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講義 急性酸塩基平衡障害

2012年03月01日 04時20分45秒 | 講義録・講演記録4

講義 急性酸塩基平衡障害

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

松田直之

 

酸塩基平衡の基本知識

 血液のpHは,ヘモグロビン酸素解離曲線,酵素活性,細胞内イオン環境,血管緊張,心拡張能などに影響を与える因子である。血液pHは,Henderson-Hasselbalchの式(pH=6.1+log〔[HCO3-]/(0.03×PaCO2)〕)としてHCO3-とPaCO2 の比で示され,7.40±0.05の狭い範囲に代償機構により調節されている。
 生体内で産生されるCO2によるH+量は,成人で1日量15,000~20,000 mEq/dayと見積もられるが,正常ではCO2が呼気中に拡散し,体内には酸として蓄積しない。その一方で,1日の食事や細胞内代謝で生じる硫酸,硝酸,リン酸などの不揮発性酸からのH+量は,1mEq/kg/dayである。このようなH+の腎臓からの排泄は,HCO3-のとの反応による尿pH低下(H2CO3産生),リン酸イオンなどの滴定酸排泄(H2PO4-産生),アンモニウムイオン排泄の3つの方法によって行われ,主としてアンモニウムイオン排泄により酸排泄が増加する。
 一方,CO2 は呼吸性調節により速やかに体外に排泄され,これが理学所見で呼吸数を時系列で観察する一つの意義となる。急性呼吸不全などで貯留したCO2は上述のように腎でH+として排泄される一方で,敗血症などの嫌気性代謝が促進する病態ではH+ + HCO3- ⇄ CO2 + H2Oの平衡式によりH+ をCO2として過換気で排泄し,血液pHを7.35~7.45の範囲に維持する。このように,血液pHは呼吸性因子と代謝性因子により調節されており,この異常は呼吸性アシドーシス,呼吸性アルカローシス,代謝性アシドーシス,代謝性アルカローシスの4つに分類され,血液pHが実際に酸となる「アシデミア」や,アルカリとなる「アルカレミア」と区別して評価する。

治療:酸塩基平衡障害

1.呼吸性アシドーシス

 肺疾患,呼吸筋異常,呼吸調節の異常によりPaCO2が上昇し,pHが低下する。治療には,適切な肺胞換気の回復が必要であり,呼吸病態の評価と理学的補助が必要となる。

2.呼吸性アルカローシス

 虚血や全身性炎症に伴う代謝性アシドーシスの代償や,過換気症候群として認められやすい。代謝性アシドーシスの代償に対しては,原因検索と根治的治療が優先される。過換気症候群では,従来行われてきたペーパーバッグは回復時に低酸素血症を起こすなどの危険性より推奨されない。過換気症候群では,安静に加えて,ドルミカム注(1回5 mg 静注)が推奨される。気道確保を必要とする場合がある。

3.代謝性アシドーシス

 代謝性アシドーシスは,H+の産生増加,H+の排泄低下,消化管や腎臓からのHCO3- 喪失により引き起こされる酸蓄積傾向である。酸負荷が呼吸性代償を上回るとアシデミアとなる。この原因は,アニオンギャップ(AG:Anion gap) = Na+ - ( Cl- +HCO3-)〔正常:12±4mmol/L〕によって分類される。
 高アニオンギャップ性代謝性アシドーシスの最も一般的な原因は,乳酸アシドーシス,ケトアシドーシス,腎不全,および毒素である。このうち,A型乳酸アシドーシスは,嫌気性代謝でH+と乳酸が過剰に産生される病態であり,ショックや重症敗血症における虚血による。一方,組織虚血を認めない正常状態で生じるB型乳酸アシドーシスとして,運動やけいれんなどの筋肉由来,アルコール摂取,癌,ビグアナイド類などの薬物(例,フェンホルミン,メトホルミン),ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬などが知られている。さらに,型糖尿病,慢性アルコール中毒,栄養不良,および絶食では,ケトアシドーシスが生じやすい。これらの病態で,ブドウ糖から遊離脂肪酸(FFA)への代謝転換が行われると,FFAは肝臓でケト酸,アセト酢酸,βヒドロキシ酪酸などへ変換され,これによりAGが増加する。また,腎不全は,腎でのH+排泄およびHCO3-再吸収の減少により,硫酸塩,リン酸塩,尿酸塩,および馬尿酸塩などが蓄積し,高アニオンギャップ性アシドーシスとなる。最後に,メタノール(ギ酸塩),エチレングリコール(シュウ酸塩),パラアルデヒド(酢酸塩,クロロ酢酸塩),サリチル酸塩などは,酸性代謝産物として代謝性アシドーシスの原因となる。
 一方,正常アニオンギャップ性アシドーシスの最も一般的な原因は,腎や消化管からのHCO3-喪失および腎のH+排泄障害である。腎性の正常アニオンギャップ性代謝性アシドーシスでは,腎臓がNa+とHCO3-を再吸収する代わりにCl-を再吸収することで,高塩素性アシドーシスとなりやすい。また,消化管分泌物はHCO3-に富むため,下痢,瘻孔,ドレナージなどからの消化管液の喪失はHCO3-減少によるアシドーシスが誘導される。さらに,腎尿細管性アシドーシスは,H+分泌(型および型)またはHCO3-吸収(型)のいずれかが障害されることで生じる。
治療
 原疾患の治療を優先する。腎不全や,エチレングリコール,メタノール,およびサリチル酸などによる中毒では血液浄化法が必要となる。さらに,pH 7.20以下,base excess(BE)-10 mmol/L以下,高K血症を認めた場合には,アルカリ化剤の投与を考慮する。

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使用例: メイロン注(8.4%) HCO3-

投与必要量(mL)= 増加させたいBE × 体重(kg)✕ 0.2 初回半量を静注または点滴静注

※  pHとBE(Base Excess)を投与後に評価して,追加投与を検討する。

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4.代謝性アルカローシス

 代謝性アルカローシスは,消化管からのH+の喪失(嘔吐,塩素性下痢,緩下剤乱用),腎からのH+の喪失(原発性アルドステロン症,二次性アルドステロン症,バーター症候群,ギテルマン症候群,サイアザイド,ループ利尿薬,低K血症,低Mg血症),HCO3-過剰としてミルク-アルカリ症候群などが原因となる。塩素喪失による代謝性アルカローシスは塩素反応性と呼ばれ,これは生理食塩水の静脈内投与で治療しやすい。一方,塩素不応性代謝性アルカローシスは,Mg欠乏,K欠乏,またはミネラルコルチコイド過剰が関与し,これらの修正が必要である。
 この治療指針の鑑別として,尿中K濃度測定と高血圧所見が有用である。尿中K排泄 30mEq/日未満は低カリウム血症または緩下剤乱用を示唆し,尿中K排泄30mEq/日以上で高血圧がなければ,利尿薬,バーター症候群,ギテルマン症候群を疑う。尿中K排泄が30mEq/日以上で高血圧を伴えば,高アルドステロン症,ミネラルコルチコイド過剰,および腎血管病変の評価が必要となり,血漿レニン活性,アルドステロン濃度,およびコルチゾル濃度を評価する。アルドステロン分泌が亢進している場合には,低K血症により代謝性アルカローシスが導かれやすい。
 治療には,体液量とKの補正が不可欠となる。実際に,アルカレミアを呈している場合には,Ca2+の蛋白結合が亢進する可能性があり,血管攣縮性頭痛,不整脈,冠動脈攣縮,心拡張不全,神経筋接合部興奮,テタニー,痙攣などの発生の可能性がある。低カリウム血症が同時に進行すれば,脱力状態となる。心不全,肝硬変,ネフローゼなどに伴う二次性アルドステロン症として,体液量過剰が存在する場合は,血液浄化法を考慮する。アセタゾラミド250~375mgを1日1回または2回,経口投与または静注するとHCO3-排泄が増加するが, K+とPO4-の尿中喪失が促進される可能性があり,両者の補正を併行する必要がある。

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