報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「斉藤家の朝」

2020-04-12 19:40:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月15日07:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]

 枕元に置いたスマホがアラームを鳴らす。

 愛原:「う……ん……」

 私は手を伸ばしてアラームを止めた。

 高橋:「先生、おはようございます……」
 愛原:「おう、おはよう。よく眠れたか?」
 高橋:「いや……あんま眠れなかったです……」
 愛原:「そうか」

 これが自分の家ならもう少し寝てるところだが、ここは斉藤社長の家。
 あまりグースカ寝てはいられない。

 愛原:「取りあえず起きたら、布団くらい畳んでおこう」
 高橋:「はい」

 私達は布団を畳むと、洗面道具を持って洗面所に向かった。

 高橋:「先生、悪い夢でも見たんですか?ちょいうなされてましたよ?」
 愛原:「マジか。いや、実はオマエが『切り裂きパール』にメッタ刺しにされる夢を見てさぁ……。縁起悪い夢で申し訳ないな」
 高橋:「マジっスか。いや、あいつなら有り得る話です」

 ほお?
 珍しく高橋が否定しない。
 いつもだったら、『何言ってんスか、先生!あんなクソ女のナイフ、軽く交わしてボコして見せますよ!』とでも言うだろうに。

 愛原:「他のメイドさんは、どうして警察の御厄介になったんだろう?」
 高橋:「ツインテールの方は多分ヤクですね。三つ編みの方は暴行とか傷害でしょう。セミロングはマ○コガバガバっぽいんで、ヤリマン罪じゃないスかね」
 愛原:「よく分かるな?てか何だよ、ヤリマン罪って……」

 まあ、売春とかそういう事を言いたいのだろう。

 高橋:「俺の『鼻』が正しかったらの話です」

 新庄運転手が言っていたが、ここのメイドさん達は刑事犯の前科があるらしい。
 で、高橋の『鼻』が正しいと仮定するならば、やはり霧崎さんは……。

 愛原:「すると霧崎さんは……」
 高橋:「殺人っスよ。それも1人じゃないです。未成年だったから死刑が免れただけで、今だったら間違いなく死刑になりますよ」
 愛原:「ユルユルの少年法万歳、だな」
 高橋:「全くです」

 その高橋も少年法に守られたクチだ。

 高橋:「だから他のメイドからもハブられてるじゃないですか。殺人が一番重い罪ですからね」
 愛原:「なるほどな」

 しかし、成人なら死刑判決が出されてもおかしくなかった霧崎さんを、どうして斉藤社長は拾ったのだろう?
 新庄運転手のような交通事犯なら、まだ期せずして加害者になってしまったという情状もあるが、刑事犯の、それも一番罪の重い霧崎さんを選んだ理由とは……?
 顔を洗って再び客間に戻り、そこで服に着替える。

 高橋:「それにしても先生、昨日の社長の話、本当ですかね?」
 愛原:「昨日のいつのどの話だ?」
 高橋:「風呂上がりに、社長の晩酌に付き合ったじゃないですか。その時、社長が『現在流行している新型コロナウィルスは、間違いなく日本中に蔓延する。政府も非常事態宣言を出すことだろう。その時、リサから抽出したウィルスでワクチンが開発できればいいのだが』って話です」
 愛原:「リサの場合、生物兵器だからな。敵をTウィルスに感染させるものを体内に持っている。そしてそのウィルスは、他の病原体としてのウィルス全てを駆逐する……らしいけど、そもそもがなぁ……」

 新型コロナウィルスそのものが、『武漢ウィルス』の異名を持つ、中国で極秘開発されたウィルス兵器が正体だという噂もある。
 もしそれが本当なのだとしたら、アメリカで開発されたTウィルスやGウィルスで本当に対抗できるのかという不安はある。
 もし仮にできたとしても、それを一般人に応用できるのかどうかだ。

 高橋:「非常事態宣言が出されたら、堂々とマグナムぶっ放せますかね?」
 愛原:「新型コロナウィルスがゾンビウィルスに変異したらな。だけど今はまだ、ただの肺炎ウィルスだ。余計な銃火器の使用は禁止だぞ?」
 高橋:「それは残念です」

 着替えてから食堂に行こうとすると、階段の上から霧崎さん、絵恋さん、リサが降りて来た。

 霧崎:「愛原様、おはようございます」
 愛原:「ああ、おはよう」
 高橋:「よ、よう」

 しかし、霧崎さんは高橋のリアクションをガンスルーする。

 絵恋:「おはようございます」
 愛原:「おはようございます。昨夜はリサと一緒に寝た?」
 絵恋:「ダブルベッドのおかげで余裕です」
 リサ:「サイトー、意外と寝相悪い」
 絵恋:「悪かったわね」
 霧崎:「リサ様のおかげで、ベッドからは落ちずに済みましたね」
 リサ:「危うく私が落ちるところだった」
 絵恋:「ごめんなさい!」

 2人は制服ではなく、私服を着ている。
 Tシャツに短パンというラフな服装だ。
 あれで寝たわけではないはずだが……。

 愛原:「あれ?この2人の制服、洗ってくれるんですよね?」
 霧崎:「はい。あとはアイロン掛けをするだけですので、もう少々お待ちください。お帰りになる頃には仕上がります」
 愛原:「あ、そう」

 ダイニングに行くと、まだ斉藤社長はいなかった。
 尚、斉藤社長の奥さんは母親、つまり絵恋さんから見れば母方の祖母に当たるが、それの介護の為に帰省しているという。
 本当は斉藤社長もお見舞いに行きたいらしいのだが、新型コロナウィルスの感染を警戒して行けないとのことだ。
 これも昨夜話してくれた。
 台所ではメイドさん達が食事の支度をしている。
 着ているメイド服は霧崎さんも含め、全員同じデザインの物を着ている。
 秋葉原に行けば見られそうなデザインだ。

 斉藤秀樹:「おー、皆さんお揃いですな」
 愛原:「社長、おはようございます」
 秀樹:「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
 愛原:「ええ、おかげさまで」

 私は一応、社交辞令的に返しておいた。
 まあ実際、高橋よりは眠れた方だろう、きっと。

 秀樹:「またうちの新庄に送らせますので、それまでどうぞゆっくりして行ってください」
 愛原:「はい。ありがとうございます」

 恐らくリサ達の制服のクリーニングが終わった時点で帰ることになるだろう。
 私は朝食のトーストにかぶり付いた。
 厚切りトーストの上、マヨネーズが四角く乗っていて、その中に目玉焼きが入っている。

 愛原:「これは美味い。家でも食べてみたいな」
 高橋:「明日、俺が作りますよ」

 そんなことを話していると……。

 新庄:「あの、旦那様……」

 新庄運転手が遠慮がちに入って来た。

 新庄:「お食事中、申し訳ございません」
 秀樹:「一体どうしたのかね?」
 新庄:「実は……」

 新庄運転手が社長に耳打ちする。

 秀樹:「何だって!?それは本当か!?」
 新庄:「はい。先ほど確認して参りました」

 一体、何があったのだろうか?

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