masumiノート

何を書こうかな?
何でも書こう!

請負人 越後屋 №7

2010年05月04日 | 作り話
「あー、気持ちいい~♪」
バンザイをするように両手を上げて大きく息を吸い込むその横顔は、あの部屋の中での第一印象とは違って純朴そうに見える。

しかし、それもつかの間
「ねぇ、あの中藤ってどうよ?」

「どうとは?」

「いや~ね、とぼけちゃって!・・・嫌味なヤツだと思わない?」

「いや・・」

「だって、実の子がいるかどうかなんて、あんなの、分かった上で訊いているのよ。人が心の奥に隠しておきたい事をワザと穿り出してサ・・・」
「ヤダねったらヤダね♪」
最近流行のフレーズを口ずさむ。

「あ。それから最初に言っておくけど、私はアイツに雇われている訳じゃないから」

「?」

「表向きはそうなっているけど、私の真の雇い主はミスターX」
「三沢家は代々ミスターXに仕えているの」

「代々?」

「ふふ、年齢的に有り得ないわよね・・・だからミスターXなの」


海岸で波と戯れている親子連れを眺めながら三沢がつぶやく。
「自由でいいわね・・・」

「貧乏人は金持ちのことを羨ましがるけど・・お金なんていくらあったって意味が無いわ」


「こう見えても、私って結構お嬢様育ちなのよ。使用人が何人かいるような屋敷に住んでいたの」

「祖父は満州からの引揚者でね、満州では呉服問屋をやっていたらしいわ・・・表向きはね」
「終戦の前の年に帰国しているってことは、何らかの情報を掴んでいたんじゃないかしら?」

「・・・あのね、私の父と母は政略結婚だったらしいのよ。でも本当は、父には他に付き合っている女の人がいたみたい。だけど祖父の命令には逆らえない・・・」

「そんな結婚はお互い不幸よね。・・・父の心には他の誰かが居る・・・母は寂しかったんだと思うわ・・・それでね・・聞きたくも無いのに教えてくれる人が居てね・・・母には何人もの男が居たらしいのよ。・・・そうして生まれたのが私」

「我が子が育つにつれて様子が変だと分かるじゃない・・・罰が当ったんだと自分を責めて、精神を病んだ母は死を選んだ・・・」

「母が亡くなってから、古くからの使用人のトキさんが私の面倒を見てくれてね・・・トキさんが生きている間は良かったんだけど、トキさんが亡くなってからはもうひとりの使用人が我が物顔に振舞って、それは別にいいんだけど・・・新しい使用人が入る度に私を見せるの」

「これ、面白いでしょ。大人になったらここも成長してちゃんと役目を果たすのかしら?なんてね」


私はどんな顔をして聞いていたんだろう。

「祖父に言えばそんな行為は収まるのは分かっていたけど、そんな事をしたら、彼女達がクビになるだけでは済まないのが分かっていたから黙っていたわ」
「でも、私が5つになった頃かな。父が再婚してね。そう、ずっと好きだった人とね」
「その彼女が、使用人たちの私へのいたずらに気が付いてくれて・・・家のことは全て私がやりますからって、祖父を説得して使用人たちを辞めさせたの。もちろん、私にしていた事は内緒でね」
「彼女は若いときの病気が元で子供が生めない身体だったみたいでね、それも祖父に反対された理由のひとつだったみたい」
「だからかどうかは知らないけど、私のことはとても可愛がってくれたわ・・・もうみんな死んじゃったけど・・・」

「あら、ヤダ!私ったら又余計なことを・・・」

「えーっと、どこまで話したっけ?・・そうそう、真の雇用主は中藤では無いから、もしかしたら中藤を裏切ることになるかも知れないってことね」
「貴方はその時に慌てないで、私の指示に従うこと。いい?」

「いいも何も、私には何が何だか・・・」

「まあ、そうよね。・・・そうね、強いて言えばミスターXは全ての石油会社より上に居る立場なの。と言っても全てを手中に治めているわけじゃないけど」
「中藤は会社の方針に従って動いていると思っているけど、そうじゃなくて、いくつかの石油会社はミスターXの駒ってこと。」
「まぁ、今後暫くは日の丸石油、じゃなくて太陽光線グルグル石油主導で動いていくことになるんだけど、でも、この先どう進んでいくのかは、ミスターXの気分次第なの」
「今回の合併はキラキラダイヤ石油が投資したベトナムのアレを捨てるのが惜しかったからなんじゃないのかな?」

「あー、それはそうと、マー君の会社、キラキラダイヤ石油、ダメじゃん。粉飾決算なんかして!」

「越後屋がこの仕事を請け負って、私も担当させてもらって初めて知ったんだけど、GSってオカシイわよねぇ。ガソリンを売った後に、先月は○○円で売ったから仕入値は△△円にしてくれ~なんていう交渉で値段を決めるんですってね?!」

「だけど特石法が廃止されて、大手商社が輸入を始めて市況が乱れるとともに、石油会社も今までのように特約店や販売店の面倒を見切れなくなったのよねぇ?」

「それにしても、キラキラダイヤ石油は酷いって。特約店への事後調整分を全部翌年度に廻して決算をしていたから、あとからあとから債務がボロボロ出てくるので、もう大変だったって、私たちの仲間が愚痴ってたわよ」


「すまない。しかし言い訳になるかも知れないが、私は経営陣たちからは疎んじられていて、その事に関しては何も知らされていなかったんだ。」

「ふん、知っているわ。全くキラキラダイヤの経営陣ときたら後片付けも自分で出来ないんだから」

「それはそうと、特約店の方も整理されつつあるの、知ってるでしょ?合理的にやっていく為には数を減らす必要があるもの。だから、元売が選別した特約店だけを、取りあえず、残す。」
「方法としては、元売が建てた新設のGSを特約店に運営させ、元売の役員を天下りさせて資本注入。・・・そのうち真綿で首を絞めるように徐々に事後調整などには応じないで経営を悪化させていく。そして最終的に元売が選別した特約店に吸収させちゃうわけ」

「例えば、選別から外れたA社。これをどこに面倒を見させるか・・・ピックアップされた数社の中から選ぶんだけど、何もお土産が無いんじゃあ、どこも引き受けてくれるわけ無いじゃない?A社にはお土産になるガス事業がある。そこで、ガス事業を欲しているB社に渡りをつけるわけ」

「そういった関係のことも我ら越後屋が請け負わせて頂いてま~す♪」
首をすぼめてひょうきんに笑う三沢を見て、石崎は立ち尽くしていた。

「で、石崎マー君には、これから政界への働きかけや他の元売首脳陣との交渉をしてもらうことになるわけ。ここまではいい?」

「何とか」

「よろしい。 ナンチャッテ(笑)」
「今後の具体的な指示は又その都度連絡するから、今日はここまでね。帰りの車はさっき手配しておいたからね、じゃあ、又ね~」

つづく



※この物語はmasumiさんの被害妄想に基づくフィクションです(^^;
実在の人物及び団体とは一切関係ございません。

尚、加筆修正及びキャラの変更等もあるやも知れませぬことをお断り申しておきまする(^^;

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。