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書評:島田荘司著、『占星術殺人事件 改訂完全版』(講談社文庫)

2018年09月22日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

この前に読んだ『火刑都市』の主人公・中村刑事が実は御手洗潔シリーズの脇役だったということを知り、ではこの御手洗潔シリーズとはどんなだろうと思って、その第一作にして、島田荘司のデビュー作である『占星術殺人事件 改訂完全版』を手に取ってみました。かなりの長編ではありますが、最初に登場する密室で殺された画家・梅沢平吉の手記「Azoth(アゾート)」以外は非常に文の流れがよく読みやすかったです。作者あとがきによると、1981年のデビュー作を30年後に改訂出版するにあたり、全編ローラー式に文体を修正したとのことなので、流れのよい読みやすさはそのせいかもしれませんね。

事件そのものは昭和11年に起こったもので、梅沢平吉の密室殺人を皮切りに、彼の後妻と前夫の間に生まれた長女や、彼自身の娘や姪たち6人が殺され、バラバラ死体となって日本全国に散らばって発見されたという事件概要がワトソン的存在の語り手である石岡和巳によって説明されます。この娘たち6人の殺害は平吉の手記によると「理想の女・アゾート」を作り出すためで、死体の埋める場所は占星術的にも錬金術的にも意味のあるものらしいのですが、当の下手人となるはずの平吉が最初に殺されているので、猟奇的であるばかりでなく、相当謎めいた事件ということで、その後40年間警察どころか日本中のミステリーファンや素人探偵がこぞって謎解きにかかり、いまだに解決していない事件とのことでした。なぜこの事件にいまさら占星術師を営む御手洗潔が関わることになったかと言えば、御手洗が占星術ばかりではなく探偵的な才能もあると聞きつけたとある女性が亡父の手記を持ち込み、彼の名誉を守るために謎を解いて欲しいと依頼したから。この亡父・竹越文次郎は元警察官で、実は平吉の後妻とその前夫の間に生まれた長女・一枝と彼女が殺害されたと推定される時間に生きている彼女と成り行きで時間を過ごし、体の関係すら持ってしまったため、その事実が知られれば間違いなく一枝殺しの犯人扱いされてしまうことを恐れていたところ、その事実を知る秘密警察的な機関の者を自称する何者かから封書を受け取り、一枝宅の物置に置いてある6体の死体を指示通りの場所に捨てるよう指示され、言う通りにしなければ一枝と事件当日に関係を持ったことをばらすと脅迫されたため、死体遺棄の片棒を担ぐことになったと手記の中で告白します。この告白によって、少なくとも娘たち6人の殺人犯が運転免許を持っている必要がないことが明らかになります。さて、真犯人は誰なのか?

この作品は「新本格のムーヴメント」の先駆けとなった歴史的な作品なのだそうですが、そういうことは抜きにしても面白いですし、結論を読んで「やられた!」と思ってしまうほど明快で、目から鱗が落ちる思いでした。御手洗のキャラは頭が良すぎて狂人と紙一重のようで味わい深いですし、その御手洗の面倒を見ずにはいられない語り手石岡も微笑ましく魅力的です。

最後に見つかった犯人が死んでしまい、死後に自白書が届いて、残りの細かい謎や動機を明かすという構成はアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせますね。

この作品が文藝春秋の2012年版『東西ミステリーベスト100』で中井英雄の『虚無への供物』に次ぐ第3位になったのには、個人的に納得がいきません。私的にはこちらの『占星術殺人事件』の方がずっと面白いと思いますので。

ところで、この2012年版『東西ミステリーベスト100』の日本版・海外版の一覧がウィキペディアに掲載されていたので、じっくりと見てみたのですが、海外版の74位にカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』がランクインしているのには驚きました。確かに物語はミステリータッチで構成されてはいますが、あくまでも「タッチ」であって、ミステリーそのもののカテゴリーには入らないように思うのですが。
また、日本版の方では、このミステリーがすごい大賞に輝いた海堂尊の『チームバチスタの栄光』が全くランクインしていないのも腑に落ちませんね。海堂尊作品はほぼ制覇していますが、ミステリーとして面白いのはこの『チームバチスタの栄光』と『アリアドネの弾丸』あたりだと思ってます。

いろいろ腑に落ちないところもありますが、このベスト100のうちの10位内にランクインしている作品は制覇しようかと思ってます。日本版・海外版それぞれあと8冊ずつですね。いつ手を付けられるか分かりませんが、いつかやるだろうと思いますwww

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書評:島田荘司著、『火刑都市』(講談社文庫)