海外のニュースより

政治・経済・社会の情勢について書かれた海外の新聞や雑誌の記事を選んで翻訳しています。

「中国、ドル・ペッグ制を止める」と題するポール・クルーグマンの論説。

2005年07月22日 | 中国の政治・経済・社会
人民元はもはやドルにペッグされないという中国人民銀行の木曜日の声明は、簡明ではあるが、情報を与えることが少ない、そう言ってよければ、不可解である。これは単に数ヶ月間、米国議会の保護主義的圧力からの息抜きを買おうと企てられた一片の芝居であるという見込みは十分ある。
にもかかわらず、それは世界経済をひっくり返すだろう、あるいはもっと正確に言えば、正しい方を上にするあるプロセスの開始である。つまり、中国がアメリカに与えてきたただ乗りにおいて、世界の最も豊かな経済がダイナミックではあるがまだ貧しい国から安い貸付金を得てきたのだが、そのただ乗りは、終わりに近づいているかもしれない。
問題は、資本がどの方向に流れているかである。
資本は、普通、成熟し、発達した経済からより発達していない経済へと流れる。例えば、19世紀におけるアメリカの成長は、既に工業化されていたイギリスからの投資によって資金をまかなった。
10年前、1997年から1998年にかけて世界の金融危機以前には、資本の動きは、歴史的パターンに当てはまるように見えた。なぜなら、資金は日本や西欧諸国からアジアやラテン・アメリカの「新興市場」へと流れたからである。しかし、今日では、事態は反対の方向に向いている。資本は、新興市場、特に中国からアメリカへと流れ出している。
この川下から川上への逆流は、私的セクターの決定の結果ではない。それは公的政策の結果である。中国の通貨を低く保つために、中国政府は、莫大な量のドルを買い入れ、米国債券の売上高に貢献した。
この政策がどれほど奇妙であるかを理解する一つの方法は、それと比較可能な政策が、われわれの経済の規模にマッチするように尺度を変えた場合、アメリカではどのように見えるかを考えることである。それは、まるで、昨年アメリカ政府が利息の安い日本債券に納税者の金を1兆ドル投資し、今年は、同じ仕方で1.5兆ドル投資するようなものである。
何人かのエコノミストは、この一見馬鹿げた政策に対して深い合理性があると考える。私は、それは中国政府が、1997年から1998年にかけての危機から自分を護ろうとしたときに落ち込んだ罠だと考える。中国経済がうまくいっているので、中国はそれを変えるのがいやなのだ。つまり、中国の指導者達は、成功に干渉したくないのである。
しかし、中国のドル買いに対する圧力は増大しつつある。人民元の価値を下げておくことによって、中国は、貿易黒字を助長しており、それがアメリカやヨーロッパでは政治的反発を招いている。まだ貧乏な国である中国は、多くの資源を、より高い生活水準にではなく、基本的に役に立たないドルの山を積み上げるのに捧げているのである。
問題は、もし、中国が最後にこのような奇妙な振る舞いを止めようと決心したら、われわれに何が起こるかということである。
中国のドル買い騒ぎの終わりは、元の価値の上昇を招くだろう。それは恐らくまた他の主要通貨に対するドルの価値の下落を招くだろう。例えば、中国が同じ規模では買わなかったユーロの上昇を招くだろう。このことは、競争相手のコストを上げることによって、アメリカの製造業者を助けるだろう。
だが、もし、中国がアメリカ国債を買うのを止めるならば、国債の利率は、上昇するだろう。利率上昇がバブルをはじけさせるならば、これは不動産業者にとっては悪い、非常に悪いニュースとなるだろう。
長い目で見れば、中国のドル買いの終わりの経済的効果は、均衡を作り出すだろう。アメリカでは産業労働者はより多くなり、不動産業者はより少なくなるだろう。ミシガン州では、仕事が増え、フロリダ州では仕事は少なくなるだろう。雇用の全般的レベルは、大して影響されないままに残すだろう。しかし、ジョン・メイナード・ケインズが指摘したように、長期的に見れば、われわれは皆死ぬのである。
短期的には、ある人々は儲けるだろうが、他の人々は、損をするだろう。そして、私は、負け組のほうが圧倒的に勝ち組より多いのではないかと疑っている。
戦略的効果については、どうだろうか。現在、アメリカは、借金で暮らすスーパーパワーである。これはスペインを支配したフェリペ2世以来起こらなかったことである。中国がわれわれのクレジット・カードを持ち去ったら、われわれの成長に何が起こるだろうか。
この話は、まだ、その初期の段階にある。新しい政策の最初の日に、人民元はたった2%上昇した。目につく違いをもたらすには十分ではない。だが、近日中に中国のドル買いは、弱まるだろう。そしたら、われわれは興味ある時代に生きていることが分かるだろう。
[訳者の感想]7月22日付け『ニューヨーク・タイムズ』に掲載されたポール・クルーグマンの論説です。現代の一流の経済学者が書いた論説だけにかなり説得力があります。彼の予測がどの程度当たるか、興味津々です。
コメント (5)
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