杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

第37回蔵元を囲むしのだ日本酒の会

2011-09-19 17:48:57 | しずおか地酒研究会

 昨日(18日)は清水マリンビル多目的ホールで、37回目を数える『蔵元を囲むしのだ日本酒の会』が開かれました。

 

 

 昨年は『吟醸王国しずおか映像製作委員会』で製作支援を呼び掛けるブースを出展させていただき、多くの参加者のみなさんに温かい励ましをいただきました。

 映画制作はさまざまな自主制作の壁にぶちあたって一進一退を繰り返しており、今年、篠田酒店でチケットを買ったときは、「どのツラ下げて行けばいいんだ」の心境でしたが、静岡県内の酒販店さんが単独で開催する日本酒の会では最も勉強になり、地酒取材を始めてからほとんど欠かさず参加している思い入れの深い会。自分にとって“初心に戻れる場”でもあるんですね。今年は真っ白な心境で、ただひたすら試飲に没頭しました。

 

 蒲原のよし川さんが特別な酒肴料理をお弁当にして用意しておられたのですが、結局一度もテーブルには着席せず、固形物を一切取らず終いでした。こ~んな呑み方をしているから、今朝は胃も肝臓も重苦しくて調子が悪い・・・(苦笑)。

 

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 篠田酒店が提供した酒が90種。これに参加蔵元が持参した秘蔵酒を加え、100を超える種類がそろい、すべてを試飲し尽くせたわけではありませんが、さすが篠田さん、「斗瓶囲い」「生原酒」「出品酒」「超熟成酒」などなどレアものぞろい。静岡酒ファンの方なら「食事をする時間がモッタイナイ」心境をきっと理解してくださると思います。

 

 

 今回、とくに感動したのが、國香・純米大吟醸秘蔵酒平成12年(11BY)。こんな酒を11年も保存していたなんて篠田さんらしさバクハツ(笑)。しかも目隠しして飲んだら、今年の酒かと思えるほどフレッシュでみずみずしくて、静岡酵母HD-1を極めた國香さんらしさがまったくブレず、ハッキリした輪郭を持って存在していました。

 

 長期熟成酒の中には、酒本体の力が弱く、劣化したものを、“熟成”と称して付加価値にしたものもあります。また「静岡酵母の酒は酸が低いので熟成に耐えられない」という声を聞いたこともあります。でもこの酒を呑めば、真に力のある酒とは何たるかが理解できるような気がする。完璧な低温貯蔵で國香・松尾晃一杜氏の力量を正しく伝えた篠田さんの功績にも拍手です!

 

 

 國香の隣に陣取っていた喜久醉も、純米大吟醸松下米40と純米吟醸松下米50の、それぞれ平成21BYと22BY(来月発売予定)の呑み比べというぜいたくをさせてもらいました。松下米シリーズは早春に仕込んでから秋の出荷まで7~8ヶ月熟成させるのですが、さらに1年置いたものは上質なビロードや絹織物のような肌触りを思わせるつややかさ・なめらかさが醸し出ています。

 

 

 これは何も偶然の産物ではなく、杜氏の青島孝さんは、7~8ヶ月後の味の変化、そのさらに1年後の変化を想定しながら仕込んでいるのです。松尾さんや青島さんの技術論を聞いていると、造り手当事者同士でなければ理解しえない感覚用語で語り合っていて、どこか科学的かつ芸術的な〈技の求道者〉に見えてきます。

 

 

 

 彼らのように一途で一本気な造り手には、その志を正当に評価し、支援できる売り手や飲み手がどうしたって必要です。そのことを、私自身20数年前に感じて地酒の取材を始め、しずおか地酒研究会を作り、活字や映像に残そうと突っ走ってきた。昨日のしのだ日本酒の会は、自分の活動の原点というか、エネルギーの源泉を自身で再認識したような、そんな場所でした。

 

 それもこれも、篠田さんが30年近く日本酒の会を続けてきてくれたおかげです。会場では先週行われた『静岡deはしご酒』実行委員長である山口登志郎さんと、はしご酒開催の成果や課題について少しお話しましたが、結局言えることは「とにかく続けてみること」。長く続けていく中で人は何かを発見し、改革をしていけるんだと思います。

 

 いずれにしても、しのだ日本酒の会のスタッフのみなさま、本当におつかれさまでした。お客さん有志が居残って、ホールをまっさらにしてシャッターを閉めるまで一生懸命片付けを手伝っていた姿にも感動しました。長く続く価値ある活動には、こうして黙っていても応援団がついてくるんですね。来年も素晴らしい会&“隠し酒”、期待しています!!