“私立探偵 愛原学” 「国道７号線のラーメン屋さん」

［４月３日１１：００．天候：晴　秋田県北秋田市　大館能代空港→秋田自動車道（鷹巣大館道路）］

　秋田県北部の大館能代空港に到着した私達は小休憩の後、空港のレンタカーショップで車を借りた。
　白の日産ＡＤバンである。
　これならまるで、どこかの業者のように見えるだろう。
　こういう時、私も作業ジャンパーを持って来ている。
　上はワイシャツにネクタイながら、その上に作業ジャンパーを着れば、どこかの業者の管理職みたいに見えるはずだ。
　高橋自身は私服だし、リサもいるんだがな。
　あくまで、外装としてはだ。

　愛原：「リサは後ろに乗ってくれ。４ナンバーのライトバンだから、ちょっと狭いだろうけどな」
　リサ：「分かった。大丈夫」

　といってもグレードは良い方のタイプらしく、バン車ながら、リアシートにもヘッドレストは付いていた。

　愛原：「じゃあ高橋、運転頼む」
　高橋：「任せてください！」

　高橋は運転席、私は助手席、リサは私の後ろに座った。
　カーナビも付いているので、これで私は現地の住所を入力する。

〔ポーン♪　実際の交通規則に従って、運転してください〕

　愛原：「これで良し」
　高橋：「じゃ、出発しまっス」

　高橋は車を発進させた。
　ライトバンながら最近の車種はガソリンエンジンで、オートマであることが多い。
　この車もそうだった。

　リサ：「ねえ、先生」

　車が空港を出発し、最初の県道との交差点の赤信号で止まった時、リサが話し掛けて来た。

　愛原：「何だ？」
　リサ：「車の中だけど、元の姿に戻っていい？」
　愛原：「ええっ？」

　私は後ろを振り向いた。
　リサは少し足を広げて座っているので、迷彩柄の短いスカートの中が少し見えている。
　黒いショーツを穿いているようだ。
　今回のリサの同行理由は私達の護衛であるから、下着も動き易いスポーツタイプのを着けて来たのだろう。
　で、リサの周りを見ると、リアウィンドウとリアシート横のドアの窓はプライバシーガラスになっているのが分かった。
　なるほど。
　これなら、外から見られることは無いか。

　愛原：「分かった。車の中にいる時だけだぞ」
　リサ：「ありがとう」

　リサは嬉しそうに微笑むと、たちまち人間の姿から、鬼の姿に変わった。

　リサ：「この姿の方が感覚もする鋭くなるし、敵が来てもすぐに分かるよ。変化のエネルギーで、痩せれるし」
　高橋：「お前、むしろそれが目的だろ」

　高橋はルームミラーを見ながらリサに突っ込んだ。
　信号が青に変わり、車は直進する。
　その先はかつて鷹巣大館道路の起点であった、大館能代空港インターの入口である。
　将来は秋田自動車道に組み込まれることが前提で建設された道路で、今は無料の自動車専用道路扱いである。
　つまり、国道７号線のバイパス扱いということである。
　但し、秋田自動車道の一部として建設されたものである為、鷹巣大館道路を秋田自動車道と呼んで差し支えない。
　ただ、有料供与中の秋田自動車道と区別する為である。
　本線に入ると、片側１車線の道が現れた。
　暫定２車線のようである。
　だからなのか、電光式の速度標識には７０キロという数字が出ていた。
　その後、緑色の看板に、取りあえず目指す大館は２０キロ先であるという数字も出て来た。

　高橋：「しばらくこの道を進めばいいんスね」
　愛原：「そういうことだな」

　暫定２車線の自専道ながら、高速道路の規格で作られた道である為、走ればそれなりに快適であった。

　愛原：「大館北インターで降りるみたいだ」
　高橋：「分かりました」

［同日１１：４５．天候：晴　秋田県大館市某所　スーパーラーメンショップ］

　大館北インターで鷹巣大館道路を降り、あとは国道７号線の本線を走行した。
　番号１桁の上級国道でありながら、地方ということもあって、オレンジ色のセンターラインが引かれた２車線の道路であった。

　愛原：「かなり郊外なんだな……」
　高橋：「そうっスねぇ……」

　青森県の県境付近なのではと思うような場所だった。
　そして、現場はＪＲ奥羽本線の陣馬駅に近い所にあった。
　駅があるということは、一応この近くにも人家くらいはあるのだろう。

〔目的地周辺です。音声案内を終了します〕

　愛原：「え？ここなの？」

　確かにそれは、国道沿いあった。
　多分、陣馬駅からも歩いて来れるのだろう。
　しかし、電車で来る客は無いに等しいと思われる。
　奥羽本線とて、この辺りは電車よりも貨物列車の方が本数が多いくらいなのだから。
　しかし、店舗は情報通り、真新しいものだった。
　しかも砂利敷きの駐車場には多くの乗用車やトラックが止まっており、昼時ということもあってか、とても流行っているようだった。

　愛原：「完全に家の痕跡無いじゃん！？」
　高橋：「参りましたね……」

　取りあえず、駐車場に入る。
　ラーメン屋だからか、私達の後に客が入っては出たりと回転率は高い。
　完全に廃屋らしき物の存在は見当たらなかった。
　恐らく建物は取り壊され、代わりに平屋建てのラーメン店舗が建てられているといった感じだった。
　建物はもう１つプレハブの物があるが、倉庫か何かだろう。
　見た目には開店したばかりの国道沿いのラーメン屋といった感じで、とても怪しい所は無かった。

　高橋：「どうします、先生？店に入りますか？」
　リサ：「お腹空いた」
　愛原：「……一応、中も見てみよう。もしかしたらラーメン屋にカムフラージュした、ヴェルトロのアジトかもしれないしな」

　ま、ちょうどお昼時だし。

　愛原：「リサは第０形態になれよ？」
　リサ：「おっと、そうだった」

　リサは第０形態になってから車を降りた。

　店員：「らっしゃいせーっ！何名様ですか！？」

　店に入ると、これまた“ベタなラーメン屋の法則”で、ハイテンションの店員に迎えられた。
　店員の様子も、別に怪しい所は無い。

　店員：「３名様！……えー、ただいまお席が一杯でして、少しお待ち頂けますか！？」
　愛原：「いいですよ」
　店員：「では、こちらにお名前をお書きになってお待ちください！」

　すぐに席に案内されるより、空き待ちしながら店内の様子を観察した方が良い。
　私は名前を書きながら、店内の様子を見た。
　特に、変わった様子は無い。
　客も国道沿いにあることから、トラックの運ちゃんだったり、一人旅の客だったり、週末だからか家族連れなど、様々である。
　駐車場を見ても、私達の車はすっかり溶け込んでいることが分かった。
　少なくとも私達が調査で来たかどうかは、恐らくバレてはいまい。

　店員：「お待たせしました、愛原様！カウンター席でよろしければ、すぐにご案内できますが、如何でしょうか！？」
　愛原：「あ、いいですよ。そこでお願いします」
　店員：「ありがとうございます！では、こちらへどうぞ！」

　カウンター席は厨房に面している。
　ちょうど厨房の中を確認するのに都合が良い。

　愛原：「この店、随分と新しいみたいですけど、いつオープンしたんですか？」
　店員：「つい半年前です！」
　愛原：「あ、やっぱり」

　それでは２年前の画像には映らないわけだし、高橋の知り合いも入店できなかったのは当然だ。
　この辺りも矛盾は無い。
　何だな……。
　このままだと、私達はわざわざラーメン食べる為だけに遠路遥々秋田に来たことになってしまうぞ。
　参ったな……。

　店員：「ご注文お決まりになりましたら、お呼びください！」
　愛原：「はい」

　３人分の水の入ったグラスが置かれ、私はメニューを広げた。
　メニュー自体は個性的な字体で書かれ、写真がふんだんに取り入れられた見やすいものであったが、しかしこれも最近のラーメン屋では珍しいものではない。
　会津田島に行った時、ホテル近くの新しいラーメン屋に行ったことがあったが、そのチェーン店かと思うようにベタな法則通りなのだ。

　高橋：「先生、どうします？」
　愛原：「取りあえず……何か食べるか。よし、じゃあ俺は醤油チャーシューだな」
　高橋：「じゃあ俺は辛味噌タンメンで」
　愛原：「リサは？」
　リサ：「醤油チャーシュ麺大盛りからの半チャーハンとギョーザと唐揚げと……」
　愛原：「おい！」
　高橋：「お前、食い過ぎをさっき先生に注意されただろ！」
　リサ：「さっき変化したから痩せたよ？」
　愛原：「そういう問題じゃない。リバウンドしないようにしないと」
　リサ：「ちぇっ。じゃあ、先生と同じので。味玉トッピングはいい？」
　愛原：「まあ、それくらいならいいだろう。すいませーん！」
　店員：「ご注文お決まりですかー！？」

　私は店員に注文した。
　その後で私は厨房を見てみる。
　店長は厨房で調理を行っていた。
　しばらく、店長の様子を見てみるか。