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海外のニュースより

政治・経済・社会の情勢について書かれた海外の新聞や雑誌の記事を選んで翻訳しています。

「仮想戦争の隠れた指導者」と題する『ガーディアン』紙の記事。

2006年05月19日 | イスラム問題
2001年9月11日のテロから殆ど五年たったが、オサマ・ビン・ラディンはいまなおアメリカ軍の追跡を免れている。「山のライオン」作戦は一月近くパキスタンに隣接したアフガニスタンのコナール州の全体を掃討しているが、今週あきらめのため息と共に終結した。アルカイダの指揮官がそこに前にはいたとしても、もはや彼はそこにはいない。
米国には見守る以外の選択はなかった。先月、アルジャジーラ・テレビで放映されたビン・ラディンの破壊行為の脅しは、ジョージ・ブッシュが勝てない敵がまだ生きていることを思い出させた。彼を捕獲できれば、ブッシュの30%までの支持率を上向かせる力があったのだが。彼を殺すほうがもっと良かっただろうとパキスタン駐在のある外交官は言った。「われわれが彼を生きたままで捕まえた場合の問題を想像したまえ。もう一つのサダム裁判を望むかね?彼にそのような討論の場を与える気があるかね?」
けれども、米国高官と独立のアナリスト達はビン・ラディンを黙らせることは第二の挑戦だということでは意見が一致している。彼の戦闘的なメッセージを黙らせることは、ムスリム世界内部で荒れ狂っている思想の戦いに勝つ点ではもっと重要である。
アルカイダのメディア戦略は、洗練さの度合いを強めている。イラクとアフガニスタンにおけるムジャヘディンの攻撃や「裏切り者」の斬首を描写するビデオやDVDは、中近東の市場では一般的な流行となった。もっと最近の現象は、アフガンとパキスタン国境にある150のFMラジオ局の出現である。ペシャワール在住の情報提供者によれば、「それらは西欧に対する憎悪とジハードのメッセージをまき散らしている。」
だが、これはより広範な問題のほんの一部に過ぎないと、国防次官ピーター・ロッドマンは今月米国議会で述べた。国防省のチームは、宣伝の演説、グラフィックス、訓練マニュアル、スライドなどを作り出すのに使われている世界中の5千のインターネット・サイトをモニターした。
アルカイダとその連携者・支持者達は、西欧のマーケッティング組織がするように、特定の国を狙っていると国防次官は言った。この中には、インターネットの作品をロシア語やトルコ語に翻訳する仕事が含まれている。国務省の言うところでは、インターネットが「テロリストの待避場所」のリストを載せている。その理由は、それが「敵にそれ自身の公的メディアの窓口を作り支える力を与えているからである。」
アルカイダが暴力的な直接行動と結びつけられているのに対して、その作戦能力は2001年以来低下したと情報筋は述べている。これと対照的に、「反十字軍的抵抗」の推進者としてのその有効性は、増進した。この進化の中で、ビン・ラディンは、仮想戦争の隠れた指導者という役割を演じている。
雑誌『国益』に執筆しているアラブ世界の専門家であるマーク・リンチは、米国は、外交政策を強調しているにもかかわらず、複数メディアを用いたジハードの猛攻撃に対抗するのに失敗していると言う。だが、もっと基本的に、米国は、自分がアルカイダの改宗行動の最終目標ではないということを理解しそこねている。
 アルカイダの目標は、共有されたイスラム的アイデンティティについての過激で教義的に純粋な概念に基づく「単一の政治的ビジョンをアラブ世界」に押しつけることであったとリンチは言う。そうしようと戦う内に、アルカイダは、穏健イスラム主義者や世俗的アラブ・ナショナリストやしばしば敵対的なアラブ・ムスリム系メディアからの反対に直面した。西欧の介入ではなくて、彼らの抵抗こそが、テロを非合法化し、過激主義を打ち負かす最善の希望を与えている。
「イスラムとの現実のイデオロギー上の闘争において、米国は相対的にマージナルな自滅的なプレイヤーである」とリンチ教授は言う。「次の段階は、アラブ人が彼ら自身の間で持っている現実の主張に注意を払い、アルカイダを批判する者達に彼ら自身の戦争に勝つための余地を認めることである。」
[訳者の感想]『ガーディアン』紙にすぐれた論説を寄稿するサイモン・ティスドール氏の論説です。イデオロギー闘争では、アメリカはむしろ守勢に立っており、穏健派ムスリムや世俗的アラブ・ナショナリストの方がアルカイダの偏狭な思想を打破する力を持っているという主張だと思われます。

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「トルコの法廷で、弁護士が裁判官を射殺」と題する『ガーディアン』紙の記事。

2006年05月18日 | イスラム問題
イスタンブール発:昨日、一人のトルコ人の弁護士が「私はアラーの戦士だ」と叫んで、トルコの最高行政法廷でピストルを発射、判事の一人を殺し、他の四人を傷つけた。
目撃者によると、裁判所の第二法廷でピストルを発射した際に、その弁護士は「アラーは偉大なり」と叫んだ。
イスタンブール弁護士会の認証をもつこの弁護士は、自分が判事を攻撃した理由は、法廷がある女性に彼がスカーフを着けているという理由で校長になることを止めたからである。判事の一人、ムスタファ・ユセル・オズビルギンは、頭部を打たれて病院で死亡した。
オズビルギンを含む四人の判事は、二月に勤務外でスカーフを被っていた小学校教師の昇進に反対の投票をした。五番目の判事は、昇進に賛成の票を投じた。
裁判所の決定は、レセプ・タイイップ・エルドガン首相によって批判された。彼の率いるAK党は、政治的イスラムの政党である。エルドガン首相は昨日、拳銃発射を非難した。
この攻撃は、宗教心のあるトルコ人がモスレムが多数を占めるのに厳格に世俗的な国にいてフラストレーションを感じているという劇的な兆候である。
この国の次第に進行するイスラム化に対する憂慮を表明したアハメト・ネクデト・セゼルは、この事件を「トルコ共和国における黒点」であると述べ、「圧力と脅迫とはトルコの裁判官をおじけづかせないだろう。裁判官は世俗的で民主的な共和国に義務づけられた憲法上の義務を遂行するだろう」と付け加えた。野党のデニズ・バイカルは、「この事件はトルコが非常に危険な場所に引きずられていることを示した」と述べた。
エルドガンの妻のエミネは、スカーフを被っているという理由で大統領の公務に出席することを禁じられているが、彼女は、この禁止令が撤回されることを要求した。
先週、「アラーは偉大なり」と叫んだ襲撃者は、トルコの最も頑固な世俗主義的新聞社に爆弾を投げた。
ムスタファ・ケマル・アタチュルクが1923年にオスマン帝国から近代的なトルコ共和国を作り出したとき、彼はスカーフを被ることを禁止したのだが、この禁止令は、今日トルコでは、最も不和を生じる問題の一つだと見なされている。来年の大統領と議会の選挙を控えて、この問題はイスラム主義的政府と世俗主義的体制との間の摩擦の源泉となった。
トルコの世俗主義的体制の言論を代表する『クムフリエット新聞』は、最近、それが台頭するイスラム主義だと見なすものを警告するキャンペーンを行った。トルコの世俗主義の擁護者であると称するヒルミ・オズコク大将は、昨日の発砲事件を「憎悪に満ちた不快な攻撃」であると公然と非難した。
[訳者の感想]この記事を読んで、トルコでは、軍隊の方がケマル主義に忠実で、世俗主義的であるのに対して、エルドガンの率いる政府の方がイスラム主義的であることが良く分かりました。
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「ビン・ラディンは必死になっている」とアナリストは言う」と題する『アルジャジーラ』局の論説。

2006年04月28日 | イスラム問題
彼らの疲れ切った運動に活力を与えるために、アルカイダは、「遠くにいる敵」である西欧との戦いをすることに決めた。しかし、これは、米国の軍事力が最後に彼らを破壊することを恐れた他の軍事的運動との裂け目を引き起こした。
先日の日曜日、アルカイダの指導者オサマ・ビン・ラディンは、オーディオ・テープを通じて、西欧は「ムスリム諸国」に対して「十字軍的戦争」を仕掛けていると非難した。
ニューヨークにあるサラ・ローレンス大学で国際問題と中近東研究の講座を持っているファワズ・ゲルゲスは、ビン・ラディンが必死になっていると考える。
--イスラム教徒に対する十字軍についてのビン・ラディンのメッセージからわれわれは何を理解するべきでしょうか?
ゲルゲス:ビン・ラディンは、必死になって、イラクにいるアメリカと西欧の敵を利用しようとしています。そして若いモスレムに西欧はイスラムに対する十字軍的戦争を行っているのだと信じ込ませようとしています。また、若いモスレムに新たな帝国主義的軍事力に抵抗するべきだと信じ込ませようとしています。
ビン・ラディンにとっては、現在の闘争は、政治的経済的闘争以上のものです。それは生存をかけた文明的な闘争です。彼がはっきり述べているように、彼の使命は、若いモスレムを励ましてこのグローバルな対立に含まれている利害関係を思い出させようとしています。彼の話を聞くと、彼は自分のメッセージが誰の耳にも聞き入れられていないことに失望していることが分かります。ジハードの隊列は彼を置き去りにしました。それは彼が期待していたのとは劇的に異なる方向に動いています。彼は自分の仲間やモスレム社会に自分はまだ生きているぞ、まだ存在しているぞということを思い出させることがどうしても必要だと感じているのです。
 だが、本当のところは、彼の文明の戦いにかける人は少ないのです。イラク人もパレスチナ人もビン・ラディンのために戦争をする気はありません。彼らは、彼のビジョンに賛成していません。彼らはビン・ラディンの野心的で複雑なレトリックよりももっと限られた目標を持っています。
--あなたの本の中で、あなたは、9.11の攻撃はビン・ラディンのアイデアであったが、他のジハディスト達は彼とは意見が違いったと書いています。なぜ彼れらは黙っていたのですか?
ゲルゲス:9.11の攻撃はほんの小さな分派であるアルカイダによって遂行されました。彼らの戦略は大いに批判され、宗教的なナショナリスト達は反対しました。彼れらは戦闘をグローバルに取り上げるよりは、ムスリム世界を変えることに集中したのです。ビン・ラディンの副官達の多くは、自分自身の道を行こうと決心しましたが、そのわけは、彼らがエジプトのイスラム・ジハードであるアイマン・ザワヒリの組織とアルカイダとの間の合同に同意しなかったからです。彼らのなかのある者は、内部のやりとりでザワヒリに対して「よく聞け、俺たちは俺たちの道を進むが、俺たちは俺たちの汚れた洗濯物(内部の対立)を公衆には曝さない。俺たちは決してお前の信用を落としたりはしない」と言ったのです。彼らは深い忠誠と兄弟愛の感覚を互いに持っているのです。
--なぜ、ビン・ラディンとアルカイダは、西欧に焦点を当てようと決心したのですか?
ゲルゲス:ビン・ラディンを「より遠い敵」に向けさせた原因は、1991年の湾岸戦争におけるアメリカ軍の干渉とアメリカ軍のサウディ・アラビア駐留でした。
--あなたはあなたの本の冒頭で、アメリカ議会の9.11委員会の報告書を批判して、米国はジハード運動は一枚岩だと見ている述べています。
ゲルゲス:私は9.11委員会の報告書は、犯罪捜査に焦点を絞っていると考えます。それは
9.11の陰謀がどのように展開されたかを部分的に描写しています。何時、命令が下されたか、誰が命令したか、誰が筋書きの背後にいる指導的共謀者であるかというように筋書きの糸を繋ぎ合わせるようとしています。
 そういうわけで、報告書は、ミクロの細部から出発して、米国が直面した脅威の本性については非常におおざっぱな一般化をしているのです。言い換えると、報告書は、ジハード運動がどのようにしてなぜ米国を攻撃することに決めたかという歴史的社会学的問題を明らかにするには不足です。報告書は、ジハード運動と全体としてのイスラム主義運動とを一からげにしています。
 私の考えでは、おおざっぱな一般化をし、ジハード運動をアルカイダやイスラム主義運動といっしょくたにすることは非常に危険です。
--あなたはなぜそれが危険だと考えるのですか?
ゲルゲス:米国は、アルカイダのようなイスラム主義運動内部の小さな分派に直面しているのではありません。米国が直面しているのは、あらゆるジハード主義者、地方的ジハードや超国家的なジハードやイスラム過激派を包括するイデオロギー上の敵に直面しているのです。
 米国が非常に危険な敵であるアルカイダに直面しているというのとあらゆるジハディストを包括するイデオロギー的な脅威と直面しているというのは区別しなければなりません。それは敵対の本性を変えますし、ジハディストとイスラム主義者との間の違いを余り知らないアメリカ人に、われわれが直面しているのは、私が実存的脅威や戦略的脅威と呼ぶものなのだ確信させるのです。
--あなたは軍事的集団について述べています。レバノンのヒズボラとパレスチナのハマスは、ジハード運動の一部ですか。
ゲルゲス:そうです。だが、ヒズボラとハマスは、過激なイスラム主義者で、彼らは彼らの精力と軍事力をイスラエルの占領に集中している。彼らはアラブ・イスラエル世界の外へジハードを広げようとは思っていません。(中略)
--アルカイダを打ち負かす最善の方法はなんですか?
ゲルゲス:アルカイダに対するアメリカの戦争は、戦場で勝つことはできません。アメリカは、通常の軍隊と直面しているのではありません。米国と国際社会がこの戦争に勝つ唯一の方法は、アラブとムスリム社会との連携を作り出すことです。米国は、本当に揺れ動いている中間層の正当な悲しみに訴えるよう努力し、パレスチナ問題のような地域対立に訴えて、連合を作り出すように努力しなければなりません。
 米国がこのことをなしうるのは、アラブやムスリムの独裁者から健全な距離をとり、アラブ・ムスリム世界の最大の有権者、つまり、アラブやムスリムの若者達との間に橋を建設することによってであります。
[訳者の感想]ここでゲルゲスがアルカイダとジハード運動を区別し、アルカイダのイデオロギー的目標とジハード主義者の目標との間に区別があるというのは一応納得できますが、それが最後に述べたような仕方でアメリカがアラブ・イスラムの青年層を取り込めるかに関しては私は全く可能性がないように思います。結局、アメリカは、アルカイダだけでなくアラブ・イスラム世界全体を敵に回してしまったからです。
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「ムスリムの味方は、無神論者」と題するジージェクの論説。

2006年03月14日 | イスラム問題
ロンドン発:何世紀もの間、われわれは宗教がなかったら、われわれは自分の分け前をもとめて争う利己的な動物以上のものではないと言われてきた。宗教だけがわれわれを精神的なレベルへと高めることができると言われた。宗教が世界中で殺人的な暴力の源泉であることが明らかになりつつある今日、キリスト教やイスラム教やヒンズー教の原理主義者達は、彼らの信仰の高貴な霊的メッセージを悪用し、転倒している。ヨーロッパの最大の遺産であり、恐らく平和のためのわれわれのただ一つの機会である無神論の尊厳を回復するのはどうだろう?
 一世紀以上前に、『カラマゾフの兄弟』や他の作品で、ドストエフスキーは、無神論的な道徳のニヒリズムの危険に対して警告した。もし、神が存在しないとしたら、一切がゆるされている。フランスの哲学者アンドレ・グリュックスマンは、ドストエフスキーの無神論的ニヒリズムの批判を、9.11事件に応用した。『マンハッタンのドストエフスキー』という彼の著書の表題は、そのことを示唆している。
 この主張は間違っているとは言えないだろう。今日のテロリズムの教訓は、もし神が存在するとしたら、何千人もの罪のない第三者を吹き飛ばすことを含めて何でも許されているということである。少なくとも神のために直接に行動していると主張している人たちにとっては、神との直接の結びつきが暴力行為を正当化するがゆえに、何でも許されている。要するに原理主義者達は、無神論的なスターリニストの共産主義者と違わなくなった。彼らにとって、すべてが許されていたわけは、彼らが自分自身は彼らの「神」、つまり、「共産主義に至る過程の歴史的必然性」の直接の道具であると見なしたからである。
 聖王ルイに率いられた第七回十字軍の遠征中、イーヴ・ル・ブルトンは、次のような出来事を報告している。彼は右手に火の燃える鉢を持ち、左手に水の一杯入った鉢を持って通りを下ってくる老婆に出会った。なぜ二つの鉢を持っているのかと聞かれて、彼女は次のように答えた。右手の火で、私は天国を何も残らないほど燃え上がらせるだろう。だが左手の水で、私は地獄の火を、何も残らないほど消すだろうと。「なぜならば、私は誰も天国の報酬を受け取るために、あるいは地獄を恐れて、善をして欲しくない。ただ、神に対する愛からだけ、善をして欲しい。」今日、このキリスト教的なスタンスは、たいていは無神論の中で生き続けている。
 原理主義者達は、神の意志を満足させ、救いをえるために、善行だとみなすことをしている。無神論者達が善行をするのは、それが正しいことであるからである。これは道徳性についてのわれわれの最も基本的な経験ではないだろうか?私が善行をする場合、私は神に気に入られるためにそうするのではない。私が善行するのは、もしわたしがそれをしなければ、私は鏡の中の自分を見ることができないからである。道徳的行為は、定義によるとそれ自身が報酬である。神を信じていたデービッド・ヒュームが、「神に本当の尊敬を示す唯一の仕方は、神の存在を無視しながら、道徳的に行為することである」と述べたとき、彼は非常に感動的な仕方で、このことを強調したのだ。
二年前、ヨーロッパ人は、ヨーロッパ憲法の前文がヨーロッパの遺産の鍵となる構成要素そとしてキリスト教に言及するべきかどうか議論していた。いつものように、妥協が図られ、ヨーロッパの「宗教的遺産」という形で言及されることになった。だが、ヨーロッパの最も貴重な遺産である無神論は、どうなったのか?近代ヨーロッパをユニークにしているのは、そこでは無神論が完全に合法的な選択であって、いかなる公職に対しても障害ではないことになった最初の唯一の文明であると言うことである。
 無神論は、そのために戦う値打ちがあるヨーロッパの遺産の一つである。それが信者に足して安全な公共的空間を作り出すからではない。憲法論争が沸騰したとき、私の祖国であるスロベニアの首都リュブリアナで、荒れ狂った議論を考えて欲しい。「(旧ユーゴスラビアからの移住者である)モスレムに、モスクを建てることを許すべきか」という議論である。保守派は、文化的政治的建築的理由まで持ち出して、モスク建設に反対した。リベラルな週刊誌『ムラディナ』は、終始一貫、モスク建設に賛成の意見を表明し続けた。他の旧ユーゴスラビアからの移住者の権利に対する配慮も持ち続けた。
 驚くべきことではないが、『ムラディナ』は、ムハンマドの風刺画を印刷した数少ないスロベニアの刊行物の一つだった。そして、反対に、これらの風刺画に対するモスレムの暴力的な抗議に対して最大の「理解」を示したのは、ヨーロッパにおけるキリスト教の運命に常々関心を示す人たち(例えば、ローマ教会の枢機卿)だった。
 これらの奇妙な同盟者は、ヨーロッパのモスレムに困難な選択を迫る。彼らを二級市民に格下げせず、彼らが宗教上のアイデンティティを表現する余地を認める唯一の政治的勢力は、「神を信ぜぬ」無神論的リベラルであるが、モスレムの宗教的社会的実践に最も近いのは、彼らの最大の政治上の敵である。パラドックスは、モスレムの唯一の同盟者は、ショックの価値のために、風刺画を最初に印刷した保守派ではなくて、表現の自由の理想のためにそれをリプリントした人たちである。
 本当の無神論者は、信者を冒涜によって挑発することによって自分自身のスタンスを強調する必要がなかったが、彼はムハンマドの風刺画の問題を他人の信仰に対する尊重の一つに還元することを拒んだ。最高の価値として他人の信仰を尊重することは、二つの事物の内の一つしか意味しない。つまり、われわれは他人をパトロン的な仕方で扱い、彼の幻想を壊さないように彼を傷つけることを避けるか、あるいは、多元的な「真理体制」という相対主義的スタンスを取って、真理に対するどんな明確なスタンスも暴力的な押しつけとして拒否するかどちらかである。
 しかしながら、すべての他の宗教と一緒に、イスラム教を敬意に満ちた批判的分析に従わせるのはどうだろうか?これだけが、イスラム教徒に本当の敬意を示す道である。つまり、彼らを彼らの信仰に対して責任を持った真剣な成人として扱う道である。
[訳者の感想]スラヴォイ・ジージェクは、バークベック大学の「人文学研究所」の所長です。無神論的リベラルだけが、イスラム教徒に対して寛容であり得るという主張だと思います。しかし、大多数のイスラム教徒にとっては、キリスト教徒も無神論的リベラルもどちらも信仰の敵だということになるのでしょうが。ジージェクの論文の中では珍しく論旨が分かりやすいと思いました。
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「ハマスは、アルカイダの支持を拒否する」と題する『BBC NEWS』の記事。

2006年03月06日 | イスラム問題
ハマスの政治的指導者であるカレド・メシャールは、自分たちの運動は「独自のビジョン」を持っており、アルカイダの忠告を必要としないと述べた。
彼は先月パレスチナの選挙で勝ったハマスにイスラエルとの戦闘を継続すべきだと語ったザワヒリのビデオによる呼びかけに応えた。
メシャール氏は、モスクワでのロシア高官との話し合いの後で語った。
1990年代初めからイスラエルの目標に対して、数百の致命的攻撃を遂行したハマスは、パレスチナ行政府を形成しようとしながら、国際的正統性を求めている。
しかしながら、そのスタンスを変えろという国際的圧力にもかかわらず、それは相変わらずイスラエル国家の存在権を認めようとしない。
ザワヒリのビデオによるメッセージは、日曜日に「アル・ジャジーラ・テレビ」によって放映された。
「パレスチナ当局の世俗的なグループは、パンくずのためにパレスチナを売り渡した。彼らに正統性を与えることは、イスラムに反する」とザワヒリは語った。
ザワヒリは、ハマスに武装闘争を継続することを要求し、その前任者がイスラエルとの間に調印した合意を拒否するように求めた。
彼は「パレスチナ、イラク、それ以外のどこにいようとモスレムに対して「政治的プロセス」と称する新たなアメリカのゲームに対して用心せよと呼びかけた。
このザワヒリのメッセージに応えて、メシャール氏は、次のように述べた。
「われわれの運動は、常にパレスチナ人の利害のために行動し、注意深い思慮の後でしかその戦略を変更しない。」
ハマスの国会議員であるマームード・アル・ザッハールは、パレスチナの選挙に参加することで、自分たちの運動がアメリカの罠に落ちたということを否定した。
「これらの制度に参加することは、われわれが他の党派のカーボン・コピーになるだろうということを意味しない」と彼は「アル・ジャジーラ」テレビに語った。
先週末のモスクワでの会談後、ハマスは、イスラエルを承認しないという立場を変えることを拒否した。
「イスラエルがパレスチナ人の権利と完全に独立したパレスチナ国家を承認するならば、われわれはわれわれの立場を表明する用意がある」とハマスの代表団の一人モハメッド・ナッザルは、AFP通信に述べた。
「あなたがたがハマスに政策を変えることを望むなら、イスラエルにも彼らの政策をかえるように頼まなければならない。」
イスラエルの首相代行エフド・オルメルトは、日曜日に、ロシアのプーチン大統領に「ロシアのハマスとの接触は間違いだった」と語った。
プーチン大統領との電話会談で、オルメルト氏は、「このような接触は、国際社会が要求している変化をしないように勇気づけるだけだろう」と述べた。
プーチン大統領は、ロシアはイスラエルの利害や安全に反するいかなるステップも踏まないだろうとイスラエルに保障した。
そうこうするうち、ファタハの国会議員は、彼らのグループに新しい行政組織に参加するようにととの招きを拒否するように要求した。
彼らが参加しない理由として、彼らはハマスが中東の和平プロセスを拒否していることを挙げている。
[訳者の感想]中東情勢は、シャロンの病気と選挙でのハマスの勝利で、先行きがますます読めなくなったように思います。しかし、政権を握ったハマスが簡単に武装闘争を放棄するとは思えません。イスラエルとアメリカにとって頭の痛い事態だと言えます。
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「ハマスは、取引を拒否すべきだとアルカイダが要求」と題する「アルジャジーラ」テレビの記事。

2006年03月05日 | イスラム問題
「権力を手に入れることが目標そのものではない。いかなるパレスチナ人も、一粒の土地も渡す権利はない」とザワヒリは、「アルジャジーラ」局が放映したビデオで語った。
「パレスチナ当局の中の世俗者は、パンくずと引き替えにパレスチナを売り渡した。彼らに正統性を認めることはイスラムに反する。」
パレスチナとイラクについて語りながら、ザワヒリは、「われわれは政治過程と称するアメリカのゲームに気をつけなければいけない」と言った。
多くのヨーロッパの新聞に掲載された予言者ムハンマドの漫画に関して、ザワヒリは次のように述べた。「彼らはそれを目標があってやったのだ。彼らはそれを謝罪もしないで、やり続けるだろう。もっとも、誰もあえてユダヤ人を傷つけようとはせず、ホロコーストについてのユダヤ人の主張に挑戦することもせず、同性愛者を侮辱することもあえてしないくせに。」
ザワヒリは、黒いターバンを被り、カーテンが引かれた窓の前に座り、熱心に自分の言葉を強調するように右手をひらひらさせた。
「予言者ムハンマドに対する侮辱は、言論の自由の結果ではなく、何が神聖であるかがこの文化では変化したからである」と彼は言った。
「ユダヤ人とホロコーストと同性愛が、神聖だとされているのに、予言者ムハンマドとイエス・キリストは、もはや神聖ではないのだ。」
「アル・ジャジーラ」の局員は、誰かがこのビデオテープを局に渡したと言った。
オサマ・ビン・ラディンの副官であるザワヒリは、昨年いくつかのビデオとオーディオ・テープを公開した。1月31日付けの彼のビデオでは、彼はアメリカに対する新たな攻撃をするぞと脅した。
ビン・ラディンとザワヒリは、険しいパキスタンとアフガンの国境地帯に潜伏していると信じられている。アル・ジャジーラ局が部分的に放映したビデオ・テープは、もっと以前にインターネットに投函された。
[訳者の感想]イスラエルやアメリカは、ハマスをテロリストと称して交渉の相手にする気がないようですが、アルカイダからは、ハマスもまだ甘いと見られているようです。この記事を見るとやはり、アルカイダがハマスよりももっと過激であることがはっきりします。
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「文化の戦いが勃発」と題する『ヴェルト』紙の記事。

2006年02月05日 | イスラム問題
アメリカの政治学者サミュエル・ハンチントンの予言が一度に本当に現実なったかのように思われた。1996年に公刊された『文化の葛藤』において、ハンチントンは、西欧文明とイスラム文明との間に戦いが起こるぞと警告していた。2001年に彼は『ヴェルト』紙のインタビューで、もう一度、警告を繰り返した。イスラム世界と西欧世界の間の戦いは「いろいろな戦線」で行われるだろうと予想した。つまり、政治的、外交的、経済的、軍事的、イデオロギー的に行われるだろうと予想した。「まだ何年も続く多次元的な葛藤が迫っている。」
2月4日に最も目立った戦線は、シリアの首都ダマスカスで数百人がデンマーク大使館に乱入し、建物に放火した。続いて、デモ隊は、ノルウエー大使館の前に集まった。スウエーデン大使館とチリー大使館も入居しているデンマーク大使館では、治安警察の姿は全くなかったのに、ノルウエー大使館前では、警官が並んでいた。デモ隊は、封鎖を突破し、窓から家具や書類を放り出し、火をつけ、消火に駆けつけた消防が近づくのを妨げようとした。治安警察は催涙弾を発射した。
デンマークの外交官ハンス・スコヴは、ラジオ放送で、情報によれば、シリアの官憲は荒れ狂う群衆を止めるために何もしようとしなかった。「われわれは勿論そのことに驚いている」とスコヴは言った。コペンハーゲンとオスロは、両国人にシリアから出国するように要求した。
この葛藤の引き金となったのは、デンマークの新聞『ユランヅ・ポステン』紙に掲載されたマホメットのカリカチュアであった。そこでは、イスラム教の教祖であるマホメットがテロリストとして描かれている。そうこうするうち、新聞の刊行者は、このカリカチュアからは距離を置いた。「これが殺人の脅迫に至ると知っていたら、デンマーク人の命が危険に曝されるかもしれないと知っていたら、われわれはカリカチュアを印刷しなかっただろう」とこの保守的な新聞の社説は述べている。
しかし、この謝罪をするのは遅すぎた。起こったのは、西欧諸国とイスラム諸国の間のシンボルを巡る争いである。世俗的な西欧は、意見と報道の自由を引き合いに出し、イスラム教国の政府と国民は、彼らの宗教的感情が傷つけられたと感じている。共通の議論の基礎が欠けている。初めから相互理解がない。
怒りは、個々のヨーロッパ諸国の間を区別していない。そういうわけで、数百キロメーター離れたガザでは、パレスティナ人がドイツ文化センターを攻撃した。彼らはドアや窓を壊してドイツ国旗を焼いた。他のパレスティナ人は、近くにあった欧州同盟の建物に石を投げた。パレスティナ警察は、努力の末状況をコントロールできるようになった。約50人の生徒と青年達は、新たにEU事務所前に集まり、スピーカーを通して「予言者を侮辱するものは、イスラム教徒を侮辱している」、「マホメットよ、われわれの血と魂であなたを守る」と叫んだ。デモ隊は、デンマーク国旗を焼いたが、建物の中に侵入しようとはしなかった。
街頭には驚くほど多くのビジネスマンがいて、ヨーロッパ製の商品のボイコットを呼びかけた。
だが、和解のきざしも見られる。ガザでは、ファタハに近い武装兵士は、カトリック学校に通う生徒や尼さんや神父に赤いカーネーションを手渡し、教会に対する脅しに対して謝罪した。これに対して、ハマスの指導者マームード・サハールは、「本来、予言者マホメットを侮辱した連中は殺されるべきだ。だが、われわれはここでは平和的にデモをやっている」と言った。
イスラム世界の国家元首達は、二面作戦を選んだ。彼らはマホメットのカリカチュア掲載に関して西欧を非難し、報道の自由の呼びかけには従えないと言った。他方では、彼らは、イスラム教徒に対して街頭では暴力を振るわないように呼びかけた。
そういうわけで、インドネシアのユドヨノ大統領は、モスレムの感情を傷つけるカリカチュアの掲載を批判した。同時に彼は、デンマーク政府と新聞の謝罪を受け入れるように信者に呼びかけた。
マレイシアのアハマド・バダウイ首相もカリカチュアを非難し、自国のイスラム教徒に冷静さを保つように呼びかけた。(中略)
パキスタン外務省は、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ハンガリー、ノルウエー、チェコ、オランダ、スイスなどヨーロッパの9ヶ国の大使を呼び、「不敬な画像の刊行や再刊に対して厳重に抗議した」と述べた。ロンドンでは、ヨーロッパの新聞がモモハメットのカリカチュアを公刊したことに抗議した。主催者は演説の際、イスラム諸国に、ヨーロッパ諸国がメディアをコントロールするまで、接触を断つように要求した。デモ参加者は、「ロンドンで第二のテロが起こるように祈ろう」という呼びかけに対して公衆が憤慨した。
ドイツでも抗議が行われた。ミュンヘンで開催中の「安全保障会議」に対するデモにおいて、24人の参加者が逮捕された。理由は、集会規則違反と官憲侮辱の疑いである。警察は、「人殺しラムズフェルド」と書かれたプラカードを押収した。米国のラムズフェルド国防長官は、「安全保障会議」の参加者の一人である。警察は、1700名のデモ参加者からなる行列を停止させたが、その理由は、300人が行列から離れようとしたからである。主導者のクラウス・シュレーアは、警官の処置を「信じがたい弾圧」であると批判した。これに対して、警察の報道官は、介入は合法的であったと述べた。シュレーアは、演壇で、ラムズフェルドを人殺しと呼ぶのは正しい。なぜなら、「それは真実であり、侮辱ではないからである。」
〔訳者の感想〕ミュンヘンの「安全保障会議」がカリカチュア騒動と同時に行われたので、問題が複雑になっているように見えます。
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「イスラム急進主義と共産主義に共通点はあるか」と題するブレジンスキーの論説。

2005年12月05日 | イスラム問題
12月4日付『ワシントン・ポスト』紙に掲載。
アメリカ国民に向けて最近行われた一連の演説において、ブッシュ大統領は、現在のテロリズムの脅威と20世紀の共産主義的全体主義とを同一視しようと試みた。テロリストの挑戦は、範囲がグローバルであり、本性において「邪悪」であり、敵に対して無慈悲さであり、生活と思想のあらゆる点をコントロールしようとしている。だから、テロリズムに対する戦闘は、「完全な勝利」以外にはないと彼は主張する。
大統領は、テロリズムに言及する際、繰り返し「イスラム的」という語を用い、「イスラム急進主義の残忍なイデオロギー」と「共産主義のイデオロギー」とを比較した。
イスラム急進主義と共産主義によって引き起こされた類似の危険という大統領の診断は歴史的に正しいであろうか?それらの間の類似性よりも相違のほうがもっと明白である。
「共産主義のイデオロギーと同様、イスラム急進主義はわれわれの新しい世紀の大きな挑戦である」と主張することによって、ブッシュは、暗黙の内に、オサマ・ビン・ラディンの地位と歴史的重要性をレーニンやスターリンや毛沢東と同等であるとしている。そしてそのことは、洞窟の中に潜んでいる(あるいは既に死んでいる)サウディ・アラビアからの亡命者が普遍的な重要性をもつ教説を述べていると示唆することになる。大統領のアナロジーによれば、ビン・ラディンの「ジハード」(聖戦)が国家や宗教の境界を越えて何千万にもの人々の心を支配する力を持っているということになる。これはビン・ラディンに対する全くのお世辞であって、正しいとは認められない。「イスラムの聖戦」は、せいぜい世界の多くの人の共感を殆ど得ない断片的で限られた運動に過ぎない。
これと比べて、共産主義は、疑いもなく、世界的なアッピールを持っていた。1950年代まで、その国がキリスト教的であるか、イスラム的であるか、ヒンヅー教てきであるか、ユダヤ教てきであるか、仏教的であるか儒教的であるかとは無関係に、行動的な共産主義運動がない国は世界に一つもなかった。ロシアや中国のようないくつかの国では、共産主義運動は、最大の政治的な組織であって、知的言説を支配していた。イタリアやフランスのような、民主主義国では、それは開かれた選挙で政権を争った。
産業革命によってもたらされた混乱と不公正の対して、共産主義は、完全に公正な社会というビジョンを提供した。確かに、そのビジョンは間違っており、ときにソヴィエト連邦の強制収容所や中国の再教育のための強制労働所や他の人権侵害に通じる暴力を正当化するのに使われた。にもかかわらず、共産主義の未来像は、文化的相違を越えたアッピールを生み出した。
それに加えて、共産主義イデオロギーの知的政治的挑戦は、巨大な軍事力によってバックアップされていた。ソヴィエト連邦は、巨大な核の貯蔵庫を持ち、アメリカに対して数分かかれば発射する能力があった。
現代のテロリズムは、イスラム的であろうと他のものであろうと、犯罪的であるけれども、共産主義ほどの政治的なリーチは持っていないし、物理的な能力ももたない。ソノアッピールは、限られていて、近代化とグローバル化という新しいディレンマに対して難の答えももたない。「イデオロギー」をもつと言われるが、それは宿命論とニヒリズムの奇妙な混ぜ合わせにすぎない。アルカイダの場合、それは孤立した集団によって支えられているが、その行動は、法皇からサウディ・アラビアの聖職者にいたる多数の宗教者によって断罪されている。
その力も限られている。それが頼りにしているのは、ありふれた暴力の道具である。共産主義体制とは違って、アルカイダは、テロを間欠的な戦術として用いているだけで、組織的な道具としては用いていない。その構成員は、イデオロギーによってではなく、戦術によって束ねられている。最後に、アルカイダや他の関連したテロリスト集団が本当に破壊的な力を手に入れるかもしれない。だが、われわれは、可能性と現実性とを取り違えてはならない。
共産主義との類比は、短期的な政治上の利益は持つかもしれない。なぜならば、それは再び過去の恐怖に火をつけるかも知れない。しかし、恐怖を宣伝することは、重要なマイナス面をも持つ。それは恐怖に駆られた国民を作り出す。
特に問題なのは、ブッシュが最近の演説で、多くのモスレムにとってイスラム嫌い的な言語に響くものに依存している点である。彼は全体としてのイスラムについて語っているのではないと断っているが、「イスラム急進主義者の殺人的イデオロギー」とか「イスラム的急進主義」とか「戦闘的なジハディズム」とか、「イスラム・ファシズム」とか、「イスラムのカリフ制」にしばしば言及している。
このような用語法は、意図しない帰結を持つかもしれない。穏健なモスレムを動かす代わりに、繰り返しイスラムのテロリズムに言及することは、穏健なイスラム教徒に腹を立てさせ、ブッシュの反テロ・キャンペーンは、イスラム全体に対するキャンペーンなのだ思わせる。彼らは、北アイルランドのIRAやスペインのバスク独立運動を断罪する際に、アメリカが「カトリック・テロリズム」であるとは述べないことに気づく。
ただ一人主要な外国の政治家で現代のテロリズムの脅威のイスラム的側面を強調する点でブッシュに近いのは、ロシアのプーチン大統領である。プーチンは、自己決定を主張するチェチェン人の運動に対する彼の容赦ない戦争を正当化するのに、「イスラム・テロリズム」という表現をしばしば用いる。それによって、ロシア国内のモスレム人口との間に緊張を生み出している。
アメリカに対するモスレムの政治的反感とより広範で強力なイスラムの宗教的同一性との融合を生み出すことは、中近東におけるアメリカの利害に反する。
この融合は、以前に共産主義によってもたらされた組織的軍事的脅威と比較にすることによってテロリズムが蒙っていた弱点を補うファナチックな強度をテロリズムに与えることになる。大統領が、テロリスト集団を孤立化させ、彼らの自爆者リクルート・キャンペーンを無効にする政策を追求するのに失敗すれば、アルカイダや類似の組織の限界は変わるだろう。
中近東におけるアメリカのプレゼンスの軍事的な性格は、この変化を生み出すのに貢献するかもしれない。シカゴ大学政治学教授のロバート・ペイプは、現在の自爆テロリストの動機づけを分析した。多くの場合、攻撃者の基本的きっかけは、外国の侵入者に対する敵意であることを彼は証明した。最近のテレビとのインタービューで、彼は、「われわれの軍隊がアラビア半島に長く留まれば留まるほど、第二の9.11の危険が増大する」と結論した。
イスラム嫌い的な用語法や共産主義に対する勝利を思い出させることは、中近東を平和化するためにどのような政策が必要であるかを公衆に理解させるのに役立たない。
[訳者の感想]ブレジンスキーは、カーター大統領時代の国家安全顧問でした。ブッシュ大統領の演説が反って広範なイスラム教徒の反感を呼ぶことを指摘し、大統領に用語に気をつけよと注意しているのです。ライス国務長官には出来ないようです。

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「パキスタンがタリバン化しそうだ。」という『シュピーゲル』誌の記事。

2005年07月20日 | イスラム問題
小見出し:パキスタンの百万都市ペシャワールでは、議会はイスラム教宗教警察の投入を決議した。過激な聖職者の前進が進んでいる。批判者達は、かってのタリバン時代の隣国アフガニスタンと似た状況を恐れている。
ハンブルク発:州都ペシャワールの議会で、今週、場合によっては容易ならぬ予期せぬ出来事が起こった。世俗的な政党に所属する議員達は、いわゆる北西部州で宗教学者にとっぴな特権を認めるであろう法案のコピーを引き裂いた。その中には、宗教的風俗警察の設立案が含まれていた。
しかし、コピーの上にはコーランからの詩句と予言者ムハンマドの名前が書かれていたので、頑迷なイスラム主義者達は、反対者を「冒涜罪」で告訴するように要求した。これはパキスタンでは、死刑に値する罪である。
今回、議会で演じられた抗議は、北西部州では、将来、「ハスバ軍」(「釈明軍」というような意味)によって挫折させられるだろう。この種の宗教警察は、それほど遠くない時代に、タリバンの支配するアフガニスタンに存在した。そこでは、政権の手先は、市街の恐怖の的であった。
信仰監視者は、音楽カセットが見いだされた自動車を押収し、サッカー場においてさえお祈りの時間が厳守されているかうるさく監視した。女性は、袋のようなブルカを被らなければならなかった。拳一つ分の長さの髭を蓄えていない男性は、電気コードで殴られた。占い師や物乞いをする戦争寡婦も同様だった。
パキスタンにおける「ハスバ法」は、僧衣を着ていわゆる罪人達を追い回す聖職者達の独裁に等しいだろう。捕吏達の目についた者は、監獄と罰金で罰せられるはずである。
北西部州の世俗的政治家が恐れているように、この法律でもって、パキスタンのタリバン化が始まるだろう。特に女性達は、宗教的過激派の目標になるだろう。ペシャワールでは、キリスト教信者の女性達が、抗議のために鎖を体に巻いた。パキスタンの少数派の代弁者であるシャバツ・バッティは、聖職者達はもっと多くのことができるだろうと考えている。「この法律は、宗教的熱狂者を勇気づけ、あらゆる民主主義的制度をなくすだろう。」
昨日、木曜日に、この法律が州議会を通過した際、石器時代のイスラム主義者達は、「アラーは偉大なり」と叫んだ。イスラマバードの最高裁判所だけがこの法律の発効を阻止できる。しかし、58の宗教政党があるパキスタンでは、これは確実ではない。バザールのメッカであるペシャワールでは、彼らの中でもっとも過激な連中が多数派であり、彼らは、「ムタヒダ・マジリス・エ・アマル連合」(MMA)によって統合されている。
聖職者の連合は、北西部州とともに、アフガニスタンとの国境と2千万人を支配している。この地域は、部族地域とともにタリバンとアルカイダの外国人雇い兵に対して戦うアメリカ軍の前線である。テロの王様オサマ・ビン・ラディンは、この国境地帯の荒れた地方のどこかに身を潜めているとアメリカのテロリスト追跡者は推測している。(以下省略)
[訳者の感想]もともとタリバンをアフガニスタンに送り込んだのは、パキスタン軍であったということを読んだ記憶があります。イスラム原理主義は、むしろますます勢力を伸ばしているのではないでしょうか。
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