旅人ひとりー大阪大学探検部一期生のたわごとー

とこしえの精神(こころ)を求めて、さまよ(彷徨)う旅人ひとり。やすらぎを追い続け、やがてかなわぬ果てしなき夢と知るのみ。

映画の中の蝶6、「潜水服は蝶の夢を見る」

2009-02-02 | 
懐かしいシャンソンの名曲「ラ・メール」と共に始まるこの映画はフランス語の原作「潜水鐘と蝶」という自伝に基づいて制作された。潜水鐘(英語ではDiving Bell)とはかつて使われた潜水装置で、金属製の鐘の形をした構造物で船舶などから水中に吊下ろされ、内部へ水上から管を通じて絶え間なく空気が送られ、搭乗者が呼吸を続けられるようになっていた。現在では使用されていないので、一般的に知られる「潜水服」という言葉に置き換えて冒頭のような題名にしたのであろう。
 
フランスを代表するファッション誌「ELLE」の名編集長として名を馳せていたジャン=ドミニク・ボビーは突然の脳血管発作で脳幹を損傷し、ロックトイン・シンドローム( lock - ed in syndrome 閉じ込め症候群)と呼ばれる身体的自由をすべて奪われた状態に陥る。「頭が鉄のように重く、全身が潜水服を着たように締めつけられる」 彼が表現した不自由さがこのタイトルの由来である。

最初は絶望に打ちひしがれていた彼だが、言語療法士や理学療法士の助けによって、唯一自由に動かせる左目の瞬きだけで、アルファベットを読み取ってもらい、自分の意志を伝えることが出来るとを知る。

・・・左目のほかにも麻痺していないのが二つある。「想像力」と「記憶」で僕は“潜水服”から抜け出せる。何だって想像できる。時代や場所なんて関係ない。自分の心臓の音が聞こえることがある。それは多分、蝶の羽音だ。僕には蝶の耳がある。未来を見ることができる。蝶になれるかも知れない。楽しみだ・・・

絶望の淵から立ち上がろうとするジャン。蛹の殻を破って、今まさに羽化せんとするトリバネチョウの姿がスクリーン上に大きく映し出される。やがて樹々の間を軽やかに飛び回る蝶。想像の世界で自由に遊んでいる彼のイメージを象徴している。映画のタイトルはまさしくこの状態をあらわしたものだ。

20万回にもおよぶ瞬きで、彼の自伝は綴られていった。家族や友人たちへの想いが詰め込まれ、詩的で豊かな表現があふれる感動的な自伝は大きな話題を呼び、フランスで大ベストセラーになっただけでなく、世界各国で翻訳され、世界的ベストセラーとなった。 しかし彼は自伝出版10日後に突然死去した。

ジャン=ドミニク・ボビーは自分の身に起きたことを“選ばれた”と感じ、逆境を生かし、あえて楽天的であり続けた。本来なら暗い辛い内容なのに、観客に希望を与える作品になっている。

彼は本を出版することにより大きな障害を乗り越えたばかりでなく、我々に日常生活の小さな障害に不満を言わず、生き続け乗り越えていくべきだということを身をもって示してくれたのだ。

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