旅人ひとりー大阪大学探検部一期生のたわごとー

とこしえの精神(こころ)を求めて、さまよ(彷徨)う旅人ひとり。やすらぎを追い続け、やがてかなわぬ果てしなき夢と知るのみ。

映画(TVドラマ)の中の蝶、9 「相棒(アゲハチョウ)」

2011-12-01 | 

「ヒマラヤの貴婦人」と呼ばれる「ブータンシボリアゲハ」の78年ぶりの再発見の模様がNHKテレビで放映されて間もない10月中旬、テレビ欄を見ていて、「アゲハチョウ」の文字に目が止まった。水谷 豊の刑事ものシリーズ「相棒」の再放送であった。タイトルが「蝶」なので録画しておいて後日ゆっくり楽しんだ。

J大学の宮本教授が発見、新種として記載した「ミヤモトアゲハ」。2個体しかなく、1個体はもちろん教授の元に、残る1個体はオークションで手に入れた蝶マニアが所有していた。その蝶マニアが殺され、標本は犯人により持ち去られた。その場面では標本箱のガラスが割れる音に続いてタタミの上に落ちた標本箱(画面ではガラスは割れていなかったが)の中でミヤモトアゲハの翅が衝撃でくねっていた(下の画像)。真の蝶マニアなら標本が壊れてもいいような乱暴な盗り方はしないのに・・・と思っていたら犯人確定への重要な伏線の一つであった。



事件の解決に乗り出した水谷と相棒の寺脇康文、ミヤモトアゲハの名を聞いて「繊細な造形と神秘的な色合いが印象に残った」という水谷はJ大学の研究室で蝶の標本を目の前にして、自称・虫博士の寺脇が蝶を数えて5匹というのを聞いて、「蝶は1匹、2匹と数えるのではなく、1頭、2頭と数えるのが正式なんですよ」 正式かどうかはともかく、水谷はうんちくのあるところを披露している。

もう一人、蝶マニアの男が出てくる。オークションで競り負け、宮本教授に標本を売ってくれと押しかけて来る。水谷と寺脇は彼の部屋を訪れる。カーテンで日光を遮った薄暗い部屋で多数の標本箱に囲まれて「ミヤモトアゲハ」「ミヤモトアゲハ」・・・・と取りつかれたように何回もつぶやく男。やはり蝶マニアはどこでも変人扱いである。「ひとたび蝶に魅入られた人間はその魅力から二度と逃れられないんですよ。蝶を手に入れるためなら、どんなことでもするようになるんです」 蝶マニアの言葉がその異常振りに追い打ちをかける。

一方、殺された方の蝶マニアはかつてM化学工業に勤めていた。水谷コンビはM化学に出向き、社長と専務に会社をやめた蝶マニアの社員が大阪に工場が新設される時に環境破壊を心配する地元住民と一緒になって建設に反対していたことを確認しようとするが、社長と専務はあくまで白を切り続ける。

やがて第二の殺人事件が起きる。唯一残された「ミヤモトアゲハ」の所有者、宮本教授が殺され、標本はもちろん姿を消していた。この事件の場面でも標本箱は床に落ち、ガラスは割れ、下に掲げた画像の如く標本は無残な姿をさらしていた。 絶対に蝶マニアの仕業ではない 僕は確信した。



第二の事件現場を訪れた水谷コンビは教授の助手から意外なことを聞かされた。研究室の一角から厳重に包装された標本箱が見つかり、存在する筈のない三つめの「ミヤモトアゲハ」が入っていたことと、教授が主宰する日本蝶協会の協賛企業に名を連ねていたあのM化学工業の専務に教授が「ミヤモトアゲは本当は新種じゃない」と告げていたことを・・・。

水谷は検索したパソコンの画面上で、M化学の大阪工場が操業開始1年にして閉鎖されていたことを知る。住民の反対運動を押し切ってまで新設した工場を短期間で閉鎖する・・・「」が
沸き上がるのは当然である。虫博士の相棒、寺脇がふと漏らした、台風によって運ばれて来る「迷蝶」の話にヒントを得た水谷はさらに紀伊半島では北西から南東へ独特の季節風が吹くことを知る。

紀伊半島の地図を目前に水谷はミヤモトアゲハの目撃地点と採集地点を風上、すなわち北西に辿って行った。そしてM化学の大阪工場のあった場所に行き着くことを見出した。宮本教授は自分の発見した蝶は新種ではなくて、工場の存在によって生まれた異常な個体(環境汚染によって生まれた奇形)だと考えたのでは、と水谷は推理した。イギリスのマンチェスターで、工場の煤煙によって付近の木々が黒く染まると保護色に利用するためにそこに生息している蝶に黒い個体が増えるとの論文(専門家により必ずしも肯定されているわけではない)があるのを聞いて、さらに水谷の確信は高まった。

水谷にあるアイデアが閃いた。宮本教授が秘蔵していた第3の「ミヤモトアゲハ」のオークションが開催された。上述の蝶マニアはもちろんだが、驚いたことにはM化学の専務まで競りに参加して値を吊り上げていった。競り負けた蝶マニアに代わって水谷が加わった。マニアではないはずの専務が何と1億1千万円で落札したのだ。常識では考えられぬ価格により「ミヤモトアゲハ」を何としてでも手に入れたい彼のただならぬ執念がはっきりと浮かび上がった。

オークション終了後の契約の場面で真相が明らかになる。第3の個体は宮本教授がまだ学生だった昭和50年、早くに世を去った友人が採集し彼にその研究を託したものだった。・・・ということはM化学の大阪工場ができる前から「ミヤモトアゲハ」は存在していて、環境汚染とはまったく無関係だったということである。教授の言った「ミヤモトアゲハは本当は新種じゃない」とは「本当は自分が採集した新種じゃない」ということで、亡くなった友の標本の研究を長い間ほったらかしにしていた負い目を感じていたからだろう。 

M化学の専務はこの事実を知り、会社を守るために二人もの命を奪ってしまった自分の愚かさに自嘲の笑いをもらす。警察へ連行される時に蝶マニアの男が「ミヤモトアゲハを譲ってください。お金はいつか払いますから」と懇願するように叫ぶのを聞いて、彼は「蝶だけに魅入られた君がうらやましいよ。君の人生が」そして水谷がつぶやく「幻の蝶を追い続ける人間、自分が作った幻に追われ続ける人間、いろいろですね」

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