旅人ひとりー大阪大学探検部一期生のたわごとー

とこしえの精神(こころ)を求めて、さまよ(彷徨)う旅人ひとり。やすらぎを追い続け、やがてかなわぬ果てしなき夢と知るのみ。

蝶と村上春樹著・1Q84

2010-05-01 | 
音楽にくわしい人でも言い当てられる人が多くはないというチェコスロバキア人・ヤナーチェックの「シンフォニエッタ」の描写で始まり、タクシーの後部座席でこの音楽を理解し、その当時の世界情勢に思いを巡らせることが出来る「青豆」という変わった苗字を持つ若き女性。どういう物語がこれから展開してゆくのか、期待に胸が高鳴る出だしである。

去年の今頃は、「BOOK1」と「BOOK2」が発売前からすでに評判が高く、たちまちベストセラーに、そして大増刷された。今年4月半ばに出版された「BOOK3」は販売前から増刷決定との記事が早くも出ていた。

去年、友人から「蝶の話が出てきますよ」との知らせを受けて、早速覗いてみた。「BOOK1」第7章の「蝶を起こさないようにとても静かに」のタイトルが目に入った。麻布のお屋敷に住む七十代半ばの女主人(青豆に殺人とはばれない人殺しを依頼している)が庭にある温室で、珍しい蝶を数多く育てている。女主人と蝶たちは友達のような関係で、蝶は恐れをしらぬように女主人の体にまとわりつく。彼女は毎日、ここで蝶たちと会ってあいさつをして、いろんな話をするという。
「BOOK1、2」を通じて蝶が出てくるのはこの部分だけである。
著者はなぜ蝶をこの小説に登場させたのであろうか。

「蝶は時が来れば黙ってどこかに消えていく。きっと死んだのだと思うけど、探しても死骸が見つかることはありません。空中に吸い込まれるみたいに、何の痕跡も残さずにいなくなってしまう。蝶というのは何よりはかない優美な生き物なのです。どこからともなく生まれ、限定されたわずかなものだけを静かに求め、やがてどこへともなくこっそり消えていきます。・・・」

女主人の蝶についての上のような思いが、世間一般に抱かれている蝶への思いであろうと考えられる。優美でありながら、控えめで、はかなく・・・生きてきた痕跡も残さずに静かに消えてゆく。この小説の展開を暗示させるように、「おそらくこことは違う世界に」の言葉で女主人は締め括っている。

僕のような蝶好きにとっては、人気作家がこのような思いで蝶を登場させてくれていると知って、蝶って、そして蝶好き!!って、決してマイナーな存在ではないのだと意を強くした次第である。

でも本当は蝶ってしなやかでたくましいんですよ  
おまけに自分を主張する術を知っている生命力に満ち溢れた存在なのですけどね(^_-)



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