報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「斉藤家の夜」

2020-04-12 11:36:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
 ※日付を見て頂ければ分かりますが、これはまだ3月の話であり、自粛要請が本格化する前の話ですので、けして愛原達がそれを破って出歩いているわけではありません。

[3月15日02:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 昨夜は斉藤社長の自宅に招かれて夕食会、そしてそのままお誘いに乗って宿泊させて頂いている。

 愛原:「ん……トイレ……」

 枕が変わると眠りが浅くなるのだろうか。
 私は夜中にトイレに起きた。
 自宅では洋室ベッドであるが、斉藤家の客間は和室で布団である為、それもまた違和感の1つなのだろう。

 愛原:「ん?」

 すると隣の布団に寝ているはずの高橋がいないことに気づいた。
 こいつもトイレか?
 いや、まさかな……。
 とにかく、私は布団から出てトイレに向かった。
 1階ということもあってか、窓には全てのシャッターが下ろされている。
 古い家だと雨戸は戸袋付きの引き戸であろうが、この家は縦引きのシャッターである。
 それも、普通なら手動で上げ下げするのがセオリーだが、この家では電動であった。
 停電の時はどうするのだろうと思ったが、その時は手動でやればいいのか。
 オフィスビルやショッピングセンターのシャッターみたいにデカいヤツじゃないし。
 さすがに廊下は消灯されているが、所々人感センサーで点灯する照明があるので、それで真っ暗な中を歩くということはない。
 で、外は風が強いのか、時々シャッターがガタガタ揺れる音がする。
 これはトラウマだな。
 まるでゾンビやハンターが外から叩いているかのようだ。
 もっとも、その際は呻き声や喚き声が聞こえるのですぐ分かる。

 愛原:「…………」

 トイレに入ったが、そこにも高橋はいなかった。
 これは……もしかして……。
 トイレを済ませると、私は再び客間に戻った。
 途中に2階に上がる階段がある。
 その階段は更に3階や屋上まで続いているのだが、まさか霧崎さんの部屋に夜這いしに行ったんじゃないだろうな?
 有り得る話だ。
 絵恋さん専属メイドの霧崎さんと、お抱え運転手の新庄さんだけは住み込みである。
 他のメイドさんは通いである。
 執事さんもいたようだが、つい最近退職したというから、新庄さんが今は執事も代行しているのだろう。
 広い家ではあるが、“ちびまる子ちゃん”の花輪君の家みたいな超大豪邸というわけでもないので、あまり必要は無いのかもしれない。
 花輪家執事のヒデじいも、花輪君のお抱え運転手を兼任している。
 花輪君の父親には別に専属運転手がいるようだが、花輪君本人に対してはヒデじいが兼任する程度で事足りるのだろう。

 愛原:「……まあ、逢引きを覗くのは趣味悪いな」

 私はそう思い、1度は客間に戻った。
 だがその1分後、探偵よろしく(いや、探偵なんだけど)大型のルーペやデジカメを手にした私が階段を駆け上っていた。

 愛原:(探偵たる者、常に技術力の向上を!)

 浮気調査や身辺調査の依頼もあるから、ルーペはともかく、カメラは必須アイテムなんだけどね。
 霧崎さんの部屋は3階にある。
 これは絵恋さんの部屋が3階にあり、専属メイドとしていつでも動けるよう、その隣の部屋を居室としているものだ。
 地下のガレージ横の部屋を居室にしている新庄運転手とは対照的だ(これも専属運転手として、いつでも車を動かせるようにしたものだろう)。

 愛原:「!」

 3階に辿り着いた時、ホームエレベーターのドアが閉まる所だった。
 そして、3階の廊下に高橋はいなかった。
 ん?高橋のヤツ、もしかして今のエレベーターに?
 階数表示を見ると、1階に下りて行ったようだ。
 私がいないことで怪しまれるか?
 いや、大丈夫だろう。
 トイレに行っていることにすればいい。
 こんなこともあろうかと、わざとトイレの電気は点けてきた。

 愛原:「!」

 その時、カチッと霧崎さんの部屋のドアの鍵が開く音がした。
 それも、ドアノブの鍵だけではなく、他にも内鍵があるようだ。
 何回かそれが開く音がする。
 私は咄嗟に柱の陰に隠れた。

 霧崎:「…………」

 ドアが開くと、寝巻姿の霧崎さんの姿が見えた。
 ワンピースタイプの水色の寝巻である。

 霧崎:「あのクソ野郎……」

 霧崎さんはエレベーターを睨み付けるとボソッと呟いて、それからまた部屋の中に入った。
 そして、また内鍵の閉まる音が何度もする。
 やはり高橋は夜這いに行ったのだろう。
 しかし、鍵が掛かっていて中に入れなかったのだ。
 何とか侵入を試みようとしたが無理だったようだ。
 おおかた、そんなところだろう。
 私は霧崎さんが部屋に戻ってから、そっと階段を下りた。
 そしてトイレに戻って、いかにも用を足してから出たように見せると、それから部屋に戻った。

 愛原:「おっと!」
 高橋:「あ、先生。サーセン。俺もトイレです」
 愛原:「あ、ああ。行ってこい」

 部屋に入ろうとしたら高橋が出て来たのでびっくりした。
 私は隠し持っていたルーペやカメラを荷物の中にしまうと、布団の中に入った。
 高橋はしばらく戻って来なかった。
 トイレで何かしているのだろう。
 それとも、もう1度霧崎さんの部屋に行ったか?
 あれは多分、キーピックだけでなく、バールのようなものも持って行かないとこじ開けられないし、そんな大掛かりなことしてたら起きるに決まっている。
 夜這いというのは、如何に相手が眠ったままその気にさせるのが勝負だからな。
 起きてしまったら、そこでもうゲームオーバーだ。
 いくら高橋がチャラ男兼チョロ男だからといって、それを知らぬほどバカでもあるまい。
 高橋が戻らぬまま、私は再び眠りに落ちて行った。

 高橋が霧崎さんのナイフでメッタ刺しにされる夢を見て……。
 メイド服のスカートの中に隠してあるサバイバルナイフで。
 流血の惨を見る事、必至であった。

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