徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:中山七里著、『総理にされた男』(NHK出版)

2023年05月20日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
人気作家・中山七里が描く
ポリティカル・エンターテインメント小説!

売れない舞台役者・加納慎策は、内閣総理大臣・真垣統一郎に瓜二つの容姿とそ精緻なものまね芸で、ファンの間やネット上で密かに話題を集めていた。ある日、官房長官・樽見正純から秘密裏に呼び出された慎策は「国家の大事」を告げられ、 総理の“替え玉”の密命を受ける 。慎策は得意のものまね芸で欺きつつ、 役者の才能を発揮して演説で周囲を圧倒・魅了する 。だが、直面する現実は、政治や経済の重要課題とは別次元で繰り広げられる派閥抗争や野党との駆け引き、官僚との軋轢ばかり。政治に無関心だった慎策も、 国民の切実な願いを置き去りにした不条理な状況にショックを受ける。義憤に駆られた慎策はその純粋で実直な思いを形にするため、国民の声を代弁すべく、演説で政治家たちの心を動かそうと挑み始める。そして襲いかる最悪の未曽有の事態に、慎策の声は皆の心に響くのか――。
予測不能な圧巻の展開と、読後の爽快感がたまらない、魅力満載の一冊。 

総理が病気で倒れ、そのまま政府が倒れてるのを回避するため、よく似た売れない役者を替え玉にする、という荒唐無稽な設定に目をつぶれば、これほど面白いポリティカルエンターテイメントはなかろうと思えるほど傑作でした。
「立場が人をつくる」とはよく言ったもので、まったくのノンポリだった加納慎策は、総理として扱われ、総理として演技しているうちに政治に目覚めていきます。
そして、訪れる前代未聞の危機。アルジェリアでテロが起こり、日本大使館が占拠されます。大使を含む職員らと大使館に保護を求めた日本人やアルジェリア人が人質に取られ、3時間おきに一人処刑されていく。加納慎策演ずる真垣統一郎総理が下す決断とは? 自国民の危機に、他国に頼るばかりで自ら救済に赴くことできずして独立国と言えるのか? 自衛隊の位置づけと国家のあり方に一石を投じる作品。
護憲一辺倒の平和主義者たちにとっては「すわ、右翼向け小説か?!」と非難すべきものかもしれませんが、現実問題として似たような状況に陥った本物の日本国政府が人質を見殺しにしたことを鑑みると、あながち作中の加納慎策が下した結論は、独立国家として当然の人道主義的決断だったと言えるのではないでしょうか。


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