報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「帰京の旅」 3

2021-09-03 15:44:58 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月25日11:19.天候:晴 宮城県名取市増田 JR名取駅→名取市杜せきのした SAT杜せきのした駅]

〔まもなく名取、名取。お出口は、左側です。東北本線、岩沼、白石方面と常磐線はお乗り換えです。名取を出ますと、次は終点仙台空港です〕
〔The next station is Natori.The doors on the left side will open.Please change here for the Tohoku line for Iwanuma and Shiroishi,and the Joban line.The stops after Natori,will be Sendai Airport,terminal.〕

 仙台駅から途中駅を飛ばして走行してきた快速電車。
 それが唯一の途中停車駅に差し掛かる。
 未だに何も起こらない。
 運転席からはATSの警報音が聞こえる。
 場内信号は黄色の『注意』。
 ということは、その次の出発信号は赤の『停止』だからだ。
 電車は上り本線の1番線ホームに入線した。
 但し、JRとしては上り方向であるが、仙台空港鉄道としては下りである。
 隣の2番線には、仙台空港から来た対向列車が停車していた。
 こちらと違い、短い2両編成のせいか、座席はほぼ全て埋まっているように思える。
 まあ、こちらも似たような状況だが。

 愛原:「ん?」

 電車がホームに止まってドアが開くと、多くの乗客達が降りて行った。
 意外だった。
 確かに客層を見ていると、私達のような旅行客には見えない風体の人達ばかりであったが。
 そして、乗って来る客は少ない。
 これがコロナ禍の影響か。
 途中駅に停車する普通列車であれば、途中駅での需要があったのかもしれないが。

 
(名取駅構内より仙台空港方面を臨む。3つ並ぶ信号機のうち、真ん中が1番線に対する仙台空港アクセス線用の出発信号。単線1閉塞の為、2灯式である)

〔「この電車は仙台空港アクセス線、快速、仙台空港行きです。名取を出ますと、次は終点、仙台空港です。杜せきのした、美田園は通過となります。ご注意ください。まもなく発車致します」〕

 ワンマン運転なので、運転士が肉声放送を行う。
 未だに何も起こらない。
 車外スピーカーから発車メロディが流れて来る。
 この辺りの駅では仙台駅以外発車メロディは無く、代わりに乗降促進メロディが搭載された車両においてはそれを発車メロディ代わりに流す。
 JR東日本の場合は本当に発車メロディ(“Water Crown”)だが、JR東海はオリジナルのメロディである。
 ドアが閉まって、再び電車が走り出す。
 ポイントの通過があるので、速度はゆっくりだ。
 電車はJR東北本線に別れを告げ、仙台空港アクセス線に入った。
 写真で見ても分かるように、ここから高架線となる。

〔この電車は仙台空港アクセス線、快速、仙台空港行きです。次は終点、仙台空港です〕
〔This is the Sendai Airport Access line rapid service train for Sendai Airport.The next station is Sendai Airport,terminal.〕

 電車は高架線に入ると増田川を2回渡る。
 それから国道4号線を高架で跨いで通過する。
 そして最初の通過駅、杜せきのしたに差し掛かる。
 仙台空港アクセス線は全区間単線であるが、途中駅で行き違いができるようになっている。
 但し、その設備があるのは美田園駅だけであって、杜せきのした駅は準備工事が行われているだけに過ぎない。
 その為、杜せきのした駅は1面1線のホームなのだが、島式になっている(つまり2番線はあるが、線路は敷かれていない)。
 通過する際、ホームの乗客に向かって警笛を鳴らすのは当然だろう。
 だが、その警笛が単なる注意喚起としての電子音ではなく、けたたましい空気笛であり、しかもやたら長く鳴らしている。

〔急停車します。ご注意ください。お立ちのお客様は、お近くの吊り革、手すりにお掴まりください〕

 愛原:「ん!?」

 電車がホームに入線した時、ゴツッという音が聞こえた。
 そして、運転室の後ろに立って前面展望を楽しんでいた乗客から、「やっちまった!」という声が。

 愛原:「人身事故か!?」

 私達の乗っている先頭車はホームに入っている。
 私は窓を開けてホームに身を乗り出し、前方を注視した。
 運転士が運転室内にある電話機の受話器を取って、何やら連絡している。

 リサ:「……血の匂いはしないな」

 リサが外からの匂いを嗅いで首を傾げた。

 愛原:「えっ?」

 以前、私達は鉄道人身事故に遭遇したことがある。
 それは本当に人が電車に轢かれたもので、そこから漂って来る血の匂いにリサは涎を我慢することができず、着けていたマスクをグショグショに濡らした。

〔「お客様にお知らせ致します。只今、杜せきのした駅におきまして、線路内に放置されておりました異物と接触し、急停車しました。現在、確認作業を行っております。終了まで、しばらくお待ちください。尚、危険ですので、線路内には絶対に降りないでください」〕

 運転士が肉声放送をしている。
 こういう時、ワンマンだと大変だ。
 階段から駅員が駆け上がって来る。
 そして放送が終わった運転士も電車から降りて、電車が轢いた物の確認に向かった。

 愛原:「今の放送からして、人身事故ではないようだな」
 高橋:「そうですね」
 リサ:「うん。血の匂いはしないから」

 今日も少し風が強い。
 例え人間そのものの姿をした第0形態であっても、嗅覚は普通の人間より優れているから、その風に乗って漂う臭いは分かるはずだ。

 高橋:「一体、何でしょうね?」
 愛原:「分からん」

 風が強いので、何かが飛んで来て線路に落ちたのだろうか。
 ホームに屋根はあるが、新幹線の駅と違って、横が壁で覆われているわけではない。
 しかし、さっきのゴツッという音はなかなか重くて硬い物にぶつかったという感じだったが……。
 それにしても、私達はまだ飛行機の時間まで十分過ぎるほどの時間があるからいいが、これからすぐに搭乗する予定の人達には災難だ。
 電車が遅れても、飛行機は待ってくれないからな。
 その逆はあったりするが(深夜到着便に遅延が発生し、その乗り換え列車が終電の場合は繰り下げ運転が行われることがあるし、場合によっては終電後に臨時列車が運転されることもある)。

 リサ:「お昼までには運転再開してくれるといいね」
 愛原:「そうだな……」

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