報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「帰宅中の地震」

2021-03-03 20:08:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月28日15:50.天候:晴 東京都板橋区前野町 首都高速5号池袋線上り線→志村PA]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今は斉藤家のお抱え運転手、新庄さんの運転する車で家に帰るところだった。
 首都高速をずっと南下し、都内に入る。
 首都高速5号池袋線は魔のカーブと呼ばれる急カーブが存在し、そこで横転して炎上したタンクローリーの事故は有名な話である。
 2008年にガソリン満載の大型トレーラー式タンクローリーが魔のカーブを曲がり切れずに横転し、積み荷であるガソリンが漏れ出して大炎上。
 しかし日曜日の早朝ということもあって、幸いにも巻き込まれた車両は無く、死亡者はおらず、運転手が横転した際にケガをしただけであった。
 とはいうものの、事故車両のみならず、現場そのものを全焼させた賠償責任は重く、タンクローリーの運送会社は数年後に倒産の憂き目に遭ったそうだ。
 その為、今でも事故現場付近には『カーブ注意』の看板がこれでもかというくらいに林立している。
 いっそのこと、危険物積載車通行禁止にした方が良いのかもしれないが、そこまではできなかったらしい。

 愛原:「……というわけなんだ」
 新庄:「さすがは愛原様ですね。大変にお詳しい……」

 新庄さんが遠くを見つめるようにして答えた。
 新庄さん自身もタクシー運転手時代に人身事故を起こして有罪判決を受け、当然ながらタクシー会社はクビになった。
 市原刑務所出所後に斉藤社長に拾われ、免許を取り直してお抱え運転手を務めて今に至る。

 愛原:「ただの雑学ですよ」

 私が笑みを浮かべた時だった。
 突然、手持ちのスマホがけたたましい緊急地震速報を鳴らした。

 愛原:「なにっ!?」
 新庄:「志村パーキングエリアに避難します!」

 私達は右車線を走っていた。
 そして目の前に志村料金所が見えて来た時、緊急地震速報が鳴った。
 この料金所、手前にパーキングエリアへの出入口がある。
 それは右車線からでないと入れない。
 本来なら颯爽とETCで通過するべき料金所で、パーキングなど目もくれないはずだった。
 しかし、ただでさえ緊急地震速報が鳴るほどの強い地震で、尚且つその揺れがモロに伝わる高架道路の上がガタガタと揺れ出した。

 斉藤:「きゃーっ!リサさん!!」

 後ろに座っている斉藤絵恋さんが隣に座っているリサに抱き付いた。

 リサ:「サイトー、きつい」

 車はパーキングの中に滑り込み、空いている駐車スペースにバックで駐車した。
 車が止まってもまだグラグラ揺れていることから、確かにさっきのは車の揺れではない。
 車を止めると新庄さんはカーナビのナビ画面をテレビに切り替え、それでNHKを映した。

 新庄:「どうやら震源地は、この辺ではないようですね。場所からして、東日本大震災の余震でしょうか……」
 リサ:「ちょうど良かった。私、トイレ行ってくる」
 斉藤:「わ、私もぉ……」

 リサは地震が来てもマイペースだ。

 愛原:「俺達はせめてこの辺りの震度が分かってから降りよう」
 高橋:「はい」

 しばらくすると津波の心配が無いことが分かり、その後、この辺りの震度は4であることが分かった。
 この前の福島県沖地震と同じである。
 まあ、4くらいなら被害は無いか。
 ……嫌だな。
 東日本大震災以降、震度4だってそれなりの強い揺れだというのに、何故か大したこと無いと思ってしまう。
 この中途半端な強さの地震が、後に大地震がやってくる前座かもしれないというのに。

 愛原:「俺もトイレ行って来るわ」
 高橋:「お供します!」

 私達は車を降りて、建物の中に入った。
 往路の時に立ち寄った箱崎PAと同様、都市高速のPAなので、造りは簡素なものである。
 外側にジュースの自販機と喫煙所、ゴミ箱があった。
 中にも自販機コーナーと休憩所、公衆電話や道路情報のモニタがあった。
 もちろん、奥にトイレもある。
 モニタを見るに、今の地震の影響で通行止めになった箇所は無いようである。
 福島県沖地震の時も、のり面が崩れた常磐道は通行止めになっても、首都高は大丈夫だった。
 トイレに行って用を足し、それから戻ると先にトイレに行っていたリサと斉藤さんが自販機コーナーの前にいた。
 どうやらお菓子の自販機で、何か買おうとしているらしい。
 全く、甘い物には目が無いコ達だ。
 高橋と霧崎さんが外の喫煙所でタバコを吸い始める。
 アルファードとガリューは禁煙車だからだ。
 私もここで紙コップ入りのレギュラーコーヒーを買い求めた。
 斉藤さんほどではないが、さすがに私もあの揺れには身を強張らせた。
 地上よりも強く揺れを感じる場所だったからだ。
 震度4であの揺れなのだから、東日本大震災の震度5強(東京都千代田区)とかだったら生きた心地がしなかっただろう。
 私はそれを手に、空いている休憩所の丸椅子に座った。
 お菓子とジュースを買った2人の少女が私と同じテーブルの椅子に座る。

 リサ:「サイトー、落ち着いた?」
 斉藤:「う、うん。怖かったわ……」

 斉藤さんはそう言って、チョコレートスナックを口に入れる。
 まあ、落ち着くためには甘い物でも口に入れた方がいいか。
 私も買ったホットコーヒーを口に運んだ。

 愛原:「余震も無いみたいだし、これ飲んだら行こうか」
 リサ:「はーい」
 絵恋:「はい」

 まあ、震度1か2くらいの余震はあるかもしれない。
 しかしその程度の強さなら、車に乗っていれば分からない。
 私はコーヒーを飲み終えると、来たついでにと、無料のフリーペーパーを手に外に出た。

 愛原:「タバコはもういいか?」
 高橋:「はい、もうこれで終了っス」

 あとは到着まで喫煙できないからか、私がコーヒーを飲み終えるまで、何本か吸い溜めしたようである。

 新庄:「お帰りなさいませ」

 私達が車に戻ると、待っていた新庄さんがパワースライドドアを開けた。

 新庄:「道路には何も影響は無いようでございます」
 愛原:「そりゃあ良かった」

 私達が車に乗り込むと、車は出発した。
 そして、箱崎PAほどではないが、隠れ家的な雰囲気のある志村PAをあとにした。

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