旅人ひとりー大阪大学探検部一期生のたわごとー

とこしえの精神(こころ)を求めて、さまよ(彷徨)う旅人ひとり。やすらぎを追い続け、やがてかなわぬ果てしなき夢と知るのみ。

アカエリトリバネアゲハ・名義タイプ亜種(ボルネオ島)

2017-07-01 | 
下の蝶の写真はTrogonoptera brookiana brookiana 、和名はアカエリトリバネアゲハで、本種が発見され、記載されたボルネオで撮影された。


ムシ屋対象の月刊誌の一つ「月刊むし」の目次ページに「今月のむし」なるコラムがあり、2017年6月号に僕の若い頃のこころ躍る話を載せていただいた。
以下が「アカエリトリバネアゲハ」と題するコラムの内容である。お読みくだされば幸いです。

 1964年,東京オリンピックが開催された年である。1ドル360円,日本が発展途上にあった時代に阪大探検部員の私は新聞社や各種企業に後援してもらい,先生を隊長とする遠征隊の一員としてサラワク(ボルネオ)へ出かけた。サラワクと言えば,ダーウィンと共に進化論で名を馳せたウォレスが当地で発見し,サラワク王国初代白人王,英人ブルックに因んで名付けた本種のタイプ産地である。今では普通種になったが,当時はマレー半島の標本さえ入手が困難であった。シジミ屋の私も,他のトリバネアゲハとは一味違う華麗さを持つ本種を絶対に採集してやると意気込んでいた。
 ところが,原住民の生活を調べると銘打つ調査隊であったので,毎日採集出来る訳でなく,目撃すら叶わない日々を送ることになったのが現実だった。大河レジャンの支流を遡って奥地の原住民の村に滞在し,調査の合間にネットを持って蝶を追いかけていると,子供達が物珍し気にぞろぞろついてくる。そして,ついに私のネットを取り上げ,自分達で捕るようになった。
 ある日,あまりの暑さに疲れ昼寝をしていたら,子供達に起こされた。「蝶々だよ!」の声に寝ぼけ眼で観ると,大きな翅の黒っぽい蝶がネットの中でばさばさ暴れている。一瞬金緑色の輝きが目を射た。瞬時に分かった。「ブルッキアナ!」。ずっと脳裏に描いていた幻の存在が目前にある。感動に震える指先にラジャ・ブルック(ブルック国王)の太い胸部の鼓動を感じる思いがした。私の喜びに周りの子供達が笑顔で応えた。子供達に先んじられた悔しさは,勿論なかった。どのような形であれ,サラワクを代表する蝶をわが手に出来た嬉しさで一杯だった。この時ほど,少年時代から持ち続けてきた趣味が世代と民族の違いを超え相通ずることを実感したことはなかった。
 2頭目は私の手でネットに入れたことを面目のために付け加えておきたい。
(大阪市立自然史博物館・外来研究員)


ボルネオのアカエリトリバネアゲハ・オスの吸水中の動画を見つけたので、下に紹介します。どうかお楽しみください。

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