[1月5日03:45.天候:曇 長野県松本市 中央自動車道・梓川サービスエリア]
稲生達を乗せた高速バスが2回目の休憩箇所に入る。
この辺りまで来ると、さすがに積雪を見ないことはない。
バス会社や便によっては乗務員だけの休憩で、乗客は降りれないことも多いが、このバスにおいては昼行便同様、降りて休憩することができる。
稲生:「ん……?」
稲生はそこでふと目を覚ました。
まだ車内は暗く、通路を照らすランプしか点灯していない。
しかし走行音は聞こえて来ず、聞こえてくるのは停車中のアイドリング音や暖房の風の音だけである。
稲生:(ちょっと降りてみるか……)
稲生は自分の魔道師のローブを羽織ると、狭い通路を進んでバスから降りた。
バスの乗降ドアの前には、4時に出発する旨の表示がしてあった。
最初の停留所が安曇野スイス村だから、だいぶ速く走れたのか、それともこれで定時なのか分からない。
少なくとも、15分停車ということは今遅延しているというわけではないようだ。
それにしても冬の朝4時前……というか、まだ夜中だから当たり前だが、外はとても暗い。
地方のサービスエリアとはいえ、オレンジ色や白色の街路灯が煌々と照らしていてもいいはずなのに……。
稲生:「何だ!?」
バスを降りると、そこは辺り一面雪景色だった。
いや、もう冬の長野県北部にいるのだから、それは当たり前だろう。
そうじゃなくて、夜中でも多くの車が往来するサービスエリアにしては除雪が全くされていないのだ。
それどころか……。
稲生:「建物はどこだ!?」
辺りを見回しても、売店やレストランのある建物が見当たらなかった。
それどころか、他に止まっている車が見当たらない。
ここは稲生達が乗って来た高速バスの他に、色々な高速バスが休憩するポイントとなっている。
他のバスも全くいないし、長距離トラックの姿も見当たらない。
稲生:「な、何だ!?」
バスに戻ろうとした稲生だが、そのバスも無くなっていた。
黒と白の世界に取り残されたのだ!
稲生:「しまった!魔法の杖が無い。だ、誰か!いませんか!?」
稲生が助けを呼んだが、返って来る答えは無かった。
いや……。
???:「もし……そこの人……。何か、お困りですか……?」
そこへ、か細い女の声が聞こえてきた。
振り返って見ると、黒いローブを羽織って、フードを深めに被っている魔女の姿があった。
手には魔法の杖。
稲生:「魔道師さんですか!助かりました!僕はダンテ門流の魔道師でイリーナ組に所属している稲生勇太と申します!いきなりこの世界に閉じ込められてしまって……!助けてもらえませんか!?」
魔女:「おやおや……。一介の人間を捕らえるつもりが、それに近い者を捕らえてしまったようねぇ……。やはり、運命というものは信じるべきかしら?」
魔女はズイッと稲生に近づいた。
それでもフードのせいで、顔の上半分は分からない。
が、歪んだ笑みを浮かべているのは分かった。
稲生:「あ、あの……」
魔女:「出口はこっちよ。ついてきなさい」
稲生:「は、はい!」
稲生はホッとして魔女の後ろを付いて行こうとした。
マリア:「ついていくな!勇太!戻れ!」
稲生:「マリアさん!?」
魔女:「チッ……!」
[1月5日03:45.天候:曇 長野県松本市 中央自動車道・梓川サービスエリア]
稲生:「……!!」
マリア:「勇太、大丈夫か?」
稲生が目を開けると、マリアが顔を覗き込んでいた。
稲生:「ゆ、夢……!?」
マリア:「様子が変だと思っていたら、誰かの“ドリーム・トラップ”に入ってしまったようだな」
稲生:「そ、そうだったんですか……。助かりました」
マリア:「それより、バスが止まって何のアナウンスも無いんだけど、何かあったのか?」
稲生:「えーと……」
稲生は自分の腕時計を見た。
時計は夢の世界と同じ時間を指している。
稲生:「きっと……所定の休憩箇所に止まったんでしょう。降りることができますよ」
マリア:「じゃあ、降りてみる」
2人はバスの乗降口に向かった。
夢の世界と同じように、全く同じ位置に全く同じ字体で休憩時間が掲示されている。
今度はマリアも一緒のおかげか、闇の世界ということはなかった。
積雪は相変わらずだが、ちゃんと除雪されているし、ベタな夜中のサービスエリアの法則通りだ。
高速バスが休憩箇所に選ぶだけあって、その規模は大きいものだった。
東北自動車道の那須高原サービスエリアみたいなものか。
ドッグランまである。
稲生:「ちょっとトイレに行ってきます」
マリア:「私も」
トイレに向かっている間、2人は夢の話をした。
マリア:「たまたま夢の波長が、あの魔女と合ってしまったんだね。……いや、最初から勇太を狙っていたのかもな」
稲生:「何なんですか、あれ?」
マリア:「“ドリーム・トラップ”。本来はサキュバスなどの夢魔が使用する妖術を、魔道師用に転用したもの。あれを得意とする組は……日本にはいない」
稲生:「え?」
マリア:「このタイミングでたまたま日本にいた、普段は日本にいない組……」
稲生:「アナスタシア組ですか?」
マリア:「いや、あれはちょくちょく日本に来ている。アン組か……」
稲生:「あ、あの、エルザさん!?」
マリア:「……か、どうかは分からないけどね。夢の魔女、ホウキは持ってた?」
稲生:「いや、無かったですね」
マリア:「じゃあ、違うヤツだな」
稲生:「おちおち寝てもいられないですねぇ……」
マリア:「屋敷の中は師匠の魔法で守られているから、そこにいる分には心配無い。……よし、バスに戻ったら手を繋ごう。私の魔力のプラスすれば何とかなる」
稲生:「は、はい」
マリア:(もっとも、もう私にバレたからには、2度と来ることは無いだろうけど)
稲生とマリアはトイレの入口で別れた。
女子トイレに入ったマリアは、
マリア:(油断も隙も無い奴らだ)
魔女達に対する憤りで個室のドアを閉めてからふと気づく。
マリア:(……私も、つい最近までそうだったっけ。とんだブーメランだった)
魔女達の情報だが、早い者は早い。
マリアが早くも人間時代からの呪い(トラウマや傷痕)から回復しつつあることは広まっており、中にはそれを快く思わない者もいる。
所詮は、“七つの大罪”に捕われた魔女達なのだ。
稲生:(マリアさんと手を……)
一方、男子トイレに入った稲生。
お湯の出る洗面台で、しっかり手を洗っていた。
稲生達を乗せた高速バスが2回目の休憩箇所に入る。
この辺りまで来ると、さすがに積雪を見ないことはない。
バス会社や便によっては乗務員だけの休憩で、乗客は降りれないことも多いが、このバスにおいては昼行便同様、降りて休憩することができる。
稲生:「ん……?」
稲生はそこでふと目を覚ました。
まだ車内は暗く、通路を照らすランプしか点灯していない。
しかし走行音は聞こえて来ず、聞こえてくるのは停車中のアイドリング音や暖房の風の音だけである。
稲生:(ちょっと降りてみるか……)
稲生は自分の魔道師のローブを羽織ると、狭い通路を進んでバスから降りた。
バスの乗降ドアの前には、4時に出発する旨の表示がしてあった。
最初の停留所が安曇野スイス村だから、だいぶ速く走れたのか、それともこれで定時なのか分からない。
少なくとも、15分停車ということは今遅延しているというわけではないようだ。
それにしても冬の朝4時前……というか、まだ夜中だから当たり前だが、外はとても暗い。
地方のサービスエリアとはいえ、オレンジ色や白色の街路灯が煌々と照らしていてもいいはずなのに……。
稲生:「何だ!?」
バスを降りると、そこは辺り一面雪景色だった。
いや、もう冬の長野県北部にいるのだから、それは当たり前だろう。
そうじゃなくて、夜中でも多くの車が往来するサービスエリアにしては除雪が全くされていないのだ。
それどころか……。
稲生:「建物はどこだ!?」
辺りを見回しても、売店やレストランのある建物が見当たらなかった。
それどころか、他に止まっている車が見当たらない。
ここは稲生達が乗って来た高速バスの他に、色々な高速バスが休憩するポイントとなっている。
他のバスも全くいないし、長距離トラックの姿も見当たらない。
稲生:「な、何だ!?」
バスに戻ろうとした稲生だが、そのバスも無くなっていた。
黒と白の世界に取り残されたのだ!
稲生:「しまった!魔法の杖が無い。だ、誰か!いませんか!?」
稲生が助けを呼んだが、返って来る答えは無かった。
いや……。
???:「もし……そこの人……。何か、お困りですか……?」
そこへ、か細い女の声が聞こえてきた。
振り返って見ると、黒いローブを羽織って、フードを深めに被っている魔女の姿があった。
手には魔法の杖。
稲生:「魔道師さんですか!助かりました!僕はダンテ門流の魔道師でイリーナ組に所属している稲生勇太と申します!いきなりこの世界に閉じ込められてしまって……!助けてもらえませんか!?」
魔女:「おやおや……。一介の人間を捕らえるつもりが、それに近い者を捕らえてしまったようねぇ……。やはり、運命というものは信じるべきかしら?」
魔女はズイッと稲生に近づいた。
それでもフードのせいで、顔の上半分は分からない。
が、歪んだ笑みを浮かべているのは分かった。
稲生:「あ、あの……」
魔女:「出口はこっちよ。ついてきなさい」
稲生:「は、はい!」
稲生はホッとして魔女の後ろを付いて行こうとした。
マリア:「ついていくな!勇太!戻れ!」
稲生:「マリアさん!?」
魔女:「チッ……!」
[1月5日03:45.天候:曇 長野県松本市 中央自動車道・梓川サービスエリア]
稲生:「……!!」
マリア:「勇太、大丈夫か?」
稲生が目を開けると、マリアが顔を覗き込んでいた。
稲生:「ゆ、夢……!?」
マリア:「様子が変だと思っていたら、誰かの“ドリーム・トラップ”に入ってしまったようだな」
稲生:「そ、そうだったんですか……。助かりました」
マリア:「それより、バスが止まって何のアナウンスも無いんだけど、何かあったのか?」
稲生:「えーと……」
稲生は自分の腕時計を見た。
時計は夢の世界と同じ時間を指している。
稲生:「きっと……所定の休憩箇所に止まったんでしょう。降りることができますよ」
マリア:「じゃあ、降りてみる」
2人はバスの乗降口に向かった。
夢の世界と同じように、全く同じ位置に全く同じ字体で休憩時間が掲示されている。
今度はマリアも一緒のおかげか、闇の世界ということはなかった。
積雪は相変わらずだが、ちゃんと除雪されているし、ベタな夜中のサービスエリアの法則通りだ。
高速バスが休憩箇所に選ぶだけあって、その規模は大きいものだった。
東北自動車道の那須高原サービスエリアみたいなものか。
ドッグランまである。
稲生:「ちょっとトイレに行ってきます」
マリア:「私も」
トイレに向かっている間、2人は夢の話をした。
マリア:「たまたま夢の波長が、あの魔女と合ってしまったんだね。……いや、最初から勇太を狙っていたのかもな」
稲生:「何なんですか、あれ?」
マリア:「“ドリーム・トラップ”。本来はサキュバスなどの夢魔が使用する妖術を、魔道師用に転用したもの。あれを得意とする組は……日本にはいない」
稲生:「え?」
マリア:「このタイミングでたまたま日本にいた、普段は日本にいない組……」
稲生:「アナスタシア組ですか?」
マリア:「いや、あれはちょくちょく日本に来ている。アン組か……」
稲生:「あ、あの、エルザさん!?」
マリア:「……か、どうかは分からないけどね。夢の魔女、ホウキは持ってた?」
稲生:「いや、無かったですね」
マリア:「じゃあ、違うヤツだな」
稲生:「おちおち寝てもいられないですねぇ……」
マリア:「屋敷の中は師匠の魔法で守られているから、そこにいる分には心配無い。……よし、バスに戻ったら手を繋ごう。私の魔力のプラスすれば何とかなる」
稲生:「は、はい」
マリア:(もっとも、もう私にバレたからには、2度と来ることは無いだろうけど)
稲生とマリアはトイレの入口で別れた。
女子トイレに入ったマリアは、
マリア:(油断も隙も無い奴らだ)
魔女達に対する憤りで個室のドアを閉めてからふと気づく。
マリア:(……私も、つい最近までそうだったっけ。とんだブーメランだった)
魔女達の情報だが、早い者は早い。
マリアが早くも人間時代からの呪い(トラウマや傷痕)から回復しつつあることは広まっており、中にはそれを快く思わない者もいる。
所詮は、“七つの大罪”に捕われた魔女達なのだ。
稲生:(マリアさんと手を……)
一方、男子トイレに入った稲生。
お湯の出る洗面台で、しっかり手を洗っていた。
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