報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「高橋正義の消息」 3

2020-07-27 20:04:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月22日13:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所→都営地下鉄菊川駅]

 高橋の友人の木村という男から、高橋が羽田空港に向かったという情報を得た。
 あいにくと、そこからどこへ向かったかまでは、まだ分からない。
 全日空の乗客が利用する第2ターミナルへ行ったことから、高橋は全日空の国内線に乗ったというところまでは分かった。
 しかし、その行き先たるや……。

 愛原:「7時台の飛行機、多過ぎるぞ!」
 高野:「そりゃそうでしょう。羽田空港だって、その時間帯は朝のラッシュですよ」
 霧崎:「申し訳ありません。私はこれから御嬢様の御夕食の準備がございますので……」
 愛原:「ああ。何か分かったら、すぐに連絡するよ」

 霧崎さんは事務所を立ち去った。

 愛原:「こうなったら、一縷の望みに賭けるしかない」
 高野:「え?何ですか?」
 愛原:「ちょっとまた出てくる」
 高野:「あ、はい」

 私は再び事務所を出た。
 それにしても、最近は公衆電話が少なくなったものだ。
 私は菊川駅に行ってみることにした。
 高橋の友人の木村は、菊川駅の公衆電話から私のケータイに掛けて来たのだ。

 愛原:「あった」

 幸いそれはラチ外コンコースにあった。
 失礼、ラチというのは改札のことだ。
 忘れられているかのように、そこにポツンとあった。
 何だかそれだけで一話作れそうだと、作者の声がするような気がする。

 愛原:「えーと……高橋の電話番号は……と」

 スマホを見ながら公衆電話を掛けるの図。
 あー、くそっ!こういう時に限って小銭が無い!
 私はすぐさま近くの自販機で飲み物を買いつつ、それで小銭を作った。
 昔はこんなに不便だったんだなぁ……。

 老婆:「もしもし?菊川駅に着いたよ」

 あー、くそっ!
 そんなことしている間に先越された!
 昔はこんなこともあったなぁ!

 雲羽:「かつて顕正会東京会館には、建物の外の敷地内に会員専用公衆電話が10台くらい設置されていて、折伏という名の勧誘の段取りを取る会員達で大繁盛だったんですよ」
 多摩:「いきなりケンショー思い出話するなや!」

 老婆:「……うんにゃ?ここにお巡りさんが来るの?で、そのお巡りさんに300万円渡せばいいの?」
 愛原:「お婆ちゃん、それ、100パー詐欺!!」

 昔はこんな詐欺無かったぞ!

[同日15:00.天候:曇 愛原学探偵事務所]
 
 全く。
 詐欺事件を解決しちゃったせいで、余計な時間を取られてしまった。
 まあ、詐欺グループが高橋の仲間じゃなくて良かった。
 かくして警察官を装っていた受け子は、私が通報した本物の警察に、あえなく御用と相成ったのでした。
 その為の事情聴取に時間を取られてしまったのだ。

 高野:「それで、マサがどこに行ったか分かったんですか?」
 愛原:「奴は東京から出ていない。正確に言えば、東京都から出ていない」

 私の目論見通り、高橋は公衆電話からの着信には出た。
 どうやら木村を始めとする仲間達との定時連絡に、今は公衆電話を使っているのかもしれない。
 相手が私だと分かると、とても驚いた様子だった。
 そして私が居場所を問い詰めると、あっさりゲロッた。

 愛原:「八丈島だ」
 高野:「八丈島!?……あっ!」
 愛原:「そうなんだよ。八丈島を含む伊豆諸島は東京都なんだよ!だから、『東京を出ていない』ことになるんだ!」
 高野:「すっごいこじつけですね。でも、どうして八丈島に?」
 愛原:「分からない。切られてしまった。しかもあいつ、八丈島が目的地じゃないらしい。『また別の島に行くんス』なんて言ってた」
 高野:「青ヶ島ですか?」
 愛原:「……かもしれないな。だけど、目的は教えてくれなかった」
 高野:「でも、マサは無事なんですよね?」
 愛原:「無事みたいだが、やっぱり心配だ。俺達も行こう」
 高野:「行き先、決まって良かったじゃないですか」
 愛原:「ん?」
 高野:「忘れたんですか?」

 高野君は斉藤社長からの依頼書を見せて来た。
 そうだった!斉藤社長から仕事の依頼があったんだった。
 私はすぐに斉藤社長に電話した。

 斉藤秀樹:「ほお、八丈島ですか。確かに『都民は東京都から出るな』という小池都知事の意向に沿った行き先ですね」
 愛原:「ただの偶然ですよ。今から交通手段を確保しますので……」
 斉藤:「船と飛行機がありますよ。愛原さんならどちらにします?」
 愛原:「船なら夜行便ですね。今夜に出発します」
 斉藤:「すぐに船室を手配しましょう。帰りはどうします?」
 愛原:「まだ分かりません。高橋がどういう状況なのか、それ次第です」
 斉藤:「なるほど。人員は?」
 愛原:「えーと……引率者が私で、リサと絵恋さんですね。それと……」

 私は高野君を見た。
 しかし、高野君は両手でバッテンを作った。
 どうやら高野君は参加したくないらしい。

 愛原:「できれば霧崎真珠さんを」
 斉藤:「娘の専属メイドですか?」
 愛原:「はい」

 もしも霧崎さんが高橋と再会した場合、逃げた罰としてナイフで切り刻もうとするだろう。
 それを止められるのは、絵恋さんだけだ。

 斉藤:「分かりました。愛原さんの推薦でしたら、そうしましょう」
 愛原:「ありがとうございます」

 私は電話を切った。

 愛原:「こんな所でいいかぁ。高野君は本当に行かなくていいの?」
 高野:「ええ。私は私で、別に予定がありますから」
 愛原:「そうか」
 高野:「それより、リサちゃん達に教えてあげた方がいいんじゃないですか?今夜出発でしょう?」
 愛原:「それもそうだ。リサ達、もうすぐ学校から帰ってくるだろう。その時でいいんじゃないかな」

 しばらくすると、再びファックスがやってきた。
 斉藤社長からで、どうやら八丈島行きの船を予約してくれたらしい。
 予約番号が書かれていて、これをターミナルの窓口に持って行き、そこで乗船券を購入する流れだとすぐに分かった。

 高野:「斉藤社長の肝煎りですから、高い席かもしれませんよ?」
 愛原:「あっ、そうか!」

 もちろん、交通費などの掛かった経費は全て斉藤社長が払ってくれる契約になっている。
 とはいえ、基本的には立替払いとなり、後で請求する形だ。

 愛原:「娘の為に新幹線のグリーン車を予約するようなオヤジさんだったな。有り得る。現金は少し多めに持って行くぞ」
 高野:「そうしてください。宿泊代と帰りの交通費もお忘れなく」
 愛原:「分かってるさ」

 後で斉藤社長が報酬と一緒に全部払ってくれることは分かっているのだが、どうしても値段にビビってしまう私なのだった。

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