報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「藤野への旅」

2023-02-15 15:01:32 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月15日08時9分 天候:曇 東京都八王子市旭町 JR八王子駅→中央線1457M列車1号車車内]

〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の4番線の列車は、8時11分発、普通、大月行きです。この列車は3つドア、6両です。……〕

 ホテルをチェックアウトした私達は、JR八王子駅に向かった。
 どうも昨夜雨が降ったらしく、路面は濡れている。
 で、しばらくは天気のぐずつく日が続くらしい。
 今は雨が上がっているものの、まだ空はどんよりと曇っている。
 秋雨前線でもあるのか、日が差していないからなのか、いつもより涼しい感はある。

〔まもなく4番線に、普通、大月行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は、3つドア、6両です〕

 列車の接近放送が流れる。
 列車は隣の豊田駅が始発である。
 豊田駅には豊田車両センター(旧・豊田電車区)があり、そこから出区した列車である。

 

 思った通り、211系と呼ばれる、今となっては古めかしい車両がやってきた。
 オールロングシートかボックスシート付きかは完全に運次第である。
 尚、私達はそこまで遠方に行くわけではないので、どちらでも良い。

 

 まあ、やって来たのはボックスシートの付いた車両だった。
 松本行きとかに使われれば良いのだろうが、何しろ共通運用なので。

〔はちおうじ~、八王子~。ご乗車、ありがとうございます。次は、西八王子に、停車します〕

 列車に乗り込み、空いているボックスシートに着席した。
 リサは進行方向窓側に座り、足の長い高橋はその隣。
 私はリサの前に座った。
 リサはホームの自販機で買ったジュースを窓の桟に置き、バッグの中からポッキーを取り出して、それを齧り始めた。
 まるで遠足だな。

〔「普通列車の大月行きです。まもなく発車致します」〕

 緑色の座席に腰かけていると、発車メロディがホームから流れてきた。
 まだ朝なのに、“夕焼け小焼け”である。
 これは作詞者の中村雨紅氏が、この町出身だからだという。

〔4番線の、ドアが閉まります。ご注意ください。次の列車を、ご利用ください〕

 JR東海の車両だとドアチャイムが後付けで付いたらしいが、JR東日本のこれはまだドアチャイムが無い。
 大きなエアー音がして、ドアが閉まった。
 そして、ガクンと揺れて走り出した。
 ガクンガクンとした揺れも、古い電車ならではだろう。
 当然、インバータ制御の音など聞こえてくるはずもない。
 さすがは、旧国鉄時代末期に製造された車両なだけある。

〔「八王子からご乗車のお客様、お待たせ致しました。おはようございます。今日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。中央本線、普通列車の大月行きです。終点、大月まで各駅に止まります。次は西八王子、西八王子です」〕

 自動放送も無く、車掌が全て肉声で放送を行う。

 高橋「先生、善場のねーちゃんとは、藤野駅で?」
 愛原「いや、もう研修センターにいるんだってさ。だから、駅からタクシーで来てくれって」
 高橋「何か珍しいっスね」
 愛原「そうか?」
 高橋「いや、だって、ほら……。いつもなら、ねーちゃんも前泊とか、或いは駅まで車で迎えに来てくれたりとか、してくれたじゃないですか?」
 愛原「本当は俺達が車で向かうはずだったのに、どこかの誰かさんが免停食らったりするから……!」
 高橋「さ、サーセン!」
 リサ「わたしは電車でも車でもいいけどね」

 リサはジュースをくいっと飲んで言った。

 愛原「飲み過ぎて、トイレに行きたくなったらどうするんだ?」
 リサ「ん?こういう電車って、トイレ付いてるんでしょ?」
 愛原「あるけど、211系のトイレは和式だぞ?」
 リサ「! やだ!」

 リサは慌ててペットボトルの蓋を閉めた。
 すると高橋がニヤリと笑って……。

 高橋「よし。俺がトイレに行きたくなる話をしてやろう」
 リサ「何も聞かない。何も聞こえない」

 リサは耳を塞いだ。

[同日08時33分 天候:曇 神奈川県相相模原市緑区小渕 JR藤野駅]

 高尾から先は、車窓が一変する。
 それまでは、いかにも東京都郊外といった感じの風景だったのに、いきなりローカル線といった感じである。
 駅間距離も長くなるし、何より山中を走行するので、トンネルが断続的に続く。
 コロナ対策で窓が開けられていると、トンネルに入る時に強い風が吹き込んで来るのである。
 これは電車だからそれだけで済んでいるが、なるほど、これがSLだったら確かに煤煙が車内に入ってきてもおかしくはないな。
 実際、早くから電化が進められていた路線である。
 戦時中に米軍機(P-51)の機銃攻撃を受けた列車も、蒸気機関車ではなく、電気機関車が牽引していたという。
 その列車では大勢の一般市民が殺されたが、ここに約1名、機銃攻撃くらいでは死なない生物兵器が乗車している。

〔「まもなく藤野、藤野です。お出口は、右側です。電車のドアは、自動で開きます。ドア付近にお立ちのお客様は、開くドアにご注意ください」〕

 本来、高尾から西を走行する普通列車では、客用扉の半自動扱いを行っている。
 だが、新型コロナ対策による換気促進の為、それは取りやめになっており、自動ドア扱いとなっている。
 但し、ワンマン運転列車を除く。

 愛原「よし、降りるか」
 高橋「はい」

 網棚に乗せた荷物を降ろす。
 そして、電車は藤野駅のホームに入線した。

〔ふじの~、藤野~。ご乗車、ありがとうございます。次は、上野原に、停車します〕

 電車は狭いホームに停車した。
 この辺りは平地が少なく、駅の北側がすぐ山だし、南側は谷である。
 その為、島式ホームの幅はとても狭かった。
 もしもホームが混雑したりすると、この駅は特急列車や貨物列車が通過する駅であり、且つ通過線があるわけではないので危険だ。
 その対策としてなのか、上下線でホームをややずらしている部分がある。
 電車を降りて、改札口へ向かう為、階段を上る。
 風が強いのは、山に面しているからだろうか。
 さっきからリサの髪が靡いている。
 髪留めを使っていなければ、すぐに前髪が顔に掛かって煩わしいことだろう。
 もっとも、ミニスカートはデニムなので、風で捲れたりすることはない。

 リサ「先生、トイレ行っていい?」

 リサは改札口横にあるトイレを指さした。

 愛原「ああ、行ってこい」

 駅舎はリニューアルされているので、多分洋式トイレだと思うが……。

 高橋「和式だったりしてな?」

 と、高橋はからかうように言った。

 リサ「行って来る!」

 リサは少し憤慨した様子で、トイレに向かった。

 高橋「あいつ、トイレ我慢してましたよ?」
 愛原「やっぱりなぁ……」

 その後、機嫌の直ったリサが出てきたので、洋式トイレであることが分かった。

 愛原「よし、じゃあ行こう」

 私達は自動改札機を通って、駅の外に出た。

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