報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「帰省の終わり」

2016-01-15 21:12:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月6日10:00.天候:晴 JR新宿駅中央本線ホーム 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。10番線に停車中の列車は、10時4分発、特急“あずさ”55号、白馬行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 未だ朝ラッシュの余波の残る埼京線電車に揺られ、降りた新宿駅も多くの人が行き交っていた。
 そんな中、ようやく帰りの特急が入線しているホームに辿り着く。
「イリーナ先生、グリーン車でいいよなんて仰るからお言葉に甘えてしまいましたけど、本当に良かったんですかね?」
「師匠がいいって言うならいいんだろう。それに、そこしか席は空いてなかったんじゃないの?」
「まあ、そうなんですけどね」
 稲生達は8号車に乗り込んだ。
 “あずさ”用のE257系車両のグリーン車は、半室構造になっている。
 即ち、乗降ドアが真ん中辺りにあって、そこから新宿寄りが普通席、松本・白馬寄りがグリーン席という塩梅だ。
 どうしてこうなった?と首を捻る鉄ヲタが多数いたそうな。
 車掌室も車両のど真ん中にある。
 稲生達の座席は、その車掌室寄りにあった。
 小柄な2人が座ると、大きな座席に埋もれてしまいそうだ。

〔「ご案内致します。この電車は10時4分発、中央本線特急“あずさ”55号、大糸線直通の白馬行きです。本日、大糸線の白馬駅まで参ります。停車駅は立川、八王子、大月、石和温泉、甲府、小淵沢、富士見、茅野、上諏訪、下諏訪、岡谷、塩尻、松本、豊科、穂高、信濃大町、終点白馬の順に止まります。発車までご乗車になり、お待ちください。……」〕

「実家の帰省はどうだった?」
 窓側席に座るマリアが聞いて来た。
「あ、はい。おかげさまで、ゆっくりできました」
「そう、か……」
 マリアは窓の外を見て、何か考え込んだ。
「私は魔道師になる時、師匠から余計な記憶を消されたり、操作されたりしたらしい」
「あ、はい。そのようです、ね……」
 その1つが、おぞましい堕胎の記憶だ。
「多分、私の実家に関しても、魔道師になるに当たって、余計な記憶だったんだろう」
「えっ!?ぼ、僕も何かされたのかな……?」
「そんなことは聞いてないし、私も儀式には参加していたが、特にそんなことをしたようには見えなかった。多分、ユウタは消去したり改竄すべき余計な記憶は無かったんだと思う。かなり珍しいことだけどね」
「そうなんですか……」
「親が魔道師のプロパーはそんなことする必要が無い場合が多いが、私達のような“中途採用”組は、余計な記憶を持っている場合が多い。その中には捨てるのは勿体ない記憶もある。だから大師匠は、『汝、一切の望みを捨てよ』と仰ってるんだと思う」
「なるほど……。その『望み』とは、記憶のことでしたか。人間時代の」
「私はそう思ってる」
「でも、そんな気がしますね」
 稲生は大きく頷いた。
 今日のマリアは比較的調子が良いらしい。
 調子が悪いと顔色が悪く、不機嫌な顔をしてあまり喋らない。
 それが今は、稲生に積極的に話し掛けてきている。

 いつの間にか列車は走り出し、中央線の快速電車とすれ違いながら、黄色い各駅停車を追い抜いたりしていた。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は中央本線、特急“あずさ”55号、白馬行きです。……〕

「実家に帰るってどんな気分なんだ?私にはもう無いから分からないんだ」
 と、マリアは聞いて来た。
「もしかしたらまだあるのかもしれないけど、魔道師としては余計なものらしく、無いことになってる」
「僕はちゃんとその記憶が残されて、イリーナ先生からも帰省するように言われてます。この違いは何なんですか?」
「……ユウタの御両親は、特段ユウタが魔道師になることに反対はしなかった」
「ええ。僕のやりたいようにやれと言ってくれました。といっても、両親は占い師程度にしか思ってないみたいです」
 実はイリーナは、魔道師にしては比較的表舞台に出ている方である。
 占い専門の本に度々、世界的な占い師として紹介されることがあるくらいである。
 稲生を勧誘した時、両親への話の際には資料としてそれを用いたことがあったくらいだ。
 だから両親は、息子が世界的に有名な占い師と知り合って、弟子入りしたくらいにしか思っていないだろう。
 大学は卒業しているので、もし“占い師”がダメになっても、一応ツブシは利くと思っているようだ。
「まあ、魔道師の何たるかを説明するだけで、物凄い労力が掛かるからな。それでいいと思うよ」
「ええ」
「多分、私の実家は最悪な家庭環境だったんだと思う。おぼろげな記憶なんだけど、私がハイスクールでヒドい目に遭わされていても、何の心配もしてくれなかったみたいだ。だから、魔道師になるに当たって、余計な記憶とされたんだと思うね」
「そうなんですか」
「ま、今となっては、どうでもいいことだ。もう私は魔道師のこと以外、イギリスに帰ることはないだろうし。ましてや、生まれ故郷のハンガリーの記憶なんて全く無いし」
「はあ……」
「日本もいい所だから、ここにしばらく住んでみるのもといいと思うしね」
「そうですね」
 稲生は笑み浮かべて頷いた。

[同日18:00.天候:雪 長野県白馬村郊外 マリアの屋敷1Fダイニング 稲生、マリア、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 師弟3人で夕食を囲む。
「あ、ユウタ君、お土産ありがとね」
「いえ」
「日本のサケ(酒)も美味しいからね。後で頂くわ。日本のサケは海鮮に合うからね」
 今日の夕食は肉料理がメインだったので、赤ワインにしたイリーナだった。
「実家ではゆっくりできたかしら?」
「おかげさまで」
「まだ実感無いと思うけど、魔道師になれば、自分は歳を取らない姿のまま両親の老いる姿を見て、見送らなければならなくなる。幸い稲生君の御両親からは御理解を頂けたから何もせずに済んだけど、それなら何も捨てる必要は無いわ。私のような師範格の者にとっては、良い才能を持った弟子を出してくれた生みの親には感謝してもしきれないくらい。元気なうちに姿を見せてあげるのは、当然のことだと思ってる。私はね。あいにくマリアはちょっと特殊な事情があるし、師範格によっては、そもそも生家自体を捨てよなんて考えている者もいるけどね」
「へえ……。何だか難しいですね」
「師範格は師範格で、色々大変なのよ。ま、とにかく、明日からは本格的に修行を再開するからね」
「はい。よろしくお願いします」
「精神力を使う修行が嫌というほど続くことになると思うから、今日のところはゆっくり休みなさい。精神力を付けないと、強い魔法を使うことができないからね」
「精神力。MP……マジックパワーですね」
 RPGによってはマジックポイントと呼ぶこともある。
「ま、そんなところかな。まずは、わざと疲れてもらう」
「えっ?」
「具体的には、まだ強い精神力を得ていないのに、無理して強い魔法を使うとどうなるかというのを体験してもらうわ。実際に魔法陣を描いてもらって、それを体験してもらうからね」
「は、はあ……。な、何か怖いですね」
「確かに、ちょっと大変だぞ。私も体験したが、本当に体が動かなくなる」
「そ、そんなに!?」
「まあ、心配しないで。すぐにアタシが回復魔法を掛けて、救護してあげるから。弟子の中には少し力を付けただけで、すぐ調子に乗って、強い魔法を使いたがるコもいるからね。本番で痛い目見るよりは、まだ練習段階で体験してもらった方がケガも少なく済むというわけ」
「そ、そうでしたか」
「師匠も意外とスパルタだから」
「マリア。マリアには、そろそろAクラスの魔法を覚えてもらうから」
「えっ、もうですか!?」
「当たり前じゃない。再登用(再・免許皆伝)されてマスター(一人前)になったんだから、Aクラスの魔法が使えなくてどうするのよ?」
「ま、それはそうですが……」
「“魔の者”が、いつ戻って来るか分からないのよ?稲生君にはCクラスの魔法から覚えてもらうけど、初心者でも結構キツいものがあるからね。今から言っておくわ」
「は、はい」
「というわけで、明日に備えて今日は早く休むことね」
「わ、分かりました」
「了解です……」

 稲生は不安そうな顔になり、マリアは面倒臭そうな顔をした。
(魔法陣にも色々なパターンがあるんだよなぁ……)
 稲生は、それまで読んできた魔道書の内容を思い出していた。
 よもや、新たな修行が新たな展開を呼ぶものになろうとは、この時はまだ知る由も無かった。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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つぶやき (作者)
2016-01-16 14:43:36
アメブロの方にも法華講員の作家さんがいらっしゃるらしい。
是非とも拝読したいと思ったが、アメンバー限定だそうで残念である。
返信する
つぶやき 2 (作者)
2016-01-16 18:49:31
軽井沢でバス事故を起こしたバス会社だが、公式サイトを削除しやがった。
普通ならそこでお詫びでも掲載するところだろうに、逃げの一手で行く心づもりらしい。
警備業だけではやっていけないからバス事業を始めたらしいが、バス事業部門が営業権を剥奪されたら、そもそも会社の経営が成り立たなくなるだろう。
バス事業部門であんな杜撰な管理をしていたのだから、恐らく本業の警備でも杜撰な労務管理をしていることは想像に難くない。

こういう不真面目な同業者は迷惑極まりない。
さっさと被害者に賠償を行って、業界から出て行ってもらいたいものである。
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