孤族の国の私たち
朝日新聞紙面で連載スタート
http://www.asahi.com/special/kozoku/
社会のかたちが変わっている。恐るべき勢いで。
家族というとき、思い浮かべるのは、どんな姿だろう。父親、母親に子ども2人の「標準世帯」か、それとも夫婦だけの世帯だろうか。今、それに迫るほど急増しているのが、たった1人の世帯だ。「普通の家族」という表現が、成り立たない時代を私たちは生きている。
外食産業、コンビニ業界、インターネットなどにより、昔と比べて一人暮らしは、はるかにたやすくなった。個人を抑え込むような旧来の人間関係から自由になって、生き方を自由に選び、個を生かすことのできる地平が広がる。
だが、その一方で、単身生活には見えにくい落とし穴が待ち受ける。高齢になったら、病気になったら、職を失ったら、という孤立のわなが。血縁や地縁という最後のセーフティーネット、安全網のない生活は、時にもろい。
単身世帯の急増と同時に、日本は超高齢化と多死の時代を迎える。それに格差、貧困が加わり、人々の「生」のあり方は、かつてないほど揺れ動いている。たとえ、家族がいたとしても、孤立は忍び寄る。
個を求め、孤に向き合う。そんな私たちのことを「孤族」と呼びたい。家族から、「孤族」へ、新しい生き方と社会の仕組みを求めてさまよう、この国。
「孤族」の時代が始まる。
家族に頼れる時代の終わり
あの出来事は、日本に住む1億2700万人のごく一部の人々に起きたことだった。だが、足元の地面が崩れ落ちていくような感覚を味わった人も多かったはずだ。
住民票や戸籍という紙の上だけで生きる「所在不明高齢者」が全国で見つかった。大阪で実の母親が2人の子を餓死させた。各地の高齢者が次々と熱中症で世を去った。
いま、この国で、何かが起きている。
■未来予想図
今年、国勢調査が行われた。結果が発表されるのは来年だが、研究者たちが注目しているのは単身世帯率と未婚率の増加だ。今回の調査で、1人世帯が「夫婦と子どもからなる世帯」を上回るのは確実視されている。
単身化は今後、さらに勢いを増す。みずほ情報総研の藤森克彦主席研究員は著書「単身急増社会の衝撃」で20年後の日本の姿を描いた。50~60代の男性の4人に1人が一人暮らしになり、50歳男性で3人に1人は未婚者……。単身化自体は個人の自由な選択の結果であり、否定すべきことではない。その半面、高齢の単身者は社会的に孤立し、様々なリスクに無防備になるケースが多いのも事実だ。
単身化に加え、雇用が崩壊し、地域共同体の輪郭が薄れ、家族の中ですら一人ひとりが孤立している。
55歳、軽自動車での最期 連載「孤族の国」
駐車場に止めてあった軽自動車の中から男性の遺体が見つかったのは、6月25日のことだった。3カ月間、放置されていた車のドアミラーには、ツタのような植物が絡みついていた。
神奈川県逗子市の公園の一角。駐車場の前は県立高校、隣には保育所がある。毎日、高校生や親子連れら数百人もの人が車の前を行き来していた。だが、犬を散歩させていた近所の男性が「臭いがする」と通報するまで、警察や市に連絡はなかった。
後部座席に敷かれた布団で寝たまま、遺体はすぐに身元が分からないほど腐乱していた。DNA型鑑定で身元は特定できたが、遺体の引き取り手がおらず、逗子市が火葬して遺骨を預かっている。
佐藤正彦さん、享年55。なぜ、このような最期を迎えたのか。引き取り手のない「行旅(こうりょ)死亡人」として官報に記された以前の住所を訪ねた。
木製の窓枠がきしむ、2階建ての古いアパートだった。昔からの住人は、借金の取り立てが佐藤さんのところに来て、部屋を荒らしたのを覚えている。2001年ごろ、佐藤さんは荷物を残したまま、姿を消す。部屋の玄関に積まれたままのスポーツ新聞には、求人欄に印がつけられていた。
(続きは朝日新聞紙面でお読み下さい)
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かきかけ