報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「魔界高速電鉄3号線」

2015-04-16 15:23:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[日付不明10:00.アルカディアシティ郊外の宿屋→グランドバレー駅 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]

 宿屋での調査が終了したと判断したユタ達は、1度人間界に戻ることにした。
 引き払う準備の後で辻馬車(馬車形式のタクシー)を呼ぶと、それで来た道を引き返す。
 来る時には気に留めなかった魔界高速電鉄の駅だが、霧の中から現れた看板に書かれた駅名はあまり個性的ではない。
 どこの地下鉄でも珍しくはないのだが、郊外まで来ると地上に出るのはベタな法則か。
「グランドバレー……。直訳すると、『大谷地』か」
「は?」
 ユタの言葉に目を丸くするマリア。
 馬車を降りて駅構内に入るが、ローカル線の駅みたいに人の気配が少ない。
「えーと……僕達が乗ったのは……」
 実はこの駅、3号線の延伸部分らしい。
「来る度にここの地下鉄、路線図が変わってるからなぁ……」
 毎日、延伸工事や改修工事をしているからだろう。
 変わらないのは市街地部分と保守的な高架鉄道線部分くらいか。
 パタパタパタパタと発車票が表示を変える。
 そう、今や珍しいパタパタ(正式名称、反転フラッグ式)だ。
 系統番号を見ると、3Sとか3Lとか書かれている。
 3Sは『3号線の区間運転(Short Run)』のことで、3Lは『3号線の直通運転(Long Run)』という意味らしい。
 ただ、幸いなのはまだ地下鉄は各駅停車しか走っていないことだ。
 たまに、『2号線ブラックリンダ駅はコドモゴラン(何かのモンスターの名前?)の破壊活動による修理作業のため、全列車通過となります』とか、『1号線32番街駅はマリンスライムの大量発生により、停車致しません』とか書いてある。
 トークンというコインを買って、それを自動改札機のスロットルに入れて回す方式は昔のニューヨーク地下鉄と同じ。
 有人改札に座っている緑色の肌をした何かの魔族らしい駅員は、別にこちらを見ているわけでもなく……。
「3L電車に乗るといいみたいです」
 高架鉄道と見間違える高架部分にある1面2線のホーム。
 本数は地下鉄にしては少なく、20分おき。
 そもそも、延伸されたばかりの3号線まで乗り入れて来る電車自体が少ないようだ。
 明らかに日本の地下鉄と同じ感覚で乗ると、痛い目や泣きを見ること確実の地下鉄である。
 1番線に止まっていたのは3S電車。
 ドア横に掲げられた、明らかに手作り感満載の木製ボードには『3SG会館前』と書かれている。
「え?魔界にも創価学会の会館が???」
「違う。『3号線 市議会議員会館前』行きだと思う」
「うわっ、紛らわしい!」
 ユタ達がパスする電車は、大阪市地下鉄御堂筋線の開業当時の車両に似ていた。
 乗客は1両辺り、2〜3人しか乗っていないほど閑散としている。
「あっ、そうだ。ちょっと待っててください」
「?」
 ユタは再び改札口への階段を下りた。
「すいません。ちょっとあそこの売店で買い物してきていいですか?」
 有人改札口に座っている緑色の肌をした駅員に聞くと、駅員は、
「ウイ」
 と、フランス語で頷いた。
 フランス語は勉強していなかったユタだが、大学時代に教養でフランス語の『ウイ』が『はい』という意味だと知っていた。
 ユタが売店で買い求めようとしたのは新聞。
「うー……アルカディア・タイムス日本語版が無い」
 ユタに読めそうだったのは英語版。
 しょうがないので、これを買い求めた。
「どうもすいませんでしたー」
「ウイ、ウイ」
 ユタはまた駅員の前を通って、ホームへ上がった。

 ホームへ上がると、昔の御堂筋線電車が走り去って行くところだった。
 ホームのベンチに座っているマリアの所へ戻ると、
「フランス語を喋る駅員さんも珍しいですね。いや、実は新聞を買って来たんです」
「多分あれ、ゴブリンじゃないか。『ウイウイ』鳴き声出してなかった?」
「あれ、フランス語じゃなかったんですか!」
「ああ、多分……。で、ユウタ、新聞読んでたっけ?」
「今まで情報が無かったですから。日付自体も分かりませんでしたからね」
「あー……」
 時間は宿屋や駅の時計で分かるが……。
「4月16日って!随分長いこといたんですね!」
「だけど、年は跨いでいない。月すら変わっていないだけマシかもね」
「そういうもんですか」

 プァーン!(電車の警笛の音)

「おっ、入線時間は早いみたい」
 霧の向こうから電車の警笛が聞こえてきた。
 接近放送が鳴ったり鳴らなかったりと、駅によって違うが、ここは鳴らない所らしい。
 まあ、乗客も本数も少ないからか。
 市街地の駅は放送が鳴ることが多いところをみると……。
「おおっ?」
 入線してきた電車は、開業当時の横浜市営地下鉄に似ていた。
 1940年代から1960年代製の電車が多い中、グッと新しく見える。
 今の横浜市営地下鉄は8両編成だが、開業当時の6両編成になっていた。
 もともと魔界高速電鉄の地下鉄自体が6両編成で走ることが多いからだろう。
 ヘッドマークのようにして掲げられているのは3Lの表示。
 ここまで乗ってきた乗客がいるのかどうかすら分からないほどに閑散としていた。
 で、この車両の特徴としては、日本の地下鉄では珍しい、
「ここにしましょう」
 ボックスシートがあることだった。
 運転室直後にはそれがある。
 理由は分からないが、横浜市地下鉄は起点から終点までの乗車時間が長く、また車椅子スペースを設けたことによる着席定員の減少を避ける為ではないかと思う。
 マリアと向かい合って座り、発車時刻を待った。

[4月16日10:40.魔界高速電鉄3号線、直通電車車内 ユタ&マリア]

〔「10時40分発、2号線21番街経由、1号線直通、デビル・ピーターズバーグ行き、発車致します」〕

 珍しく車内放送がある。
 ここの地下鉄はワンマン運転なので、運転士が放送しているのだろうが。
 しかも日本語なので、地下鉄線には珍しい人間の、それも日本人運転士が乗務しているのだろうか。
 運転方法は変わらないみたいだが(停車中は運転室のドアを必ず開ける。ホーム監視は運転士の目視、だいたい自動運転など)。

 電車が走り出す。
 一瞬霧に包まれて外が見えなくなることがあるが、ほぼ自動運転の電車では運転に支障が無いのだろう。

〔「今日も魔界高速電鉄をご利用頂き、ありがとうございます。10時40分発、2号線21番街経由、1号線直通、デビル・ピーターズ・バーグ行きです。1番街へは21番街で、お乗り換えください。尚、途中の5番街駅はスライム族の『最弱モンスターで悪いか!』抗議活動による駅占拠のため、ダークリン駅は成仏できなかった顕正会員の暴動活動による駅閉鎖のため、全列車通過となっております。次は53番街、53番街です」〕

「マジですか……。成仏できずに堕獄した人達って、魔界にいたのか……」
「そのようだ。ユウタ君、塔婆供養してあげたら?」
「い、いや、僕も辞めてるんで……」

〔「……魔界高速電車の円滑な運行のため、正法信徒様の御供養、御協力のほど、よろしくお願い致します」〕

 電車が地下トンネル内に入る。
 ここからずっと電車は地下を走ることになる。
「で、新聞に何か書いてあった?」
 向かい合って座るマリアが聞いて来た。
「いや……。例の飛行機行方不明事故なんですが、もし時空を超えて魔界に来ていたら、とっくに新聞記事になってるだろうなと思ったんですが、そうではないようです」
「そうか……。人間界に戻れば、何か動きがあったかもしれないね」
 やることは、再び人間界での情報収集だ。

 比較的新しい電車は地下トンネル内を突き進んだ。

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1 コメント

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つぶやき (作者)
2015-04-16 19:29:32
 通勤電車であるにも関わらず、ボックスシートが付いているのは良い。
 ただ、立ち席スペースが無くなるのは事実で、都営浅草線で満席の京急600形が来た時にはガックリなったものだ。
 アジアの地下鉄はロングシートが多く、欧米ではクロスシートが多い傾向にある。
 が、さすがにニューヨークの地下鉄はロングシートが主流のようだ。
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