報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「電車ごと 行き先替えて ここはどこ?」

2017-07-28 23:33:27 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間7月4日05:32.天候:晴 魔界高速電鉄(アルカディアメトロ)1番街駅 臨時ホーム]

 駅員:「あの、すいません」
 稲生:「ん……?」
 駅員:「そろそろ折り返し回送となりますので、降りて頂きたいんですけど……」
 稲生:「えっ!?」

 気がつくと、稲生は電車の中だった。
 乗っていたのは、あの205系電車。
 すぐ隣には稲生を膝枕にするようにして、威吹がロングシートに横になっていた。

 稲生:「こ、ここはどこ!?」
 駅員:「アルカディアメトロ1番街駅ですよ。もうこの電車は折り返し回送となりますので、お早くお降りください」
 稲生:「1番街駅!?」

 稲生達が乗っていたのはクハ車である。

 稲生:「威吹、起きて!何か魔界に来ちゃったみたいだよ!」
 威吹:「うむ……?」

 稲生と威吹がホームに降りると、JRの制服とは明らかにデザインの違う魔界高速電鉄の制服を着た駅員が大きく赤旗を上げた。
 それを合図にするようにしてドアが閉まる。
 電車は律儀に行き先表示を『回送』にしながら発車していった。
 どうやら稲生達が乗っていたのは、最後に駆け付けた1号車だったらしい。
 だが、出て行く電車を見ててびっくりしたことがあった。
 8号車から10号車が、まるで衝突事故の後みたいに大損傷していた。

 駅員:「お客様方は……こちら側の方ですか?」

 人間の駅員が話し掛けて来る。
 先ほど稲生達を起こした駅員だった。

 稲生:「あっと……僕は向こうの人間です。まあ、縁あって何回も出入りしていますが……」

 大魔道師に弟子入りし、契約悪魔も内定している為にほとんど不老不死が確定しているだけあって、もはや半分以上人間を辞めているようなものだ。

 威吹:「それよりどういうことだ?あの電車は黄泉の国行きじゃなかったのか?」

 威吹は眉を潜めた。
 銀髪の妖狐は眉毛の色も銀色なので、白い肌にそれはほとんど眉毛が無いように見える。

 稲生:「まあ、魔界自体が半分黄泉の国みたいなものだからねぇ……」
 威吹:「そうじゃない。ややもすれば、キノの故郷に行くかもしれなかったわけだ。それがちゃんと魔界に着いている。どういうことだ?」
 駅員:「実はあの電車に関しましては、私達も寝耳に水で……」
 威吹:「やはりそうか」
 駅員:「最近、冥界鉄道さんの方で、労使関係悪化による事件・事故が頻発しているという話です。人間界の鉄道はそれでダイヤが乱れたり、列車の運行そのものが停止するだけで済みますが、冥界鉄道さんの場合……うちもそうですが、列車自体が怨念を持って勝手に走ろうとするきらいがあるので、それを乗務員達で制御していたわけですよ」

 ところが、労使関係悪化によるストライキやサボタージュなどで、怨念による暴走列車を止める者がいなくなり、真夜中の人間界の鉄道ばかりか、こちらの魔界高速電鉄の線路までも暴走するようになったという。

 駅員:「あれを見てください」

 駅員は稲生達を進行方向に連れて行った。
 臨時ホームのある中央線ホームは、東京駅の中央線ホームと同じく、行き止まり式になっている。
 当然、車止めがあるわけだが……。

 稲生:「ああっ!?」

 車止めが無残にも破壊されていた。

 駅員:「さっきの電車が突っ込んで、やっと止まったんです。折り返し回送にならず、このまま居座り続けられたらどうしようかと思い、冷や冷やしました」
 稲生:(前3両が大破しても平気で自走できる上、平気で回送させる鉄道会社がここに……)

 稲生達は事故車両から遠く離れた最後尾に乗っていたので、無傷で済んだのだろう。

 駅員:「あなたは……魔族ですね。じゃあ、入国手続きは……」
 威吹:「そんなもの要らん」
 稲生:「あ、僕はこれを……」

 稲生はローブの中からタロットカードのようなものを出した。
 最初はタロットカードの絵柄のようなものが写っていたが、それが身分証に変わった。

 稲生:「ダンテ門流魔道師見習、イリーナ組の稲生勇太です」
 駅員:「これは失礼致しました。では、お2人とも入国手続きは省略となります」
 威吹:「当然だ」
 稲生:「すいません。……あの、駅員さん」
 駅員:「何でしょう?」
 稲生:「僕達以外に人間界から乗って来た乗客はいましたか?あ、生きている乗客です」
 駅員:「いえ、あなた方だけでしたね」
 稲生:「ええっ!?そんなはずは……」
 威吹:「いや、そんなはずはあるだろうな」
 稲生:「どういうこと?」
 威吹:「一先ず、移動しよう。僕の家に来るといい」
 稲生:「あ……うん」

[同日05:40.天候:晴 同駅環状線外回りホーム]

 1番街駅は東京でいう東京駅のようなものである。
 東京駅をコンパクトにしたような感じだ。
 環状線は山手線に相当する路線だが、その営業キロ数は山手線の2倍ほどある。
 その為、こちらの環状線は優等列車も運転されている。
 が……。

 稲生:「早朝だから、まだ各停しか無いかな」
 威吹:「別にいいじゃん」

 冥鉄と同じく、人間界からのお下がりを使用しているアルカディアメトロ。
 やってきた電車はウグイス色の103系だった。
 正に山手線である。

 稲生:「おっ、さすが103系。天井に扇風機付いてるよ」
 威吹:「うんうん」

 常春の国、アルカディア。
 とても、独裁者の魔王が君臨していた帝国だった場所だとは思えない。
 その魔王が去ったら去ったで、今度は人間のみによる一党独裁制が待っていた。
 現在は立憲君主制であるが、議会は実質的に一党制である。

 稲生:「それで、威吹の見立てとは?」

 ブルーの座席に隣り合って座り、冷たい金属の手すりに寄り掛かった稲生は威吹に尋ねた。

 威吹:「あいつらは、別世界の人間なんじゃないかって。で、曲がりになりにもあの暴走電車に対して非常停止措置を取ったことが僕達の勝利となって、行くべき所に行ったんじゃないかって思ったんだ」
 稲生:「おいおい。僕は実家に帰る為に埼京線に乗ったんだ。ここに来るのが目的じゃない」
 威吹:「あの電車にとっては、ここがキミの行くべき場所だと思ったのかもね」
 稲生:「おいおい、カンベンしてくれよ。僕は人間界でマリアさんと暮らすんだ。……あれ?あっ、そうだ!家に連絡しないと!」
 威吹:「鉄道マニアが電車の中でケータイかい?結構な身分ですな」
 稲生:「からかうなよ。ダメだ。スマホの電池、切れちゃってる。どこかで充電しないと」
 威吹:「だから、僕の家に来なって。電気も電話もあるよ」
 稲生:「申し訳無いねぇ……」
 威吹:「いいよいいよ。キミとは長い付き合いだったし。それに、件の報酬は何にするか相談もしたい」
 稲生:「そこか!」

 霧の都アルカディアシティ。
 電車は霧の中を突き進んで行く。
 高架線を走る環状線は、どちらかというと駅員も乗務員も乗客も人間の割合が多い。
 もちろん、威吹のように妖怪が利用することもあるのだが。
 逆に薄暗い地下鉄は、魔族の利用が多い。
 同じ鉄道会社かと思うほどの違いだ。
 因みにマドハンドと思しき手だけの集団が吊り革にぶら下がっているのだが、乗客が皆慣れているというのはある意味で怖い。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “私立探偵 愛原学” 「最終... | トップ | “大魔道師の弟子” 「魔界稲荷」 »

コメントを投稿

ユタと愉快な仲間たちシリーズ」カテゴリの最新記事