[4月27日 09:00.ユタの家 ユタ、威吹、カンジ、マリア]
ユタは朝の勤行を終え、数珠を数珠入れにしまった。
仏間から出た後、ダイニングに向かった。
「おーはよー」
「あ、おはようございます。稲生さん」
彫りの深い顔立ちでポーカーフェイスのカンジ。
ユタの姿を見ると、少しだけ口元に笑みを浮かべる。
「朝の用意ができてますよ」
「ありがとう。マリアさんは?」
「まだ見えてませんが?」
「寝坊かよ」
威吹は口元を歪めた。
「いいじゃないか。マリアさんはお客さんなんだから」
「申し訳ない。朝の支度に手間取ってしまった」
奥からやってきたマリア。
魔道師の恰好ではなく、普通の私服を着ていた。
後ろからミク人形(初音ミクによく似た人形)が付いてくる辺り、魔道師だということを忘れさせない。
「おはようございます」
ユタは満面の笑顔でマリアを出迎えた。
(こんな顔のユタ、初めて見るなぁ……)
威吹は味噌汁を啜りながら、複雑な感情だった。
「カンジ。今日は剣の稽古をつけよう」
「えっ、本当ですか?」
「だからユタ、悪いけどボクはキミに付いていられないかもしれない」
「ああ。分かったよ。気にしないで」
ユタは威吹がマリアと2人っきりになれるよう、取り計らったのだと気づいた。
そこはさすがに付き合いが長いだけのことはある。
「結局泊まってしまったが、宿泊費はどこに払えばいい?」
「あ、いや、いいんですよ!僕だって、マリアさんの屋敷に何回か泊まらせてもらったことがありますし……」
「そう?」
「はい。だから、どうぞお気になさらず……」
[同日10:00.ユタの家 威吹邪甲&威波莞爾]
※因みにカンジの本名、威波は「いなみ」と呼んだり、「いば」と呼んだりと一貫性を見ない。妖狐の名前としては「いなみ」であるが、人間界での戸籍では「伊庭(いば)」という名字を使っているため、本人的にはどちらでも構わないとのこと。紛らわしいので、威吹やユタは下の名前で呼ぶようにしている。
「先生。お聞きになりましたか?」
「何が?」
「蓬莱山鬼之助のことです」
「キノがどうした?」
「都内で重傷を負ったそうです」
「あいつも腕自慢の鬼族のはずだが、どんなヤツが現れた?」
「栗原江蓮女史との痴情のもつれから、彼女に滅多打ちにされたそうです」
「プww 女にやられたのか。バカだなぁ!」
そこで威吹とカンジ、ハッと気づく。
「あー、コホン。ま、最近の女は強くなったからな」
「江戸時代から……ですよね?」
「あー、そうだったかな……」
↑江戸時代、甲種(A級)霊力の巫女に現代まで封印されていた威吹。
[同日10:20.JR大宮駅 稲生ユウタ&マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]
「えーと……家から適当にここまで来てしまいましたけど、どこへ行きますか?」
「ここからユウタ君が霊力をうなぎ上りにしたという宗教団体は、近いんだったか……な?」
「顕正会ですか?まあ、そうですね」
実は江蓮の家から徒歩10分という近さである。
「ユウタ君の霊力の秘密について参考にしたい」
(わざわざ長野から出てきて顕正会!?)
「だ、ダメ……か?」
「い、いえ!ダメでは無いですよ!ただ、僕はもう法華講員ですので、中までは入っていけませんが……。芙蓉茶寮で堂々と飯食ってるの作者くらいだ」
「じゃあ、行こうか」
「あっ、そうだ。せっかくだから……」
「?」
[同日10:35.JR大宮駅東口11番バス停 ユタ&マリア]
「僕が現役会員時代、日曜勤行に行く時によく乗ってたんです」
「バスか……。意外だね。ユウタ君は鉄道好きだと聞いていたのに」
「こっちの方が法華講員の包囲網も無いし、バス停から会館まで近いことに気が付いたんです。まあ、本数は頗る少ないですけどね」
ユタとマリアは1番後ろのぞ席に座っていた。
乗客は7〜8人ほど乗っている。が、顕正会員らしいのはいない。
〔「お待たせ致しました。寿能先回り、導守循環、まもなく発車致します」〕
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕
バスが走り出す。
「これで行くと、11時の勤行にピッタリだったんですよ。懐かしいな」
「ふむふむ……」
マリアは手帳に何やら書き込んでいた。
魔術の研究に、ユタの霊力が何か関係しているのだろうか。
〔毎度ご乗車ありがとうございます。このバスは寿能先回り、導守循環です。次は氷川参道、氷川参道。……〕
11番バス停から発車するバスは、大宮区役所前を通過する法則。
(※別作品では、アリバイ作りのトリックに使用した)
「ところで、マリアさんに泊まってもらえて嬉しかったんですけど、後でイリーナさんから文句言われたりしませんよね?」
「ああ。それなら心配無い。前にも言ったと思うが、師匠は私のプライベートには介入しない。私に危害を加えたりとかしない限り、師匠は何も言わない。その辺はフランクな方だ」
「でも、水晶玉で見ていたりとか?」
「それは……あるかも……な」
「やっぱり!」
[同日同時刻 長野県内某所 マリアの屋敷 イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
〔「でも、水晶玉で見ていたりとか?」「それは……あるかも……な」「やっぱり!」〕
「クカー……」
水晶玉で見ていたのは事実だが、同時に寝落ちもしていた。
「……もちもちのフワフワなの……何でこの黒猫、四角いの……?……へへ……」
何だかよく分からない寝言を言って……。
[同日10:50.大宮公園入口バス停→顕正会本部会館前 ユタ&マリア]
〔「大宮公園入口です」〕
バスを降りたのはユタとマリアだけだった。
やはりこのバスに、顕正会員は乗車していなかった。
「この道を行くんですよ」
ユタは一方通行の路地に入った。
「なるほど。異様な空気が漂ってくる」
「本当ですか。昔の支隊長とかと、まさか会ったりしないよな……」
ユタは少し不安そうな顔をしていた。
車道を挟んで向かい側の道から、本部会館前の門までやってくる。
「左側にあるのが青年会館、右側が本部会館です」
「なるほど……」
マリアは眼鏡を掛け、魔道書を開いて、スウッと右手を翳した。
「分かった。もういい」
「は、はい。取りあえず、公園の方まで行きましょうか」
2人は大宮公園に向かった。
[同日11:10.大宮公園 ユタ&マリア]
ベンチに隣り合わせにする。
「マリアさん、さっきのは……?」
「ああ。霊気を測定してみた」
マリアは魔道書を開いて、あるページをタップした。
すると、白紙のページに文字が浮かび上がる。
英語表記だったのが、それが崩れて日本語表記に変わった。
「ユウタ君の霊力が上がったのは、確かに顕正会で使用している崇拝物の影響のようだ」
「崇拝物……御本尊ですね。もっとも、顕正会のは偽本尊だったり、血脈の切れたものだったりしますが……」
「そのせいだよ。今はきちんと血脈のある物を拝んでいるので、浄化されつつあるようだが……」
「前にイリーナさんが言ってた、『霊力の暴走』って?」
「私の見立てでは、今の状態なら、寺の本尊を拝んでいれば大丈夫のような気はするが……」
「本当ですか!」
「1番確実なのは、あなたが魔道師になること。そしたら完璧だ」
「はあ……」
「まあ、そんなことをしたら、私が妖狐2人と対決することになるか……。それはユウタ君の望む所ではないだろう?」
「もちろんです!威吹には仲良くやるように伝えてあります」
「それなら、私もユウタ君の希望に沿わなくてはならないな」
「すいませんね。優柔不断で」
「いや……それでいい。……この場合はそれでもいいのだが、ややもするとそれが仇になることもある」
「マリアさん?」
ユタはマリアの目の奥に、どこか悲し気さを見た気がした。
ユタは朝の勤行を終え、数珠を数珠入れにしまった。
仏間から出た後、ダイニングに向かった。
「おーはよー」
「あ、おはようございます。稲生さん」
彫りの深い顔立ちでポーカーフェイスのカンジ。
ユタの姿を見ると、少しだけ口元に笑みを浮かべる。
「朝の用意ができてますよ」
「ありがとう。マリアさんは?」
「まだ見えてませんが?」
「寝坊かよ」
威吹は口元を歪めた。
「いいじゃないか。マリアさんはお客さんなんだから」
「申し訳ない。朝の支度に手間取ってしまった」
奥からやってきたマリア。
魔道師の恰好ではなく、普通の私服を着ていた。
後ろからミク人形(初音ミクによく似た人形)が付いてくる辺り、魔道師だということを忘れさせない。
「おはようございます」
ユタは満面の笑顔でマリアを出迎えた。
(こんな顔のユタ、初めて見るなぁ……)
威吹は味噌汁を啜りながら、複雑な感情だった。
「カンジ。今日は剣の稽古をつけよう」
「えっ、本当ですか?」
「だからユタ、悪いけどボクはキミに付いていられないかもしれない」
「ああ。分かったよ。気にしないで」
ユタは威吹がマリアと2人っきりになれるよう、取り計らったのだと気づいた。
そこはさすがに付き合いが長いだけのことはある。
「結局泊まってしまったが、宿泊費はどこに払えばいい?」
「あ、いや、いいんですよ!僕だって、マリアさんの屋敷に何回か泊まらせてもらったことがありますし……」
「そう?」
「はい。だから、どうぞお気になさらず……」
[同日10:00.ユタの家 威吹邪甲&威波莞爾]
※因みにカンジの本名、威波は「いなみ」と呼んだり、「いば」と呼んだりと一貫性を見ない。妖狐の名前としては「いなみ」であるが、人間界での戸籍では「伊庭(いば)」という名字を使っているため、本人的にはどちらでも構わないとのこと。紛らわしいので、威吹やユタは下の名前で呼ぶようにしている。
「先生。お聞きになりましたか?」
「何が?」
「蓬莱山鬼之助のことです」
「キノがどうした?」
「都内で重傷を負ったそうです」
「あいつも腕自慢の鬼族のはずだが、どんなヤツが現れた?」
「栗原江蓮女史との痴情のもつれから、彼女に滅多打ちにされたそうです」
「プww 女にやられたのか。バカだなぁ!」
そこで威吹とカンジ、ハッと気づく。
「あー、コホン。ま、最近の女は強くなったからな」
「江戸時代から……ですよね?」
「あー、そうだったかな……」
↑江戸時代、甲種(A級)霊力の巫女に現代まで封印されていた威吹。
[同日10:20.JR大宮駅 稲生ユウタ&マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]
「えーと……家から適当にここまで来てしまいましたけど、どこへ行きますか?」
「ここからユウタ君が霊力をうなぎ上りにしたという宗教団体は、近いんだったか……な?」
「顕正会ですか?まあ、そうですね」
実は江蓮の家から徒歩10分という近さである。
「ユウタ君の霊力の秘密について参考にしたい」
(わざわざ長野から出てきて顕正会!?)
「だ、ダメ……か?」
「い、いえ!ダメでは無いですよ!ただ、僕はもう法華講員ですので、中までは入っていけませんが……。芙蓉茶寮で堂々と飯食ってるの作者くらいだ」
「じゃあ、行こうか」
「あっ、そうだ。せっかくだから……」
「?」
[同日10:35.JR大宮駅東口11番バス停 ユタ&マリア]
「僕が現役会員時代、日曜勤行に行く時によく乗ってたんです」
「バスか……。意外だね。ユウタ君は鉄道好きだと聞いていたのに」
「こっちの方が法華講員の包囲網も無いし、バス停から会館まで近いことに気が付いたんです。まあ、本数は頗る少ないですけどね」
ユタとマリアは1番後ろのぞ席に座っていた。
乗客は7〜8人ほど乗っている。が、顕正会員らしいのはいない。
〔「お待たせ致しました。寿能先回り、導守循環、まもなく発車致します」〕
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕
バスが走り出す。
「これで行くと、11時の勤行にピッタリだったんですよ。懐かしいな」
「ふむふむ……」
マリアは手帳に何やら書き込んでいた。
魔術の研究に、ユタの霊力が何か関係しているのだろうか。
〔毎度ご乗車ありがとうございます。このバスは寿能先回り、導守循環です。次は氷川参道、氷川参道。……〕
11番バス停から発車するバスは、大宮区役所前を通過する法則。
(※別作品では、アリバイ作りのトリックに使用した)
「ところで、マリアさんに泊まってもらえて嬉しかったんですけど、後でイリーナさんから文句言われたりしませんよね?」
「ああ。それなら心配無い。前にも言ったと思うが、師匠は私のプライベートには介入しない。私に危害を加えたりとかしない限り、師匠は何も言わない。その辺はフランクな方だ」
「でも、水晶玉で見ていたりとか?」
「それは……あるかも……な」
「やっぱり!」
[同日同時刻 長野県内某所 マリアの屋敷 イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
〔「でも、水晶玉で見ていたりとか?」「それは……あるかも……な」「やっぱり!」〕
「クカー……」
水晶玉で見ていたのは事実だが、同時に寝落ちもしていた。
「……もちもちのフワフワなの……何でこの黒猫、四角いの……?……へへ……」
何だかよく分からない寝言を言って……。
[同日10:50.大宮公園入口バス停→顕正会本部会館前 ユタ&マリア]
〔「大宮公園入口です」〕
バスを降りたのはユタとマリアだけだった。
やはりこのバスに、顕正会員は乗車していなかった。
「この道を行くんですよ」
ユタは一方通行の路地に入った。
「なるほど。異様な空気が漂ってくる」
「本当ですか。昔の支隊長とかと、まさか会ったりしないよな……」
ユタは少し不安そうな顔をしていた。
車道を挟んで向かい側の道から、本部会館前の門までやってくる。
「左側にあるのが青年会館、右側が本部会館です」
「なるほど……」
マリアは眼鏡を掛け、魔道書を開いて、スウッと右手を翳した。
「分かった。もういい」
「は、はい。取りあえず、公園の方まで行きましょうか」
2人は大宮公園に向かった。
[同日11:10.大宮公園 ユタ&マリア]
ベンチに隣り合わせにする。
「マリアさん、さっきのは……?」
「ああ。霊気を測定してみた」
マリアは魔道書を開いて、あるページをタップした。
すると、白紙のページに文字が浮かび上がる。
英語表記だったのが、それが崩れて日本語表記に変わった。
「ユウタ君の霊力が上がったのは、確かに顕正会で使用している崇拝物の影響のようだ」
「崇拝物……御本尊ですね。もっとも、顕正会のは偽本尊だったり、血脈の切れたものだったりしますが……」
「そのせいだよ。今はきちんと血脈のある物を拝んでいるので、浄化されつつあるようだが……」
「前にイリーナさんが言ってた、『霊力の暴走』って?」
「私の見立てでは、今の状態なら、寺の本尊を拝んでいれば大丈夫のような気はするが……」
「本当ですか!」
「1番確実なのは、あなたが魔道師になること。そしたら完璧だ」
「はあ……」
「まあ、そんなことをしたら、私が妖狐2人と対決することになるか……。それはユウタ君の望む所ではないだろう?」
「もちろんです!威吹には仲良くやるように伝えてあります」
「それなら、私もユウタ君の希望に沿わなくてはならないな」
「すいませんね。優柔不断で」
「いや……それでいい。……この場合はそれでもいいのだが、ややもするとそれが仇になることもある」
「マリアさん?」
ユタはマリアの目の奥に、どこか悲し気さを見た気がした。
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