徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:中山七里著、『さよならドビュッシー』 『さよならドビュッシー 前奏曲』 『おやすみラフマニノフ』(宝島社文庫)

2023年05月25日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

商品説明
祖父と従姉妹とともに火事に遭い、全身大火傷の大怪我を負いながらも、ピアニストになることを誓う遥。コンクール優勝を目指して猛レッスンに励むが、不吉な出来事が次々と起こり、ついに殺人事件まで発生する……。ドビュッシーの調べも美しい、第8回『このミス』大賞・大賞受賞作。

香月玄太郎は一代で莫大な資産を築き上げた立志伝中の人で、地元では名士ですが、脳梗塞の後遺症で車椅子生活を余儀なくされたため、自宅の敷地にバリアフリーの離れを作り、趣味のプラモデルを作りながら元気に生活しています。長女の娘・ルシアはインドネシア生まれで、毎年香月家に遊びに来ていましたが、その年に限り両親の仕事の都合で一人だけ日本に来ているときにスマトラ島沖地震が起こり、一度に両親を失くしてしまいます。孤児となったルシアは香月家の養女となる予定でした。
香月家には、玄太郎の長男・徹也とその妻と娘の遥、次男の研三が一緒に暮らしており、遥とルシアは共にピアノを習っています。
ある夜、徹也夫妻が不在のため、遥とルシアは祖父の住む離れに泊まります。そこで火事が起こり、祖父とルシアが逃げ遅れ、遥は重度の火傷を負ったものの命拾いします。最初はスプーンで食べることすら難儀するくらいでしたが、それでもピアニストになる夢を捨てられず、地元の大学で音楽の臨時講師をしているピアニスト・岬洋介にピアノを教わることになります。

玄太郎は遺産相続に関して遺言を残しており、総資産の半分は遥がピアニストになるために使える信託財産で、残りの半分は長男・次男で分けることになっていました。数億の遺産相続が原因なのか、研三と遥の母が殺されてしまう。いったい誰がどんな理由で?

16歳の少女が障害を克服してピアニストを目指す根性ストーリーと殺人事件のミステリーが絡み合った構成。検事の父を持ち、自身も一度は法曹の世界を目指したこともある岬洋介が探偵役を務める。
このデビュー作からすでに「どんでん返し」パターンが発揮されています。

 
商品説明
車椅子の玄太郎おじいちゃん&介護者・みち子さんコンビが大暴れ!玄太郎は下半身が不自由で「要介護」認定を受けている老人だが、頭の回転が早く、口が達者な不動産会社の社長。ある日、彼の分譲した土地で建築中の家の中(密室状態)から死体が発見された。お上や権威が大嫌いな玄太郎は、みち子を巻き込んで犯人捜しに乗り出す!ほか、リハビリ施設での怪事件や老人ばかりを狙う連続通り魔事件、銀行強盗犯との攻防、国会議員の毒殺事件など、5つの難事件に挑む!

 『さよならドビュッシー 前奏曲』は、エピソードゼロの位置づけですが、香月玄太郎を主人公とした短編集で、離れの火事の前夜までの話が収録されています。「車椅子探偵」を自任し、身の回りで起こった事件をあらゆるコネを駆使して調べて解決します。
玄太郎と介護者のみち子さんの掛け合いを始め、様々な人たちとの会話が非常に軽快で面白く読めます。玄太郎の傍若無人ぶりがパワフルで読み応えがあります。国会議員の毒殺事件では玄太郎の賃貸物件を借りている岬洋介も巻き込まれます。ここで、内緒で遥やルシアにピアノを教えてやるように岬洋介に頼んでおり、それが本編に繋がっていくことになります。


商品説明
『さよならドビュッシー』の続編です! 秋の演奏会を控え、第一ヴァイオリンの主席奏者である音大生の晶は初音とともに、プロへの切符をつかむために練習に励む。しかし完全密室で保管される、時価2億円のチェロ、ストラディバリウスが盗まれた。彼らの身にも不可解な事件が次々と起こり……。ラフマニノフの名曲とともに明かされる驚愕の真実! 美しい音楽描写と緻密なトリックが奇跡的に融合した人気の音楽ミステリー。 

『おやすみラフマニノフ』は岬洋介・音楽シリーズ第2作で、『さよならドビュッシー』同様、きめ細やかな音楽描写が特徴的です。
語り手は愛知音大ヴィルトゥオーゾ科に通う貧乏学生の城戸晶。
同音大は、稀代のラフマニノフ弾きである柘植彰良が理事長・学長を務めており、孫の初音はチェリストを目指す。
晶と初音は仲がいいが、晶がなぜか腰が引けているため、恋人関係にはなっていない。
秋の演奏会には柘植彰良がピアノを弾くことになっており、そのためのオーケストラがオーディションで選出され、コンマスと第一チェロ奏者は大学保有のストラディバリウスを弾くことができる。外部の音楽関係者も多く見に来るため、出演者にはスカウトされるチャンスもある。
晶もコンマスを目指して真剣に練習に励む。同大学一と目されるバイオリン弾きが負傷していたため、晶にチャンスが訪れるが、指揮者とは相性が悪く、オケメンバーも個性的なのが多くて前途多難。
そんななか、ストラディバリウスのチェロの盗難を皮切りに、柘植モデルと呼ばれる柘植彰良専用のピアノの破壊、演奏会を中止させようとする大学ホームページへの書き込みなど、不可解な事件が続く。
本作は珍しく人死にのないミステリーで、音楽で生きていくことの難しさに打ちひしがれ、それでも音楽に向き合い、ひたむきに練習する青春ドラマ。
謎解きは、少し拍子抜けする部分もありますが、音楽とは生き方そのものだという考え方には感動的なものがあります。

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