徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:島田荘司著、『御手洗潔の挨拶』(講談社文庫)

2018年11月17日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『御手洗潔の挨拶』(1987)は短編集で、「数字錠」、「疾走する死者」、「紫電改研究保存会」、「ギリシャの犬」、「新・御手洗潔の志」の5編が収録されていますが、最後のは小説ではなく著者による御手洗潔というキャラクターの説明です。

「数字錠」では、1979年12月に四谷に店を構える吹田電飾という看板屋の社長が作業場で仮眠中に殺され、朝出社した4人の社員がシャッターを開けた時に発見される一種の密室殺人事件で、一方はシャッターでそのカギは社長と独身社員最年長の者が持っているのみ。他方は裏木戸で、そちらは3つのリングから成る数字錠が掛けられており、暗証番号は社長しか知らないことになっています。さて犯人は本当に竹越刑事が目をつけている吹田社長に株で騙されたという二人なのか?(当然違う)

御手洗氏の意外な優しさが現れているエピソードです。

「疾走する死者」は語り手が石岡氏ではなく、隈能御堂巧(くまのみど たくみ)こと「タック」というサックス奏者の青年で、ある台風の夜にジャズ仲間で集まる会のようなものに誘われてバンド仲間の一人と共にでかけていくと、そこには御手洗潔と石岡氏もいて、御手洗氏はギターの超絶技巧を披露したりしてくれます。そこはマンションの11階で、停電直後に姿を消した男が、13分後、走る電車に飛びこんで死んだらしい。しかし全力疾走しても辿りつけない距離で、その首には絞殺の痕もついていました。その謎の移動はいかにしてなされたものなのか?

翌日刑事が来るまでそこでみんな足止めをくらっていたのですが、刑事が来て聞き込みが始まろうという時に18時からチックコリアのライブ演奏がテレビで放映されると聞くや、それに間に合うように帰りたいから、刑事に犯人とトリックを教えてさっさと帰宅するという苦笑したくなるようなエピソードです。犯人はいけ好かない欲にまみれた人間で、「疾走した死体」は半分は偶然の産物でした。

「紫電改研究保存会」ではM新聞社の英字部に勤務する「私」こと関根が7年前の1978年の出来事をどこぞのバーで上司に語るという筋書きです。いきなり「紫電改研究保存会」の会長・尾崎善吉なる人が訪ねてきて、紫電改が四国沖で発見されて海底から引き上げられる日にベテランパイロットがその近くに墜落したが、そのパイロットは関根の遠縁にあたり、同乗して一緒に居たカメラマンは尾崎の友人の息子だと言い、その友人に親戚関係を黙っている代わりに急ぎの宛名書きを手伝ってほしいという。手伝っているうちに話をいろいろ聞いて面白かったので、後日事務所を訪ねてみるともぬけの殻だった。関係あるのかないのか後日「ピサの斜塔救済委員会」から全く身の覚えのない寄付に対する感謝状が届いたとのこと。さて、なんだったんでしょう?

思わずふっと笑ってしまうような事件でした。

「ギリシャの犬」は御手洗潔の犬好きが如実に表れるエピソードで、たこ焼き屋の小屋が盗まれた日、その近所に住む目の不自由な夫人の盲導犬クロが殺されたことに端を発します。たこ焼き屋がどうのという話にまったく興味を示さず、そのご婦人を追い返そうとした御手洗でしたが、犬が殺されたと知るやがぜんやる気になって調査に乗り出します。するとこんどはそのご婦人の家で預かっている彼女の兄の息子、つまり彼女の甥が誘拐されて身代金を要求されます。彼女の兄はギリシャで成功した富豪だったのです。身代金の受け渡しは隅田川のどこかで、指示はハンディートーキーで与えるというので、警察は水上を警備で固めますが、御手洗は別行動で必ず子供もお金も守ると宣言します。

このエピソードから御手洗が得た教訓は「犬は人間の警官100人に優る」(笑)

しばらく金田一耕助シリーズのどろどろした殺人事件ものばかり読んでいたので、こういう軽快な推理小説だとホッとしますね。

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