サブプライム後に何が起きているのか [宝島社新書] (宝島社新書 270)春山昇華宝島社このアイテムの詳細を見る |
彼女の母ゼン・ジンヤンの腕に抱かれた生後4ヶ月のチアンシのイメージを、念頭から追い払うのは難しい。この少女は大声で泣き叫んでいた。彼女のくしゃくしゃの顔は恐怖そのものだった。もちろん、彼女は、なぜ、カメラのチームが彼女に覆い被さっているのか、フラッシュでまぶしくしているのか、その理由をしらない。彼女が耳にしているのは、政府をののしる母親の声であり、彼女が目にするのは母親が涙をぬぐう様子である。 母親は、彼女を自分たちが住んでいる地区へと連れ帰る。それは、北京の郊外にあるトンズー地区であって、「ボーボー・自由市」と呼ばれている。
その名前は皮肉のかたまりである。チアンシは少なくとも彼女の幼年期を34才の父親フー・ジアなしでこの「自由市」で過ごすだろう。北京の地方裁判所は、国家権力の転覆を企てたという理由で、反体制派のフーに3年半の禁固刑を宣告した。実際は、彼はインターネットで中国政府に批判的な記事を公表しただけである。
実際、裁判官がこのコンピューター専門家に有罪の判決を下した理由は、彼が第21回オリンピック競技会に来るお客さんに一種の歓迎のメッセージを公表したからである。中国政府の目から見ると、フーが書いたことは、統治システムを危険に曝すのだ。フーは、昨年9月に、訪問者のための公開状の中で、次のように書いた。「北京へおいで下さい。でも、この巨大なお祝い、花の海、ホステスの微笑、花火の歓迎など共産党によって指令されたモットーの下での「調和の喚起」には、ひどく暗い側面があることを忘れないでください」と書いたのだ。「中国には、選挙はなく、宗教上の自由もなく、独立の裁判所もなく、独立の労働組合もない。中国では、効果的な秘密警察が拷問と弾圧を行い、政府でさえも人権を侵害し、国際的義務を守る準備もない」と書いた。
もちろん、これらの言葉は、北京でのオリンピック競技会の狂騒の結果としてアパートを失った請願者やエイズの患者のためのキャンペーンを何年も行ってきた人の言葉だ。彼の見解が真実だということは、彼が現在、直接自分の身に経験していることである。これらは、中国にとって、オリンピック競技会にとって、又残りの世界にとって暗い日々である。(以下省略)
[訳者の感想]これは、シュピーゲル誌の6人の極東特派員を総動員して書かれた非常に長い論説の冒頭です。