報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「愛原公一の行方」

2024-01-05 15:37:46 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月10日16時45分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所]

 以下は私の伯父、愛原公一と栗原蓮華の祖父で師匠でもある栗原重蔵氏との会話である。
 場所は映像からして、民宿さのやの地下室であると思われる。

 愛原公一「……何度も言うが、ワシの発明品は、本来『化学肥料』じゃ。枯れた苗をたちどころに元に戻すという作用があるだけのな。それを日本アンブレラや大日本製薬が目を付けて、買い付けに来たに過ぎんよ」
 栗原重蔵「その『化学肥料』を応用すれば、全身火傷に苦しむ孫娘の傷を癒やすことができることが分かりました。どうか、博士の発明品を御譲り頂きたい。もちろん、金に糸目を付けるつもりはございません」

 栗原重蔵氏、ジュラルミンケースを机の上に置くと、中身を開けた。
 残念ながら、隠しカメラの角度からは、そのケースの中身は見えない。
 だが、その大きさは相当の物だった。
 機内持ち込みは出来ず、貨物室に預けなければならないほどの大きさだ。

 愛原公一「ほほぉ……。これはこれは、大量の札束ですな。これは皆、頂いても宜しいのですかな?」
 栗原重蔵「博士の発明品を譲って頂けるのならば、ケースごとお渡し致しましょう」
 愛原公一「いいでしょう。では、これがワシの発明品じゃ」

 伯父さんは、薬品が仕舞われているであろう冷蔵庫からアンプルを何本か出した。

 愛原公一「ワシの発明品じゃ。本来は試作品なので、名前は無い。まだな」
 栗原重蔵「まあ、でしょうな。これだけの量で、孫娘を助けることができるのですな」
 愛原公一「これだけだと無理ですぞ?何度も言うように、これは『化学肥料』なのですからな?」
 栗原重蔵「分かっておりますとも。日野博士の発明品、それと『鬼の血』と合わせれば、孫娘は助かります」
 愛原公一「日野博士?一体、如何なるお方ですかな?少なくとも、ワシの専攻である農学関係ではなさそうじゃが……」
 栗原重蔵「おっと。口が滑ってしまいました。今のは、他言無用でお願いします。それでは、これで取引は終了ということで……」
 愛原公一「誰も想像付かんでしょうなぁ。鬼退治を代々専門とする旧家、栗原家の総代ともあろう御方が、忌むべき『鬼の血』を用いて妙薬を作ろうなどとは……」

 そこで映像は終わっていた。

 善場「……どうやら愛原公一氏は、お金に目が眩んだようですね」
 高橋「まあ、世の中カネだしな」
 愛原「うちの伯父さんが本っ当すいません!」
 善場「あのジュラルミンケースのサイズいっぱいに現金が詰め込まれていたのだとしたら、おそらく1億円は下らないかもしれません」
 高橋「い、いちおく……!?」
 愛原「栗原家は資産家ですが、そんな簡単に現金1億円を用意できるほどとは……」
 善場「栗原家は代々大地主でありますし、それを元手に不動産事業でも成功している所ですからね」
 愛原「で、目論見通り、栗原蓮華の火傷はたちどころに治った上、左足まで再生できて、そこまでは良かったものの……」
 善場「最初から計画に無理があったのか、或いは途中で何がしかのイレギュラーが発生したのか、鬼型BOW化してしまったということです。これは有力な情報ですね。これで、栗原重蔵氏を刑事告発できます。これはお預かりしても?」
 愛原「あ、はい。どうぞどうぞ。正義の為です」
 高橋「その代わり、札束とインゴットをそろそろ返してもらいてーなぁ……と」
 善場「実は栗原家、脱税の疑いもありますので、そちら側の証拠品になる恐れがあります。それまでは、お返しできないと思います」
 愛原「旅行券とかは?」
 善場「脱税の手口に商品券の購入というのはあまり聞かないので、それは大丈夫だと思います。やはり、現金とかインゴットが怪しいですから」
 愛原「そうですか……」
 善場「とにかく、こちらのSDカードはお預かりします。御協力ありがとうございます。今後もまた何かございましたら、いつでも御連絡ください」
 愛原「承知しました」

 私は善場主任をガレージまで見送った。

 善場「あ、そうそう。リサのことですが……」

 ガレージに止まっていた車の助手席に乗り込もうとした主任が、何か言った。

 愛原「リサが何か?」
 善場「春休みに藤野に行って頂く件のことです。当初の予定では春休み一杯でしたが、もしかしたら、1週間程度で済むかもしれません」
 愛原「そうなんですか」

 因みに善場主任は、レターパックごと持って行った。
 私達や公一伯父さん以外に、誰かの指紋が付いていないか調べる為だろう。
 ただ、1つ気になることがある。
 消印が新東京郵便局ということは、あのレターパックは都内で出されたということになる。
 それも、北西部を除く東京23区内だ。
 伯父さんはそこにいるのだろうか?
 車が出て行き、私はガレージのシャッターを閉めた。
 そして、玄関の戸締りを確認しようと思った。
 玄関のドアはオートロックになっていて、内側からは普通に押せば開くのだが、ドアが閉まると自動で鍵が掛かる。
 1つ欠陥があって、風が強い日は風圧でドアが閉まり切らないというのがあるのだ。
 開けっ放しだとアラームが鳴るのだが、これがまた近所迷惑な音なので、気を使う。
 さっきガレージのシャッターを閉める時に、強い風が吹いて来たのでふと気になったのだ。
 ドアクローザーで閉まり切らないだけなので、普通に手で閉めれば良い。
 一応、ドアを開けたが、ちゃんと開いたし、ドアも普通に閉まった。
 風が強いといっても、そこまでではないらしい。
 ちゃんと鍵が掛かったのを確認すると、私は階段を上った。
 そして、また事務所に戻る。

 高橋「ねーちゃんは帰りましたか」
 愛原「一応な。後は善場主任達に任せるしかないだろう。そろそろ夕飯の時間だ。事務所を閉める準備をしよう」
 高橋「はい」

 高橋は札束やインゴットが手に入らないことを、酷く残念がっていた。
 ただの遺失物なら、いずれは手に入るものだが、犯罪の証拠品かもしれないものとあってはな……。

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