リベンジなるか?NHK大河ドラマ「真田丸」の戦い
編集部 久保田 稔
2015年12月02日 05時20分
来年のNHK大河ドラマは「真田丸」。堺雅人ら人気俳優と脚本家・三谷幸喜氏の豪華布陣で戦国のヒーローを描く。ここ数年の不振から“大河不要論”もささやかれる中、NHKがこの作品にかける期待は大きい。はたして「真田丸」は、大河復権への砦(とりで) となるのか。
「半沢」「古畑」…人気者を総動員
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大河ドラマ「真田丸」に出演する堺雅人(右から2人目)、長澤まさみ(同3人目)ら
2016年の大河ドラマ「真田丸」は、戦国武将・真田幸村(役名は信繁)と、その一族をめぐる物語。主人公・幸村を「半沢直樹」で大ブレイクした堺雅人が演じるほか、内野聖陽(徳川家康)、山本耕史(石田三成)、片岡愛之助(大谷吉継)ら人気俳優が数多く出演。大河初出演の竹内結子(淀の方)ら女優陣も豪華な顔ぶれだ。
原作・脚本を手がけるのは三谷幸喜氏。テレビドラマ「王様のレストラン」「古畑任三郎」シリーズや、映画「清須会議」などのヒット作を放った第一人者で、大河ドラマ起用は2004年の「新選組!」以来、12年ぶり2度目となる。
このメンバーで、武田氏滅亡、関ヶ原の戦い、大坂冬の陣・夏の陣など歴史上の大事件に翻弄されながらも、信義を貫き通した幸村とその一族の活躍を描く。戦国の有名武将を主人公にした作品は、1987年の「独眼竜政宗」、翌88年の「武田信玄」、96年の「秀吉」など多くが高視聴率をマークしており、いわば大河の王道路線だ。
番組の制作統括を担当する屋敷陽太郎・チーフプロデューサー(45)は「目指すのは、視聴者が心を動かされ、ハマってくれる作品。特に、子どもたちや若い人たちが毎回夢中になってくれて、その記憶に数年経(た)っても残る作品にしたい」と力を込める。
不振続く「国民的番組」
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一方で、こうした手厚い陣容からは、「今回はハズせない」という局側の切実な思いも透けて見える。
大河ドラマの年間平均視聴率は、2010年の「龍馬伝」以降、5作連続で20%を下回っている(ビデオリサーチ・関東地区)。今年の「花燃ゆ」も低視聴率ばかりが話題となり、打ち切りを心配する声まで出た。同じく「国民的番組(枠)」と呼ばれる「朝の連続テレビ小説」の好調ぶりとは対照的だ。
「軽過ぎ」「暗い」…批判さまざま
数字以上に気になるのが、ドラマの「中身」に対する評価だ。近年は特に厳しい批判が目立つ。
まずは、過去の作品に比べ、「軽過ぎる」という声。画面に現れるのは、時代のイメージにまるで合わない容貌、口調の出演者たち。主人公は歴史的な事件の現場に都合よく居合わせ、時の権力者をも手なずける。史実、定説はどこへやら…と嘆く声だ。
時代劇評論家の春日太一氏は著書で「視聴者をバカにしたかのような『分かりやすさ』重視のご都合主義と、人気優先のキャスティングを十年近くに亘(わた)って大河ドラマは続けてきた」(『なぜ時代劇は滅びるのか』新潮新書)と強く批判。その結果、「これまで築き上げてきた視聴者と番組枠との信頼関係を崩してしまった」(同)と指摘する。
一方で、丁寧に時代背景や人間関係を描こうとした作品もあった。ところが、今度は「暗い」「つまらない」「わかりくい」と不満が続出してしまう。前者の例が「江~姫たちの戦国~」(2011年)なら、後者の代表格は「平清盛」(2012年)だろう。
大河の敵は「大河」
屋敷陽太郎・NHKチーフプロデューサー
屋敷プロデューサーは言う。「実は、昔の大河をあらためて見直すと、最近よりもずっと史実からは自由に描かれているんです」。例えば、名作の一つとされる「黄金の日日」(1978年)。主人公の呂木(るそん)助左衛門は実在の商人だが、ドラマの中では様々な重要事件の現場に毎度のように現れ、秀吉、家康らの知遇を次々に得る。主人公と著名人や事件を関係させるのは、視聴者の関心を引きつけるための常套(じょうとう)手段=パターンなのだ。
同じ手法なのに、なぜ近作では批判を招いてしまうのか。番組制作者は「私たちの拙(つたな)さもある」と前置きした上でこう話す。「過去の大河ドラマの造形が視聴者の記憶に強く残っていて、そこから離れると、強い拒否反応を示されてしまう」。史実から、というよりも、過去の大河作品のイメージから離れると、熱心なファンほどリアリティーが失われたように感じてしまう――というのだ。「大河のライバルは『(世界の果てまで)イッテQ』じゃない。昔の『大河』なんです」(同プロデューサー)
「新選組!」も不発…
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脚本家・三谷幸喜氏
「真田丸」制作陣の前にも、この“強敵”が立ちはだかる。それどころか、苦杯をなめた過去がある。
三谷幸喜氏が手がけた「新選組!」は、大河に新風を吹き込んだ作品と言われた。隊士たちの実年齢に合わせ、20代、30代の若手俳優を積極的に起用。強面(こわもて)の剣豪集団とされがちだった新選組を、等身大の若者たちとして描いた群像劇だった。しかし、視聴率は伸び悩み、作品の評価も賛否が分かれた。
作品の中では、佐幕派の先兵となる近藤勇が、倒幕派の桂小五郎と知り合いだったり、近藤が坂本龍馬に共感したり。当時のスタッフによれば、実は入念に時代考証を重ねた上で設定したそうだが、それまでの大河とは異なる明るく爽やかな作風が、「いいかげんな軽いドラマ」の先入観につながったようだ。ヒット作連発の人気脚本家も、伝統の厚い壁を破ることはできなかった。
異例の“リベンジ起用”
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その三谷氏が、大河ドラマにとって正念場とも言えるこの時期、再び重責を担う。
大河ドラマ脚本家の複数回起用は、ジェームス三木氏(「独眼竜政宗」「八代将軍吉宗」など)や橋田寿賀子氏(「おんな太閤記」「いのち」など)、田渕久美子氏(「篤姫」「江~姫たちの戦国~」)らの例があり、けして珍しいことではない。だが、多くは前作で大ヒットを飛ばしており、“リベンジ”を期すような起用は、異例だ。
「真田丸」に込めた思い
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堺雅人(中央)ら「真田丸」の出演者たち=NHK提供
制作者が狙いを明かす。「戦国のスーパースターが主人公だが、幸村(信繁)一人の物語ではなく、家族、一族の物語として描きたい。三谷さんは、登場人物全員に命を通わせる台本が書ける凄い人。三谷さんなら、家族や家臣はもちろん、周囲の大名たちまできちんと描いていけると思う」(屋敷プロデューサー)
三谷氏が得意とする群像劇的な描き方で、ヒーローの影で生きた「その他」の人々にまで光を当て、深く豊かな人間ドラマを作るという。「だからタイトルも『真田幸村(信繁)』ではなく、『真田丸』なんです」(同)
過去のNHKドラマで幸村を好演した草刈正雄が父・昌幸を演じるなど、古くからのファンにも気を配った。さらには、最新の歴史研究の成果に基づき、謎とされる幸村の前半生や、深く関わった人々の実像をも浮かび上がらせるという。
実は、屋敷氏をはじめ、「真田丸」を手がけるスタッフの多くは、「新選組!」の制作にも携わっていた。今回主演の堺雅人も、主要隊士の一人(山南敬助)を演じた。一度は挫折を味わった仲間たちの再結集。それは、関ヶ原の戦い後に領地を没収され、十数年後の大坂の陣で再び集結した幸村一派の姿にも似る。目の肥えたファンを納得させ、視聴率でも“倍返し”ができるのか。「真田丸」の戦いが、まもなく始まる。
(※俳優・女優は敬称略)
2016年のNHK大河ドラマは『真田丸』だが、所詮はドラマである。史実に忠実にすると『平清盛』『花燃ゆ』の様に「つまらない」と。軽くすると『江』『新選組!!』みたいに「史実と違う!」と文句(笑)でも、ドラマだから架空でいいし、面白ければ何でもいい!三谷幸喜には是非面白い大河を望む!臥竜