米コロンビア大学とオランダ・デルフト工科大学の研究チームが開発した「Application of a sub–0.1-mm3 implantable mote for in vivo real-time wireless temperature sensing」は、超音波で電力供給と無線通信を行う超小型の温度センサー搭載シングルチップだ。総体積0.1立方mm以下という、塩つぶやダニに匹敵するサイズで、注射針で体内に移植し、生体信号のモニタリングを目指す。

 体温、血圧、ブドウ糖、呼吸などの生理的状態を監視する体内埋め込み型医療機器は、何百万人もの人々の生活の質を向上させている。

 これまでの埋め込み型医療機器は、一般的に複数のチップ、パッケージ、ワイヤ、外部トランスデューサーが必要で、バッテリーも多く必要としている。

 研究チームが開発したシングルチップシステムは総体積0.065立方mm 。サイズは食塩の粒やダニに匹敵し、顕微鏡でないと見えないほどの小ささだ。このサイズを実現するために、超音波を利用したデバイスへの電力供給と無線通信の両方を行った。

 従来のRF通信では電磁波の波長が大きすぎるため、このような小さなデバイスでは通信ができなかった。超音波なら電力供給や無線通信が行える。

 デバイスには、低消費電力のカスタム温度センサーチップと、その上にマイクロスケールの圧電振動子を設置。これにより超音波エネルギーを利用した電力供給と、後方散乱を利用してデータの伝送が行えるようになった。

 実験ではマウスの脳と後肢の2箇所に埋め込み、温度検出性能を評価した。坐骨神経に刺激を与えたマウスの脚の温度上昇を局所的に測定するための実験も行った。脳と後肢への埋め込みは、頭部や脚を切り開き挿入。1-nW以下の消費電力で50-mK以下の温度分解能と精度を示したという。

 皮下注射針でチップを埋め込む実験も行った。マウスの大腿骨のすぐ下にある坐骨神経を狙って生理食塩水とともに注射し、後で切り開いて確認したところ、坐骨神経のすぐそばに配置しているのを確認した。

 将来的には、皮下注射針で人の体内に注入したチップが超音波を使用して体外と通信し、局所的に測定した生体情報を取得できるようにするという。

※この記事は、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。