海外のニュースより

政治・経済・社会の情勢について書かれた海外の新聞や雑誌の記事を選んで翻訳しています。

「ブッシュのこれからの千日」と題するアーサー・シュレジンジャーのコメント。

2006年04月27日 | アメリカの政治・経済・社会
百日はフランクリン・D・ルーズベルトと消すことが出来ないほど結びついているし、千日は、ジョン・F・ケネディと結びついている。だが、今週について言えば、ブッシュ大統領の任期は残すところあと千日である。イランに対する不吉な準備と先制攻撃の暗い噂に満ちた日々である。
 大統領の特権としての予防戦争の問題は、決して新しくない。1848年2月、当時、共和党議員だったアブラハム・リンカーンは、メキシコ戦争に対する反対の立場を次のように説明した。「大統領が侵入を撃退することが必要だと思う場合にはいつでも、大統領に隣国への侵略を許すとする。そうするとあなた方は、大統領がこのような目的にとって必要だと思う場合にはいつでも彼がそうするのを認めることになる。あなた方は好きなときに彼に戦争を認めることになる。今日、大統領が英国がわれわれを侵略するのを防ぐためにカナダに侵入することが必要だと考えていると言うことを選ぶとしたら、どうやって彼にそれを止めさせることができるのか?あなたがたは『イギリスがわれわれの国を侵略する蓋然性は見えない』と大統領に言うかもしれない。だが、彼はあなた方に『黙っていろ。お前達には見えなくても、自分にはそれが見えるのだ』と言うだろう。」
 これこそまさしくジョージ・W・ブッシュが「黙っていろ。お前達は見えなくても、自分には見える」という彼の特権を見た仕方なのだ。だがしかし、ハリー・S・トルーマン大統領とドワイト・D・アイゼンハウアー大統領とはどちらも第一次大戦に従軍した兵役経験者であったが、彼らははっきりとヨーロッパを支配しようとするヨシフ・スターリンの試みに対する予防戦争を認めなかったのだ。1962年10月のキューバ危機において、ケネディ大統領は、自分自身第二次対戦の英雄だったが、キューバにいるソビエト軍に対して予防的攻撃を勧めた統合参謀本部の提案を退けた。
 JFKが平和的にミサイルを取り除こうと決心したのは幸運だった。なぜならば、何十年か後にキューバにいたソビエト軍は、戦略核兵器を持っており、アメリカ軍の侵入を撃退するためにそれを使用せよという命令を受けていたことが分かったからだ。このことはお互いに核攻撃する可能性があった。JFKは自分の千日をかけて、アメリカ大学で演説を行ったが、それはアメリカ人とロシア人の双方に、「個人としても国家としても、われわれ自身の態度を再吟味せよ。なぜならば、われわれの態度は彼らの態度と同様、本質的であるから」という力強い弁明であった。この後に制限的テストを禁止する条約ができた。それはジョージ・ケナンの「封じ込めと阻止」という方式と一致し、核による衝突を避けるのに役立ったのだった。
 キューバ・ミサイル危機は、冷戦中の最も危険な瞬間であっただけではない。それは人類の歴史の中で最も危険な瞬間だった。それ以前に、二つの対立する勢力が、地球という惑星を破壊する技術的能力をもったことは一度もなかった。大統領官邸の中に予防戦争の要素があったとしたら、それは恐らく核戦争であっただろう。核兵器が再び使用されるであろうことは確実である。アメリカの歴史家の中で最も異彩を放つ歴史家のヘンリー・アダムズは、南北戦争中につぎのように書いた。「いつか、科学は人類の存在をその手中に収めるだろう。そして人類は世界を吹き飛ばすことによって自殺するだろう。」
 だが、われわれの冷戦中の大統領は、「封じ込めプラス阻止」というケネディ方式を守り、われわれはそれを核戦争にまでエスカレートすることなく、冷戦に勝った。ジョージ・W・ブッシュは、予防戦争の偉大な主唱者として登場した。2003年に民主党の反対が崩壊したことによって、ブッシュは、アメリカの外交政策を「封じ込めプラス阻止」から、「黙っていろ。お前達には見えなくても、俺には見える」という大統領による予防戦争へと移した。観察者達は、ブッシュが自分は神の目的を実現するのだという確信を持った「救世主的」人物だと記述している。だが、リンカーンが彼の二番目の大統領就任演説で言ったように、「全能なる神は、自分自身の目的を持っておられる」のである。
 ブッシュの前には彼自身の千日が展開している。彼はそれを使って、三つ目のブッシュの戦争を始めるかもしれない。アフガン戦争は正当化された。イラク戦争は、幻想と欺瞞と自己欺瞞に基づいていた。イラン戦争も幻想と欺瞞と自己欺瞞に基づいて行われるかもしれない。大統領の予防戦争に基づく外交政策ほど民主主義にとって危険なものはない。
 人情味ある人間のように見えるブッシュ大統領は、毎日の死と破壊の悲しみに心を動かされて、単独の予防戦争を控えるかもしれない。そして、集団的安全保障という利益のために他の国々と協力することに立ち返るかもしれない。そうなったらリンカーンは喜ぶだろうが。
[訳者の感想]この論説を書いたアーサー・シュレジンジャーは、ケネディ大統領の顧問で歴史家でもあります。ブッシュがイランに対して核戦争も辞さないつもりだというのは、かなり本当らしいです。恐ろしいことだと思います。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「胡錦涛主席よ、ありがとう... | トップ | 「ビン・ラディンは必死にな... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

アメリカの政治・経済・社会」カテゴリの最新記事