パルス波形・A-line波形のショック管理への応用
京都大学医学系研究科
初期診療・救急医学分野
松田直之
パルスオキシメータやA-lineの圧波形において,① 波形の呼吸性変動(循環血液量),② Percussion waveの立ち上がり角(dp/dt:心収縮性),③ 第1波形下面積(stroke volume:1回心拍出量),④ 第1波形下面積の呼吸性変動(循環血液量)⑤ Dicrotic wave(体血管抵抗),⑥ 脈圧(波形高)を連続して観察するとよいです。これを,ろくろMATSUDA法(パルス6苦労作戦:くるくるとろくろを回るように,治療の時系列で,パルス波形を監視し続けること),時折振り返る(だるまさんがころんだ法)などと命名しています。この方法を私が独自に論理化して,意識しはじめたのは,1994年の砂川市立病院時代であり,1990年代後半以来,教育や管理に用いて来ました。
心タンポナーデや緊張性気胸は,呼吸による脈圧変動として「奇脈(pulsus paradoxus)」が認められる代表病態です。吸気時に脈圧(収縮期圧―拡張期圧)が10 mmHg以上低下する病態が「奇脈」ですが,循環血液量低下でも,A-line波形に奇脈や強い収縮期血圧の呼吸性変動が観察されます。心収縮性低下では,dp/dtが低下します。さらに,大動脈弁狭窄症のような1回拍出量の低下した病態では,第1波形下面積が輸液に反応せずに小さい状態が続きます。波形下面積は,1回心拍出量に比例して大きくなります。そして,交感神経緊張と体血管抵抗の評価としては,dicrotic waveを観察します。Dicrotic waveが存在すれば体血管抵抗は高く,dicrotic waveが存在しなければ体血管抵抗は低い。このように,A-lineの波形観察では,呼吸性変動の程度,dp/dtの変化,波形下面積,dicrotic wave に着眼するとよいです。それ以外の細かな観察は,緊急時には不要です。
このような波形管理は,アナフィラキシー,敗血症,神経原性ショックなどの血流分布異常性ショックの評価に有効です。血管拡張により体血管抵抗が減じた際には,dicrotic waveが消失し,呼吸性変動が強まり,dp/dtが低下し,波形下面積が減少します。ノルエピネフリンなどのアドレナリン作動性α1受容体作動薬,またはバゾプレシンなどの血管収縮薬を使用する際にはdicrotic waveを観察し,dicrotic waveが生じれば体血管抵抗が上昇したと評価します。また,輸液によるショック治療の反応性評価として,輸血や急速輸液の際には波形の呼吸性変動とdp/dtの改善を観察することを,ダイナミックモニタリングとして重視して教育しています。心機能が悪い場合や血管拡張が極めて強い場合には,輸液によるdp/dtの上昇が得られにくく,心原性ショックなどの要因をエコーで評価することになります。心エコーについての教育システムも整えます。