報恩坊の怪しい偽作家!

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“ユタと愉快な仲間たち” 「今度は山に」

2014-09-24 19:57:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月28日12:00.東京都区内某所 日蓮正宗・正証寺近くのソバ屋 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾、藤谷春人]

「へえ。珍しく前乗りするのか。偉い偉い」
 藤谷はソバを啜りながらユタを褒めた。
 正証寺では8月30日と31日で支部総登山がある。
「僕は当日入りだったんですが、イリーナさん達が富士山の麓に行きたいらしく、そうなりました」
「まあ、観光するのもいいけどね。せっかくだから、大石寺でも見てくれればいいのに」
 するとユタは苦笑いして、
「そちらには興味が無いみたいです」
「あー、そうかい。あの人達、稲生君自身に興味があるみたいだからな」
「まあ、ユタには金に換えられない何かがあるからな」
 威吹はキツネうどんの油揚げを頬張った。
 何だかんだいって、油揚げを好むこと自体、狐の妖怪である。
「ちょっと待った。その稲生君に小判を積んだのは、どこの誰だい?」
「あれはユタ自身に対して、というか、ユタの御両親に積んだんだ」
「! そういや、氷菜のヤツ……」
 藤谷は思い当たる節があった。
「あいつが俺んとこに来てから、やたら藤谷組の業績が良くなってるんだが……」
「いいじゃないですか。仏法の功徳ってことで」
 ユタは気にせず、天ぷらソバのえび天に齧りついた。
「キミねぇ……」
 藤谷は呆れたが、
「それにしても、あの魔法使いさん達は、いつまでキミの家にいるつもりなんだい?」
「明日までですよ。僕が30日と31日は支部総登山に行くということで、29日には引き払うようです」
「で、キミと一緒に富士宮か。くれぐれも、謗法には気をつけるんだよ」
「はい」
「何しろあそこには、浅間大社の総本社があるんだからね」
「何気に実は富士宮駅から近いってのがニクいですねぇ……」

[同日15:00.東京都新宿区千駄ヶ谷 JRバス乗り場 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・スカーレット]

「えらく長いことお世話になったねぇ」
 イリーナは目を細めて言った。
「いえ、そんな。僕も1週間ほど、マリアさんの屋敷にお世話になりましたし」
「宿泊代は明日の旅行代金で払うそうだ」
 と、マリア。
「ユタ、もっと請求していいんだぞ?」
 廊下から威吹が顔を出して横槍を入れて来た。
「いや、威吹が言うセリフじゃないと思うな……」
「んあっ!?」
「明日は早く出るって?」
「よく“やきそばエクスプレス”が予約できましたね。これも魔法なんですか?」
「どうだかね」
 イリーナは肩を竦めた。
 藤谷と別れたユタ達は、今度はイリーナ達と合流した。
 東京駅バス乗り場でも良かったのだが、たまたまイリーナが新宿高島屋で買い物をしていたから。

[同日15:11.JR新宿駅4番線 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ、マリア]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。4番線に停車中の電車は、15時16分発、各駅停車、大宮行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 埼京線のホームには、りんかい線の電車が止まっていた。
 りんかい線には帰らず、埼京線内で折り返す、いわゆる「線内折り返し」というものである。
「どういう目的で行くんだ?」
 最後尾の車両に乗り込むと、威吹とカンジは座席に座らず、イリーナに聞いた。
「そりゃ、魔道師の私達が行く所だもの。それならではの用事よ」
 イリーナは答えた。
「ならば、ユタを連れて行くこともあるまい?」
「いや、威吹。いいんだ。僕が行きたいと言ったんだから」
「そうよ。別に取って食べるつもりは無いんだから。安心して」
「安心しろって、お前……」

〔「ご案内致します。この電車は15時16分発、埼京線各駅停車の大宮行きです。途中、武蔵浦和駅で快速、川越行きに接続致します。与野本町と大宮から先へお急ぎのお客様は、1番線から発車の快速、川越行きをご利用ください。……」〕

「いざとなりゃ魔法で一っ飛びだろうに、横着するとはな」
「魔法でヒョイってのも大変だし、味気無いんだからいいじゃない」
「新幹線だと新富士~富士間の移動がビミョーな所ですしね」
 ユタはフォローするように言った。
「だよね。さすがユウタ君」

[同日15:16.埼京線1587K10号車 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ、マリア]

 電車は軽快な発車メロディの後、何秒かのブランクがあって、ドアを閉めた。

〔「お待たせ致しました。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。埼京線、各駅停車の大宮行きです。途中の武蔵浦和で、快速、川越行きの接続がございます。次は池袋、池袋です。……」〕

「アンタはいつ、自分のことについて話すつもりだ?」
 威吹はイリーナに問い質した。
「時期が来たら話すわよ」
「イリーナさんの……生い立ち?」
「私がどうして魔道師になったか。それが気になるんでしょ、威吹君?」
「ていうかこの前、自分でそう言ってたじゃないか」
「!……???」
「アンタ、まさか、『酔っぱらってたもんで忘れました』なんて言うんじゃないだろうな?」
「先日、そのようなことを言ったかもしれない今日この頃です」
 ズコーッ!

[同日15:58.JR北与野駅 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ、マリア]

「僕はマリアさんから、少し聞きましたよ」
 りんかい線用の電車を降りて、改札口へ向かう途中、ユタが口を開いた。
「そうかい?」
「元々は大師匠さんに“奴隷”として買われたこと。でもそれは、大師匠さんがイリーナさんの素質を見出して、どうしても手に入れる為の口実だったとも……」
「あー、正しく私がマリアに話した通りだねぇ……」
「イリーナさんはそれだけ優秀だったんですね」
「ユウタ君にそう言われると照れるねぇ」
「僭越ながら、1つ疑問が……」
 カンジが右手を挙げた。
「なぁに?」
「大師匠殿には既にポーリン師という弟子がいたはず。いくらイリーナ師に多大な素質があったとはいえ、更に弟子入りさせるものなのでしょうか?」
「ただでさえ、魔道師ってのは人材不足だからねぇ……。(大)師匠も、思わず私を買っちゃったって感じみたいよ。でもまあ、私は良かったって思ってる」
 イリーナは微笑を浮かべた。

[同日16:15.ユタの家 ユタ、イリーナ、マリア]

 カンジは夕食の支度をし始め、威吹は自分の和室に引っ込んだ。
 ユタはリビングで、イリーナとマリアと話をしていた。
「今度行く所はね、私が初めて魔道師の杖を作った木のある場所だよ」
「! それは初耳です」
 マリアは目を丸くした。
「樹齢1000年の木ですか。相当な大木なんですね」
「ええ。さすがに杖は消耗品で、私が今使ってるものは別の木から取ったものだけど……。マリアに作ってあげようかと思ってね」
「私にも杖はありますよ」
「いや。それより、もっと強力なヤツね。いつの間にかマリアも、魔力が強くなったみたいだから」
「そうですか?」
 マリア自身に自覚が無い。
「“守りたいもの”ができるだけで強くなる。それは人間も魔道師も同じ。……師匠の受け売りだけど、どうやら本当みたいだね」
 イリーナはマリアとユタを見比べて言った。
「ええっ!?」
「少なくともゴールデンウィークに仙台に行ったことと、今回こうしてお世話になってるのも、けして無駄な時間ではなかったわけよ、マリア」
「は、はい!」
「樫の木か。それじゃ、オレも刀の鞘に使う朴の木でも探してみるか」
 威吹が部屋に入ってきて言った。
「わざわざ富士宮まで行かなくても、朴の木くらい、全国に分布してるはずだよ?」
「いや、富士の山裾の方がいい」
「竹取物語の内容が、妖怪達の間では間違って伝わってることに疑問は抱かないの?」
「いや、人間の方に伝わってる内容の方が間違ってると思う」
「……まあね」
「え?間違いなんですか?」
 ユタは訝し気な顔をした。

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4 コメント

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補足 (作者)
2014-09-24 22:02:15
 埼京線やりんかい線を走る70-000系電車の列車番号は、必ず10の位が「8」になります。
 それ以外はJRのE233系もしくは205系(予備車)です。
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つぶやき (作者)
2014-09-25 17:05:07
神戸の女児殺人事件の犯人は孤独に苛まされていたようだが、こういう所には折伏に行かず、必要としていない人の所ばかりに押し掛けて無用のトラブルを起こしているのだから、仏法も万能とは言えない。
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つぶやき 2 (作者)
2014-09-25 19:44:31
……とはいうものの、もう次なる支部登山への申し込みをしてしまった。
顕正会にはできないことをやっているからだろうか。
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つぶやき 3 (作者)
2014-09-25 20:24:05
富士急静岡バス富士宮営業所で、富士宮富士急ホテルのパンフレットを入手したはいいが、利用する機会が無い。
持病ありの私は、体力的に泊まり掛けの登山が無理だからだ。
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