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「ビン・ラディンは必死になっている」とアナリストは言う」と題する『アルジャジーラ』局の論説。

2006年04月28日 | イスラム問題
彼らの疲れ切った運動に活力を与えるために、アルカイダは、「遠くにいる敵」である西欧との戦いをすることに決めた。しかし、これは、米国の軍事力が最後に彼らを破壊することを恐れた他の軍事的運動との裂け目を引き起こした。
先日の日曜日、アルカイダの指導者オサマ・ビン・ラディンは、オーディオ・テープを通じて、西欧は「ムスリム諸国」に対して「十字軍的戦争」を仕掛けていると非難した。
ニューヨークにあるサラ・ローレンス大学で国際問題と中近東研究の講座を持っているファワズ・ゲルゲスは、ビン・ラディンが必死になっていると考える。
--イスラム教徒に対する十字軍についてのビン・ラディンのメッセージからわれわれは何を理解するべきでしょうか?
ゲルゲス:ビン・ラディンは、必死になって、イラクにいるアメリカと西欧の敵を利用しようとしています。そして若いモスレムに西欧はイスラムに対する十字軍的戦争を行っているのだと信じ込ませようとしています。また、若いモスレムに新たな帝国主義的軍事力に抵抗するべきだと信じ込ませようとしています。
ビン・ラディンにとっては、現在の闘争は、政治的経済的闘争以上のものです。それは生存をかけた文明的な闘争です。彼がはっきり述べているように、彼の使命は、若いモスレムを励ましてこのグローバルな対立に含まれている利害関係を思い出させようとしています。彼の話を聞くと、彼は自分のメッセージが誰の耳にも聞き入れられていないことに失望していることが分かります。ジハードの隊列は彼を置き去りにしました。それは彼が期待していたのとは劇的に異なる方向に動いています。彼は自分の仲間やモスレム社会に自分はまだ生きているぞ、まだ存在しているぞということを思い出させることがどうしても必要だと感じているのです。
 だが、本当のところは、彼の文明の戦いにかける人は少ないのです。イラク人もパレスチナ人もビン・ラディンのために戦争をする気はありません。彼らは、彼のビジョンに賛成していません。彼らはビン・ラディンの野心的で複雑なレトリックよりももっと限られた目標を持っています。
--あなたの本の中で、あなたは、9.11の攻撃はビン・ラディンのアイデアであったが、他のジハディスト達は彼とは意見が違いったと書いています。なぜ彼れらは黙っていたのですか?
ゲルゲス:9.11の攻撃はほんの小さな分派であるアルカイダによって遂行されました。彼らの戦略は大いに批判され、宗教的なナショナリスト達は反対しました。彼れらは戦闘をグローバルに取り上げるよりは、ムスリム世界を変えることに集中したのです。ビン・ラディンの副官達の多くは、自分自身の道を行こうと決心しましたが、そのわけは、彼らがエジプトのイスラム・ジハードであるアイマン・ザワヒリの組織とアルカイダとの間の合同に同意しなかったからです。彼らのなかのある者は、内部のやりとりでザワヒリに対して「よく聞け、俺たちは俺たちの道を進むが、俺たちは俺たちの汚れた洗濯物(内部の対立)を公衆には曝さない。俺たちは決してお前の信用を落としたりはしない」と言ったのです。彼らは深い忠誠と兄弟愛の感覚を互いに持っているのです。
--なぜ、ビン・ラディンとアルカイダは、西欧に焦点を当てようと決心したのですか?
ゲルゲス:ビン・ラディンを「より遠い敵」に向けさせた原因は、1991年の湾岸戦争におけるアメリカ軍の干渉とアメリカ軍のサウディ・アラビア駐留でした。
--あなたはあなたの本の冒頭で、アメリカ議会の9.11委員会の報告書を批判して、米国はジハード運動は一枚岩だと見ている述べています。
ゲルゲス:私は9.11委員会の報告書は、犯罪捜査に焦点を絞っていると考えます。それは
9.11の陰謀がどのように展開されたかを部分的に描写しています。何時、命令が下されたか、誰が命令したか、誰が筋書きの背後にいる指導的共謀者であるかというように筋書きの糸を繋ぎ合わせるようとしています。
 そういうわけで、報告書は、ミクロの細部から出発して、米国が直面した脅威の本性については非常におおざっぱな一般化をしているのです。言い換えると、報告書は、ジハード運動がどのようにしてなぜ米国を攻撃することに決めたかという歴史的社会学的問題を明らかにするには不足です。報告書は、ジハード運動と全体としてのイスラム主義運動とを一からげにしています。
 私の考えでは、おおざっぱな一般化をし、ジハード運動をアルカイダやイスラム主義運動といっしょくたにすることは非常に危険です。
--あなたはなぜそれが危険だと考えるのですか?
ゲルゲス:米国は、アルカイダのようなイスラム主義運動内部の小さな分派に直面しているのではありません。米国が直面しているのは、あらゆるジハード主義者、地方的ジハードや超国家的なジハードやイスラム過激派を包括するイデオロギー上の敵に直面しているのです。
 米国が非常に危険な敵であるアルカイダに直面しているというのとあらゆるジハディストを包括するイデオロギー的な脅威と直面しているというのは区別しなければなりません。それは敵対の本性を変えますし、ジハディストとイスラム主義者との間の違いを余り知らないアメリカ人に、われわれが直面しているのは、私が実存的脅威や戦略的脅威と呼ぶものなのだ確信させるのです。
--あなたは軍事的集団について述べています。レバノンのヒズボラとパレスチナのハマスは、ジハード運動の一部ですか。
ゲルゲス:そうです。だが、ヒズボラとハマスは、過激なイスラム主義者で、彼らは彼らの精力と軍事力をイスラエルの占領に集中している。彼らはアラブ・イスラエル世界の外へジハードを広げようとは思っていません。(中略)
--アルカイダを打ち負かす最善の方法はなんですか?
ゲルゲス:アルカイダに対するアメリカの戦争は、戦場で勝つことはできません。アメリカは、通常の軍隊と直面しているのではありません。米国と国際社会がこの戦争に勝つ唯一の方法は、アラブとムスリム社会との連携を作り出すことです。米国は、本当に揺れ動いている中間層の正当な悲しみに訴えるよう努力し、パレスチナ問題のような地域対立に訴えて、連合を作り出すように努力しなければなりません。
 米国がこのことをなしうるのは、アラブやムスリムの独裁者から健全な距離をとり、アラブ・ムスリム世界の最大の有権者、つまり、アラブやムスリムの若者達との間に橋を建設することによってであります。
[訳者の感想]ここでゲルゲスがアルカイダとジハード運動を区別し、アルカイダのイデオロギー的目標とジハード主義者の目標との間に区別があるというのは一応納得できますが、それが最後に述べたような仕方でアメリカがアラブ・イスラムの青年層を取り込めるかに関しては私は全く可能性がないように思います。結局、アメリカは、アルカイダだけでなくアラブ・イスラム世界全体を敵に回してしまったからです。
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2 コメント

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Unknown (kts)
2006-04-29 12:05:58
本当にそうですね。

アメリカはなぜ相手を理解しようともせずに決め付け、自分たちの価値観を世界中に押し付けるんでしょう。

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コメント有り難うございました。 (medicus19)
2006-04-29 16:31:52
ブッシュはイラクがアルカイダと結びついているからテロと戦うためにはイラクをやっつけなければならないと主張したのですが、結果として、イラクをアルカイダやイスラム主義者の戦闘訓練の場所に変えてしまったように見えます。フセインは、独裁者でしたが、ジハディストでもイスラム主義者でもなかったと思います。
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