徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツ:2015年度国外電力取引統計ー脱原発の現状

2016年07月06日 | 社会

「ドイツの脱原発はまやかし、電力の不足分を他国(たとえばフランス)から(原発で作られた)電力を買うことでまかなっている」

とか言うようなデマを5年経った今でも鵜呑みにして疑うことを知らず、そのデマを垂れ流しにして、知ると知らずとに関わらず原発推進派を支えている人が少なからずいることに驚愕しております。そこで最新のドイツの国外電力取引統計をここでご紹介させていただきます。

2014年のデータは拙ブログ「ドイツの脱原発ーその真実と虚構、現状(2)」で取り上げましたが、ここでは2015年度の数字です。

下のグラフはドイツの1990年-2015年までの電力輸入量から電力輸出量を差し引いた量がテラワット時(=10億キロワット時)という単位で表されています。ソースはドイツの統計ポータルStatistaです。プラスの値なら輸入超過、マイナスなら輸出超過です。

2011年の福島第一原発の事故を受けてドイツのメルケル政権は直ちに3ヶ月の原発モラトリアム(老朽原発の一時停止)を設け、後に8基の廃炉が決定し、稼動停止しました。さすがに一気に8基も原発が止まったので、電力不足が危惧されていましたが、その年ですら6.3テラワット時の輸出超過であったことをまず念頭においてください。
翌年の2012年には再生可能エネルギーの助成の成果もあり、23.1テラワット時という輸出超過最多記録を出しました。そしてその最多記録は4年間連続で更新されおり、2015年は50.1テラワット時の輸出超過となっています。

このデータの示す事実は、ドイツは原発8基止めた後も電力不足ではないばかりか、風力・太陽光発電が急成長したことにより、電力輸出大国になっているということです。

 

次のグラフは同じくStatistaからのものですが、2015年度の電力取引量を相手国ごとにテラワット時の単位で示したものです。太い縦線よりも右側であればドイツの輸入超過、左側であればドイツの輸出超過となります。

このグラフによると、ドイツはフランスへ輸出した電力より同国から輸入した電力が11テラワット時上回っていたことになります。対デンマーク、対スウェーデンでもドイツの輸入超過となっています。それに対して、チェコ、ルクセンブルク、ポーランド、スイス、オーストリア、オランダとの間ではドイツの電力輸出が多くなっています。オランダへの輸出超過は23.6テラワット時でここに挙げられている国の中では最大となっています。

ヨーロッパの送電網はつながっていますから、常に国境を越える電力のやり取りがあります。ですからこのデータのドイツ対フランスの部分だけを切り取って、「ドイツは原発大国であるフランスから電力を輸入している」という事実を違うコンテクストで主張すれば、あっという間に文頭に述べたようなデマが出来上がってしまいます。そこで隠蔽されている事実は「ドイツが電力不足のためにフランスから電力を輸入しているわけではない」ということです。ドイツは電力輸出大国ですからむしろ電力は余っているのです。ただ、ドイツは地理的にヨーロッパの中心に位置し、たくさんの隣国に囲まれています。そのため電力もドイツを経由して他の国へ運ばれることも当然あるわけです。フランスからドイツへ来る電力はそのままスイスやオーストリアに大半が流れる、というデータもあります。

 

ついでなので2015年度のドイツのエネルギーミックスのデータもご紹介します。素の数字はドイツ連邦経済・エネルギー省のサイトで公表されている表から取りました。データソースはエネルギー収支共同研究会(Arbeitsgemeinschaft Energiebilanzen eV.)で、2016年1月時点の暫定的統計だそうです。それを基に私が作成したのが下の円グラフです(出来合いのは棒グラフしかなかったので)。

緑が再生可能エネルギーのシェアで、右側の棒グラフはその内訳を表しています。エネルギー・治水産業連邦連合(BDEW)による2014年度のデータでは再生可能エネルギーの割合が26.2%でしたから、2015年度はそれより3.8 ポイント増えたことになります。増えてはいますが、成長率は明らかに鈍化しているといえます。原因は助成政策の変更です。

一方原子力(Kernenergie)の割合は15.8%から14.1%へ1.7ポイント減りました。天然ガス(Erdgas)も前年比0.7ポイント減。褐炭(Braunkohle)も前年比1.4ポイント減りましたが、石炭(Steinkohle)のシェアはなぜか増加していて、0.4ポイント上がっています。

エネルギーミックスを時間軸で見ると以下のような棒グラフになります(連邦経済・エネルギー省サイトからの転載です)。単位はTWh=テラワット時です。色分けは下(左)から順に再生可能エネルギー、石油関連製品、石炭、褐炭、天然ガス、原子力、その他となっています。

このグラフを見るとドイツの発電量の総量がさほど変わっていないことに気づきます。それなのに輸出超過が増え続けているのはひとえにドイツの電力消費量が全体的に減っているからです。ドイツでは確かに日本のように街灯を減らしたりするような目に見える形での節電はしていませんが(そもそも街灯が日本に比べて少なく、これ以上減らすと真っ暗になってしまう)、節電製品が普及し、エネルギー消費の効率化が広がっているという話です。

ドイツの全原発が停止するのは2022年。再生可能エネルギー助成に政策的なブレーキがかかったこともあり、当分はこのエネルギーミックスが大きく変わることはないでしょう。主に北ドイツで生産される風力エネルギーを最も電力を消費する南ドイツへ送電するためには送電網の拡張が喫緊の課題と言われています。送電網が完成するまでは再生可能エネルギー設備新設の助成は控えるというのが政府の方針ですが、その理由付けをまともに信じる環境保護団体はありません。送電網のメンテナンスは大切ですが、当初の拡張計画にあったような大規模なものは必要ないのです。大規模な送電網は主に石炭・褐炭発電所からの電力を輸出するためのもである疑いがあります。

太陽光や風力による発電の「むら」は逐電技術の開発が進み、天気がいい日や風の強い日などに大量に発電された電力がそのまま送電網に送り込まれるという問題はある程度の調整が可能なくらいには解決していますし、発電コストもどんどん下がっています。再生可能エネルギーはどんどん「難癖」付けにくくなっているのが現状なのですが、世の中には学ばない人も残念ながらたくさんいるので、こうした変化も知ろうとしない、あるいは認めようとしないまま、デマを垂れ流して原子力ムラを知ってか知らずか温存する手助けをしてしまっているのですね。なんとも嘆かわしい限りです。


 

ドイツ:百万年の耐久性を求めて~核のごみ最終処分場選定手続きの提案

ドイツの脱原発、核廃棄物の処理費用は結局納税者持ち~原子力委員会の提案

ドイツ:憲法裁判所で脱原発公判開始

ドイツのエネルギー法改正

ドイツの脱原発~その真実と虚構、現状 (1)

ドイツの脱原発~その真実と虚構、現状 (2)

ドイツの脱原発~その真実と虚構、現状 (3)

ドイツの脱原発~その真実と虚構、現状 (4)― 事後責任法案本日閣議決定