Bürgerwehr ビュルガーヴェァ)』と名乗り、難民収容施設又はその予定地への放火や難民の直接攻撃などの計画・実行をしていたと見られています。現在のところ容疑がかかっている犯行は昨年9月―11月にかけての難民収容施設またはそれに準ずる住居プロジェクトに爆発物を仕掛けた事件3件、左翼政党事務所への攻撃複数回、及びフライタール市役所所有の車への攻撃1件です。

家宅捜査の際、大量の東欧起源の花火が押収されました。いわゆる「ポーランド爆竹(Polenböller)」ですが、大抵のものはドイツでは販売禁止になっています。このような爆発物はネオナチ・テログループ「オールド・スクール・ソサエティー(OSS)」でも難民収容施設攻撃に使用される予定でした。このグループは今年1月に起訴されました。

上述の一連の事件は既に去年11月からドレスデンの検察庁検事、更に検事長によって捜査されていましたが、今年4月11日に連邦検事総長が引き継ぎ、特に刑法129a条「テロ」の容疑で捜査を開始しました。刑法129a条は国家の基盤が脅かされる恐れのある場合のみ適用されます。連邦検事総長の指示によって、ドイツ連邦刑事局(BKA)、連邦警察及びザクセン州警察が協力体制を整え、反テロ部隊GSG9出動により、今回の大規模な家宅捜査・逮捕が可能となった、とのことです。

ザクセン州の首都ドレスデンの南部に位置するフライタールは昨年7月の反難民デモで国際的な知名度を上げました。例えば英紙インディペンデントで報道されましたが、ホテル・レオナルドが難民収容施設に転用されたことに反対して、地元民を含むネオナチら1200人がホテルを包囲し、ヘイトスピーチを続け、石や爆竹などでの攻撃をした事件です。

1世紀前にはフライタールは全く違った意味で有名になりました。実はこの街はワイマール共和国成立初期の1921年に社会民主党(SPD)の主導で創設されたのが始まりで、『搾取と抑圧』から自由(frei)であることを目指したため、フライタール(Frei-Tal、自由な谷)と命名されたのです。当時はSPDが3分の2以上の多数派を占めていたのです。しかし、ヒトラーの第三帝国と東ドイツ(ドイツ民主主義共和国)という二つの独裁体制を経て、今ではすっかり右翼の巣窟となり果ててしまったようです。何十本もの電柱に「No Asyl」と落書きされ、車のナンバーにアドルフヒトラーのコードネームであった「AH 18」が使われたり、ネオナチシーンのファッションを来て道行く人々がいたり。住民に普通に難民への理解を説いたりすれば、あっという間に「左翼のダニ」呼ばわりされるとか。ネオナチの攻撃を恐れて口をつぐむ住民も少なくないらしいです。今その人たちはGSG9が介入したことでほっと息をついている所のようです。

参照記事:
ツァイト・オンライン、2016.04.19付けの記事「右翼テロ容疑者5人逮捕」 
シュピーゲル・オンライン、2016.04.20付けの記事「ザクセンの右翼テロリスト:栄光とスキンヘッド
インディペンデント、2015.07.15付けの記事「ネオナチ、フライタールの難民申請者ホテルを包囲。東独でまたもや人種差別が醜い顔を表す」 

 

ドイツのための選択肢(AfD)の過激化

先月の3州同時州議会選挙で大躍進をした右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」ですが、党のプログラムを作成する過程で過激な発言が続き問題になっています。上述の右翼テロとは直接関係はありませんが、ヘイトの空気が濃くなっている、とでも申しましょうか、危うい感じです。

事の始まりは4月17日にAfD党首代理ベアトリックス・フォン・シュトルヒ(Beatrix von Storch)が独紙フランクフルター・アルゲマイネに対し、間近に迫っている党大会で反イスラム路線を決議することを明かしたことです。その際に彼女は「イスラムはドイツ基本法と相容れない」と発言し、「ミナレットとムアッジンの禁止」を唱えました。同じくAfD党首代理のアレクサンダー・ガウラントはモスクの禁止まで視野に入れているようです。この過激な反イスラム路線が特定宗教に対する差別であり、信仰の自由を侵害するために、当然物議を醸しだしました。日本人にはそれほどぴんと来ないかもしれませんが、ドイツはほんのわずかでもナチスの過去を連想させる事柄には非常に神経質に反応します。時と場合によっては大袈裟であったり、思考停止状態の決めつけであったりもしますが、とにかくナチス的なものは即座に排除・否定しなければ社会的信用を失うというような空気が支配的なのです。そういう政治的土壌の中で、いきなり「イスラムはドイツ基本法と相容れない」発言がどれだけの爆弾であるか想像してみて下さい。

AfDの中には「自分たちは極右(ナチス)ではなく、普通の政党」と思いたい人たちもかなり居ます。ただメルケル首相の難民政策やヨーロッパという枠組みで自分たちの生活よりも例えばギリシャなどの救済に多大な税金が投入されていることに不満に抱いているだけだと。しかしながら、AfDが拡大する過程でかなり過激な極右勢力も党に吸収されてきて、それゆえに統一性に欠け、党が割れだしているとも言えます。

AfD党首フラウケ・ペトリは騒ぎを収めようと「党はイスラム全体を差別するつもりはないが、政治的なイスラムはドイツ基本法に反している」などと答弁していましたが、フォン・シュトルヒは激しい批判をものともせず、新オスナブリュック新聞のインタヴューで「今日、民主主義と自由を脅かす最大の脅威は政治的なイスラムだ」と反イスラム路線を更に強調しました。彼女によると、イスラムは宗教ではなく政治的なイデオロギーであり、ドイツ基本法に反しているとのこと。また反ユダヤ的な攻撃のほとんどは背景にイスラムがある、と指摘。

ドイツムスリム中央評議会が即座に反論したのを皮切りに、メルケル首相を始めとする主たる政治家、イスラム専門家などがこぞって批判・反論を展開しており、最終的にどこに着地するのかまだ見えていません。「ここでAfDを徹底的に叩かなければ、ナチスの歴史が繰り返される」という不安が反AfDのエネルギーの渦となっているように見受けられますが、世の中には理性的な説明に耳を貸さず、ひたすら感情論をベースに自分に都合のよい理屈をこね、それ以外は認めない、という姿勢の人たちが残念ながら少なくないありません。そうしたムードを巧みに掬い取って、AfDは成長してきたので、現在のメインストリームのAfD批判は「弾圧」あるいは「思想の自由の侵害」などと捉えられているだけでしょうし、メジャーメディアが書きたてることはそもそも信用しないことを信条としている人も多いことから、恐らく「メインストリームによる弾圧に負けずに真実を主張する英雄」みたいな自己陶酔に浸っている人たちも少なくないと思われます。どの国にも一定数そのような救いようのない人たちが存在するものなので、仕方ないといえば仕方ないのですが、これ以上エスカレートしないことを切に願っています。

参照記事:
独公営放送ターゲスシャウ、2016.04.17付けの記事「イスラムはドイツ基本法と相容れない」 
南ドイツ新聞、2016.04.19付けの記事「シュトルヒはAfDの反イスラム路線を強調」