トシコツメアシフタオシジミ Hypolycaena toshikoae H. Hayashi はフィリピン・ルソン島産の1個体のオスに基づいて記載された。その後長期間にわたって採集記録が無かったが、最近ミンドロ島・ハルコン山で多くのオスと少数のメスが得られている。複数のオスの標本を観察していたところ、斑紋が他の個体と比べて異なるオス1個体を見出した。この個体を詳細に
検したところ、オス交尾器形態にも違いが認められた。
上掲の画像に見られるように、異常型と思われる個体は翅形が他の個体と比較して、前翅外縁が中央部で外側に張り出している。また翅表では後翅1b、2、3室外縁部の黒班の形状が違う。すなわち通常は三角形状を成すが、本異常個体では基部に向かってあまり細くならず、四角形の上方がやや尖っている程度である。さらに裏面の地色が通常の個体より薄茶色がかるなどの相違がある。そこで交尾器はどうなっているのか、観察した。
上の図が トシコツメアシフタオシジミ のオス交尾器形態である。
一方、異常個体と思われる個体のオス交尾器の図を下に掲げる。
異常個体と思われる個体は、以下のような違いが確認された。
1.ヴィンクルム腹面中央は前方に向かって三角状に突出する。そのため腹面中央部が最も幅が広い。
2.サックスはヴィンクルムに重なり突出しない。
3.ヴァルヴァは同形だが、角状部先端に著しく長い一対の剛毛をもつ。
4.ファルスは短い。基半部は膨大する。先端部は、腹方に湾曲する。腹面の板状片は、硬化が弱く、癒合せずに二分岐する。表面のコルヌティは個々が大きく、やや列状になる。
外見からは個体変異の一環とも考えられるが、オス交尾器形態における変異もあるので、僕は追加の標本が得られるまで異常型として、この個体を記録することにした。
詳細は大阪市立自然史博物館研究報告 第69号に掲載されている。