[2月1日15:45.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]
エミリー:「社長、そろそろバスの乗り場へ向かった方がよろしいかと思います」
エミリーは敷島だけにする滑らかな口調で言った。
いつもはシンディよりも表情に乏しいエミリーだが、今回は少し緊張した面持ちになっていた。
敷島:「ああ、分かってる」
敷島は社長室内の衣文掛けに掛けてあるコートを羽織った。
結局、今の今までアリス達からの連絡も無ければ、こちらから電話が通じることも無かった。
そして、シンディの電源は未だに入っていない。
遠隔でこちらから入れようとしても、ブロックされて弾かれてしまうのだ。
敷島:「ああ、井辺君。申し訳無いが、私は先に上がらせてもらうよ、うん……。何かあったら、すぐに連絡をくれ……な?」
井辺:「結構ですよ、社長。御心配なのは、よく分かります。あとは私達にお任せください」
敷島:「一海も。井辺君や皆のサポート、よろしく」
一海:「かしこまりました」
一海はメイドロイドから改良した事務員ロイドである。
だから見た目は他のメイドロイドに似ているが、着ている服はメイド服ではなく、事務服である。
エミリー:「社長」
敷島:「ああ。それじゃ、行ってくる」
敷島は事務所のドアから共用廊下に出ると、既にエミリーが呼んでいたエレベーターに乗り込んだ。
敷島:「小山副館長の方でも、全く連絡が取れていない。副館長は幹事の岩下副館長と同等だから、例え幹事権限で連絡不可にしたとしても、それを拒否できる権限があるはず。それが叶わないとは……」
エミリー:「西山館長も参加されてるんですよね?」
敷島:「ああ。西山館長もまた幹事の1人なんだが、全く連絡が取れない。科学館の幹部同士なのに、連絡が取れないというのは明らかに不自然だ」
エミリー:「はい、そうですね。そう思います」
敷島:「だろ?」
エレベーターを降りる時、エミリーが言った。
エミリー:「妹がお役に立てず、申し訳ありません」
敷島:「シンディは悪くない。電源が切られてるんじゃ、どうしようもない」
敷島達は冬の西日が差す豊洲の町に出た。
[同日16:35.天候:晴 東京空港交通エアポートリムジン車内→羽田空港第2ターミナル]
豊洲から羽田空港までは片道20キロ強といったところだ。
だから、所要時間も20分ないし30分で着いてしまう。
その為か、バスは観光バス仕様ではあるものの、後部にトイレの無いタイプであった。
敷島とエミリーは2人席に腰掛けていたが、バスの車内では終始無言で過ごした。
多弁なシンディなら何か喋ったかもしれない。
いや、それともさすがの彼女も空気を読んで黙っているか。
とにかく、バスは冬の西日が降り注ぐ中、特に渋滞に巻き込まれることもなく、無事に羽田空港に到着した。
2人はバスを降りた。
飛行機乗り換え客はバスに大きな荷物を積んでいるが、迎えに行くだけの敷島達は身軽だ。
そのままターミナルの中に入る。
敷島:「到着口で待とう。フライト状況はどうだ?」
エミリー:「本日の新千歳空港付近の天候は良好で、一部の機材変更や折り返し遅れなどを除いて、大幅な遅延は発生していないもようです」
敷島:「分かった」
敷島達は到着口に向かった。
[同日18:00.天候:晴 羽田空港第2ターミナル]
敷島は固唾を飲んで、到着口から出てくる旅客を眺めていた。
だが、何度見てもアリスの姿を見ることはなかった。
エミリー:「社長、既にANA68便は到着しております」
敷島:「何でだ!何でここから出てこないんだ!」
エミリー:「他に到着口が無いかどうか確認してきます」
エミリーがカウンターの方に行ってしまうと、敷島のスマホに着信があった。
すわっ、と思ってポケットから取り出したが、画面に映っていた名前は鷲田警視だった。
鷲田:「ああ、私だ。奥さんは帰ってきたかね?」
敷島:「…………」
鷲田:「そうか。実は今、私の部下達が第1ターミナルの方を見ている。もしかしたら、JALに変更したかもしれないと思ってな。だが、そんなことは無かったようだ」
敷島:「警察としては、どうするつもりですか?」
鷲田:「どうもこうもない。今のところ、まだDCJさんからは捜索願は出ていないからな。勝手はことはできんよ。とにかく、先日捕らえたテロリスト共を締め上げて吐かせるだけだな。もしかしたら、奴らは知ってるかもしれんからな。とにかく、気を落とすんじゃないぞ」
鷲田は電話を切った。
と、同時にエミリーが戻ってきた。
エミリー:「社長、あいにくですが、第2ターミナルの到着口はこちらだけのようです」
敷島:「アリス達が消えてしまった。エミリー、こうなったら……!」
エミリーは目を丸くした。
普段は表情に乏しい彼女だが、敷島の突拍子も無い考えは往々にしてマルチタイプさえも震え上がらせるのである。
そしてそんな敷島を何度も見て来たからこそ、「仕え甲斐のあるアンドロイドマスター」と判断するに至ったのだろう。
[2月2日11:00.天候:晴 敷島エージェンシー]
井辺:「何ですって!?」
敷島:「明日、アリス達の行方を追う為、北海道へ向かう。もう既にチケットは取ってきた」
MEIKO:「ちょっと!会社はどうするのよ!?」
井辺:「そうですよ。それに、社長は今もっともKR団からの報復の対象だというではありませんか。危険過ぎますよ」
敷島:「俺は『不死身の敷島』『テロリストが泣いて逃げ出す男』だぞ?」
井辺:「ですが……!」
孝之亟:「いいぢゃないか。行ってきたまえ」
井辺:「敷島最高顧問!」
孝之亟:「孝夫の妻が、ワシの注文したマルチタイプの製作を行っておるのじゃろう?」
敷島:「そうです」
孝之亟:「ちゃんと帰ってきてもらわねば困る。違約金をたんまり頂ければそれで良いという話ではない。孝夫、行って連れ戻して来い。敷島家の男たるもの、それが当然じゃ」
敷島:「は、はい!さすがは外国に消えた奥さんを捜しに、現地の軍隊まで動員した爺さんだ!」
井辺:「ええーっ!?」
孝之亟:「おいおい。今から半世紀も前の話じゃぞ?照れるではないかー、はっはっはーっ!」
井辺:「そ、そんな国際問題になりかねないことを……」
井辺は立ちくらみがした。
敷島の不死身ぶり、テロリスト泣かせぶりの系譜は既に孝之亟の時から始まっていたのだ。
いや、もしかしすると、それ以前からかも……。
井辺:「しかし、社長の代わりはどうするんです?」
孝之亟:「なぁに、心配いらん。四季グループの子会社の社長の代わりなど、いくらでもおるでな」
矢沢:「お任せください」
井辺:「四季エンタープライズの矢沢専務……」
孝之亟:「1週間くらいなら、この男でも十分代理が務まるじゃろう。いいか?期限は1週間じゃ。1週間以内に何としてでも、お前の妻とそのロボットを見つけ出せ。分かったな?」
敷島:「ありがとうございます!最高顧問!」
孝之亟:「ワシの計画を邪魔する者どもには、何としてでも思い知らせてやらんとな。ワシはこのロボットが欲しいのじゃ」
敷島:「エミリーが欲しいなら、しばらくお貸ししますよ」
孝之亟:「バカ者!何度も言っとるじゃろう?ワシは新品が欲しいのじゃ」
そう言いつつ、さり気なくエミリーのお尻をナデナデしているスケベジジィが1人。
因みにこの最高顧問、シンディのお尻もナデナデしていた。
エミリー:「社長、そろそろバスの乗り場へ向かった方がよろしいかと思います」
エミリーは敷島だけにする滑らかな口調で言った。
いつもはシンディよりも表情に乏しいエミリーだが、今回は少し緊張した面持ちになっていた。
敷島:「ああ、分かってる」
敷島は社長室内の衣文掛けに掛けてあるコートを羽織った。
結局、今の今までアリス達からの連絡も無ければ、こちらから電話が通じることも無かった。
そして、シンディの電源は未だに入っていない。
遠隔でこちらから入れようとしても、ブロックされて弾かれてしまうのだ。
敷島:「ああ、井辺君。申し訳無いが、私は先に上がらせてもらうよ、うん……。何かあったら、すぐに連絡をくれ……な?」
井辺:「結構ですよ、社長。御心配なのは、よく分かります。あとは私達にお任せください」
敷島:「一海も。井辺君や皆のサポート、よろしく」
一海:「かしこまりました」
一海はメイドロイドから改良した事務員ロイドである。
だから見た目は他のメイドロイドに似ているが、着ている服はメイド服ではなく、事務服である。
エミリー:「社長」
敷島:「ああ。それじゃ、行ってくる」
敷島は事務所のドアから共用廊下に出ると、既にエミリーが呼んでいたエレベーターに乗り込んだ。
敷島:「小山副館長の方でも、全く連絡が取れていない。副館長は幹事の岩下副館長と同等だから、例え幹事権限で連絡不可にしたとしても、それを拒否できる権限があるはず。それが叶わないとは……」
エミリー:「西山館長も参加されてるんですよね?」
敷島:「ああ。西山館長もまた幹事の1人なんだが、全く連絡が取れない。科学館の幹部同士なのに、連絡が取れないというのは明らかに不自然だ」
エミリー:「はい、そうですね。そう思います」
敷島:「だろ?」
エレベーターを降りる時、エミリーが言った。
エミリー:「妹がお役に立てず、申し訳ありません」
敷島:「シンディは悪くない。電源が切られてるんじゃ、どうしようもない」
敷島達は冬の西日が差す豊洲の町に出た。
[同日16:35.天候:晴 東京空港交通エアポートリムジン車内→羽田空港第2ターミナル]
豊洲から羽田空港までは片道20キロ強といったところだ。
だから、所要時間も20分ないし30分で着いてしまう。
その為か、バスは観光バス仕様ではあるものの、後部にトイレの無いタイプであった。
敷島とエミリーは2人席に腰掛けていたが、バスの車内では終始無言で過ごした。
多弁なシンディなら何か喋ったかもしれない。
いや、それともさすがの彼女も空気を読んで黙っているか。
とにかく、バスは冬の西日が降り注ぐ中、特に渋滞に巻き込まれることもなく、無事に羽田空港に到着した。
2人はバスを降りた。
飛行機乗り換え客はバスに大きな荷物を積んでいるが、迎えに行くだけの敷島達は身軽だ。
そのままターミナルの中に入る。
敷島:「到着口で待とう。フライト状況はどうだ?」
エミリー:「本日の新千歳空港付近の天候は良好で、一部の機材変更や折り返し遅れなどを除いて、大幅な遅延は発生していないもようです」
敷島:「分かった」
敷島達は到着口に向かった。
[同日18:00.天候:晴 羽田空港第2ターミナル]
敷島は固唾を飲んで、到着口から出てくる旅客を眺めていた。
だが、何度見てもアリスの姿を見ることはなかった。
エミリー:「社長、既にANA68便は到着しております」
敷島:「何でだ!何でここから出てこないんだ!」
エミリー:「他に到着口が無いかどうか確認してきます」
エミリーがカウンターの方に行ってしまうと、敷島のスマホに着信があった。
すわっ、と思ってポケットから取り出したが、画面に映っていた名前は鷲田警視だった。
鷲田:「ああ、私だ。奥さんは帰ってきたかね?」
敷島:「…………」
鷲田:「そうか。実は今、私の部下達が第1ターミナルの方を見ている。もしかしたら、JALに変更したかもしれないと思ってな。だが、そんなことは無かったようだ」
敷島:「警察としては、どうするつもりですか?」
鷲田:「どうもこうもない。今のところ、まだDCJさんからは捜索願は出ていないからな。勝手はことはできんよ。とにかく、先日捕らえたテロリスト共を締め上げて吐かせるだけだな。もしかしたら、奴らは知ってるかもしれんからな。とにかく、気を落とすんじゃないぞ」
鷲田は電話を切った。
と、同時にエミリーが戻ってきた。
エミリー:「社長、あいにくですが、第2ターミナルの到着口はこちらだけのようです」
敷島:「アリス達が消えてしまった。エミリー、こうなったら……!」
エミリーは目を丸くした。
普段は表情に乏しい彼女だが、敷島の突拍子も無い考えは往々にしてマルチタイプさえも震え上がらせるのである。
そしてそんな敷島を何度も見て来たからこそ、「仕え甲斐のあるアンドロイドマスター」と判断するに至ったのだろう。
[2月2日11:00.天候:晴 敷島エージェンシー]
井辺:「何ですって!?」
敷島:「明日、アリス達の行方を追う為、北海道へ向かう。もう既にチケットは取ってきた」
MEIKO:「ちょっと!会社はどうするのよ!?」
井辺:「そうですよ。それに、社長は今もっともKR団からの報復の対象だというではありませんか。危険過ぎますよ」
敷島:「俺は『不死身の敷島』『テロリストが泣いて逃げ出す男』だぞ?」
井辺:「ですが……!」
孝之亟:「いいぢゃないか。行ってきたまえ」
井辺:「敷島最高顧問!」
孝之亟:「孝夫の妻が、ワシの注文したマルチタイプの製作を行っておるのじゃろう?」
敷島:「そうです」
孝之亟:「ちゃんと帰ってきてもらわねば困る。違約金をたんまり頂ければそれで良いという話ではない。孝夫、行って連れ戻して来い。敷島家の男たるもの、それが当然じゃ」
敷島:「は、はい!さすがは外国に消えた奥さんを捜しに、現地の軍隊まで動員した爺さんだ!」
井辺:「ええーっ!?」
孝之亟:「おいおい。今から半世紀も前の話じゃぞ?照れるではないかー、はっはっはーっ!」
井辺:「そ、そんな国際問題になりかねないことを……」
井辺は立ちくらみがした。
敷島の不死身ぶり、テロリスト泣かせぶりの系譜は既に孝之亟の時から始まっていたのだ。
いや、もしかしすると、それ以前からかも……。
井辺:「しかし、社長の代わりはどうするんです?」
孝之亟:「なぁに、心配いらん。四季グループの子会社の社長の代わりなど、いくらでもおるでな」
矢沢:「お任せください」
井辺:「四季エンタープライズの矢沢専務……」
孝之亟:「1週間くらいなら、この男でも十分代理が務まるじゃろう。いいか?期限は1週間じゃ。1週間以内に何としてでも、お前の妻とそのロボットを見つけ出せ。分かったな?」
敷島:「ありがとうございます!最高顧問!」
孝之亟:「ワシの計画を邪魔する者どもには、何としてでも思い知らせてやらんとな。ワシはこのロボットが欲しいのじゃ」
敷島:「エミリーが欲しいなら、しばらくお貸ししますよ」
孝之亟:「バカ者!何度も言っとるじゃろう?ワシは新品が欲しいのじゃ」
そう言いつつ、さり気なくエミリーのお尻をナデナデしているスケベジジィが1人。
因みにこの最高顧問、シンディのお尻もナデナデしていた。
衣紋掛けなんて聞いたの何十年振りww
いや、そんなことないですよ。
私の本業、警備業界は年配者も多いので、その人達が使っていた用語を流用してみただけです。