報恩坊の怪しい偽作家!

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“ユタと愉快な仲間たち” 「東北紀行」 2

2014-05-09 10:41:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月4日時刻不明 叫喚地獄の中央にある蓬莱山家 蓬莱山鬼之助&蓬莱山美鬼]

「それじゃ、雑誌ができましたらお送りしますので。また……」
「おう。ご苦労さん」
 異世界通信社の記者が、キノ達の屋敷をあとにした。
「何だ、賽の河原ってな、そんなに特殊な場所だったのか」
 キノは家に戻りながら両手を伸ばして、そう呟いた。
「そうよ。あんた、気ィつかなかったん?」
「いや、変わった場所だなぁとは思ってたけどよ……」
「そもそもが、あそこは元々地獄界では無かったっちゅう話もあるんよ?」
「賽の河原が地獄界じゃねぇ?」
「人間どもの話で、どこぞの菩薩が鬼族と対峙して、亡者を救うっちゅうのがある。菩薩界の一部だったあそこをウチらが分捕った……そういう話もある」
「てことは、姉ちゃんが生まれる前か。800年くらい前か?」
 ガシッ!(←美鬼がキノの胸倉を掴む)
「あ!?座敷牢がまた空いとるんな?」
「……すいません、計算ミスりました。ゴメンナサイ」
 何とか放してもらう。
「ところで最後に記者に話したアレ、本当に話して良かったんか?」
「ああ。どうせオレが知っていたところで、何の旨味も無ェし」
「何だか、胸騒ぎがするんよ」
「どうせ週刊誌の書くことだろ?STAP細胞並みのいいネタだよ」
「そうねぇ……」

[同日10:11.JR仙台駅 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾、マリアンナ・ベルゼ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

〔「ご乗車ありがとうございました。終点仙台、終点仙台です。お忘れ物の無いよう、お降りください。この電車、仙台止まりです。盛岡、新青森方面へおいでのお客様は……」〕

「師匠、終点ですよ!」
「……うーん……あと5分……」
「やっぱりこうなったか……」
「利府の車両基地まで乗ってけ!カンジ、先に降りるぞ!」
「は、はあ……」
「何で威吹、利府の車両基地知ってるの?僕、そんな話したっけ?
「もうそろそろ、体の交換時期か?」
「……えっ!?」
 カンジのボソッとした呟きに、マリアが反応した。
「えっ、なに?」
 ユタが首を傾げた。
「何でもない」
「あー、もう着いたのね。やっぱ新幹線は速いねぇ……」
「早く降りましょうよ」
 下車駅が終点の列車に乗って良かったと心から思うユタだった。

[同日11:00.仙台市宮城野区某所 ユタの親戚の家……の田んぼ ユタ、威吹、カンジ、マリア、イリーナ]

「えー、東京からわざわざご苦労さんです。私はこの家の者で、ユウタの従兄の稲生忠夫(32歳)です。田植えの手伝いに来てくれて、本当に助かります」
「……ユタ、これは一体、どういうことだ?」
 威吹は不信顔で聞いた。
「しまった!仙台に住んでいた頃、よくゴールデンウィークはよく手伝いに来させられてたんだ!」
「ユウタもカルト宗教を辞めてくれたおかげで、素直になってくれたし……」
「そうだった!『顕正会や浅井先生に謗法する輩の田んぼなんか手伝えねぇ!』って、ダダこねたんだった!」
 熱心な顕正会員だったユタ。
 家族や親族に折伏という名の勧誘をして、大変な事態になったのだった。
 顕正会よりはマシという理由で宗門での信心は許してくれたが、誰1人入信する者はいない。
 そういった意味で、一家広布状態の栗原家や藤谷家を羨ましく思っている。
「……んで、楽しく田植えして、お米の楽しさを知ってください」
「…………」
「…………」
 目が点になっている魔道師2人。
 1番冷静なカンジが、小さく溜め息をついた。
「仕方ありませんね。さっさと終わらせて、昼飯でも食べましょう」
「そ、そうしようか」
 ユタはカンジの言葉にホッとした。

「うーん……」
 苗を持って、考え込むマリア。
「……ていっ!」
 思いっきり植え込む。
「よい……しょっと」
 そして、長靴を履いた足を前に進める。が、
「マリア、ちょいストップ」
「はい?」
 すぐ前にいたイリーナが止めた。
 しっかり麦わら帽子を被っている。
「せっかく植えた苗、ガチ踏みしてるんですけど……」
「あらま?」
「こういうのはねぇ、後ろに下がりながら苗を植えて行くの。……こうね」
「おー、さすが師匠。先人の知恵」
「……先人とか言うな」
 しかし、1000年生きている中での知識であることに違いは無い。
「威吹は田植えしたことあるの?」
「いや、無いなぁ……。ボクは一応、人間界では武士のフリをしていたから」
「オレは一応、社会科見学の一環でやったことがあります」
 カンジは微笑を浮かべた。
「なるほど。それで勝手を知ってるんだね」
「一応ですが……」
「なあ、1つ思ったんだが……」
 と、威吹。
「なに?」
「あいつらの魔法で、田植え一気に捗るんじゃないか?」
「あ……」
 少し離れた場所では魔道師2人が、
「そうそう。その調子、その調子。これも魔道師の修行の一環よ」
「はい」
 というやり取りを見て、
「何だか、フツーにやり続けるみたいだよ」
 ユタが言った。
「先生、オレも田植え続ければ修行になりますかね?」
「ああ……【お察しください】」
「でも、何だか変だぞ」
「何が?」
「確か、こっちの稲生さんって……」
「うん?」
「今年の年賀状で、『新しい機械買った』って書いてたよ?」
「は?」
 すると、
「ふんふーん♪」
 真新しい田植え機のハンドルを握る稲生忠夫の姿があった。
「いンや〜、こいづ買ってがら人の手と機械とどっちが効率いいか確かめてみたかったんだけンど、やっぱ機械だっちゃね〜。……あ、ユウタくーん!もう帰っていいよ〜!ご苦労さん!」
「…………」
 全員目が点になった。
「新しい機械って、田植え機のこと……だったか」
「早く気づこうよ」
「さっさと家に行って、昼飯ご馳走になりましょう」
 ユタは気を取り直してそう言った。
「そうするしか無いね」

「って、日帰り!?」
「あくまで、『田植え体験ツアー』だったみたいですねぇ……」
 ユタは出された煮物を口に運びながら答えた。
「せっかくだから、泊まり掛けで遊んで行きましょうよ」
 と、イリーナ。
「泊まり掛けったって、今からホテル取れるかなぁ……」
 ユタは考え込んだ。
「あ、そうだ。あの人に相談してみよう」

 ユタは食べ終わった後で、スマートフォンを出した。
「……あ、もしもし。藤谷班長ですか?稲生ですけど……」
{「おう、稲生君。どうした?折伏の対象者でも決まったかい?」}
「あいにくとそういう話じゃないんですけど、実は今、仙台に来てまして……」
{「なにっ?」}
「今日から泊まれるホテル無いかなぁ……なんて、探してるんですけど……。班長のお力で、何とかなりませんかね」
{「プッ。このゴールデンウィークにそんな都合のいいことが……おやあっ!?」}
「石ちゃんみたいな反応やめてください。あるんですね?」
{「無い!」}
 ズコーッ!
{「稲生くんのその信心じゃ、そんな都合のいい事態は発生しないな。やっぱり誓願を大きく突破する弘通を成してから、そういうことを言わなきゃ」}
 顕正会みたいなことを言う藤田だが、実はこれって正論である。
 顕正会の場合、血脈が無いのでトゲのあるように聞こえるのだ。
「うう……」
 なので、ユタも言い返せない。
「完……か」
 ユタがorzになるところだった。

 しかし……。

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補足 (作者)
2014-05-09 11:42:12
田植えのくだりは、とあるマンガ・アニメのそれを参考にしております。
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