報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「犠牲の双子」 

2015-03-07 16:23:22 | アンドロイドマスターシリーズ
[3月12日14:00.埼玉県さいたま市西区 デイライト・コーポ―レーション埼玉研究所 平賀太一&敷島孝夫]

「うわ……エグ……」
 平賀は都内で行われるシンポジウムに参加の為、前泊目的で首都圏入りしていた。
 JR大宮駅で敷島と待ち合わせ、そこからタクシーでさいたま市郊外の研究所へ向かった。
 技術の最先端を行く研究所なだけに警備は厳重であったが、別に秘密の研究所でもないので、ちゃんとした用件のある来訪者であれば入館可能だ。
 平賀が敷島エージェンシーのボーカロイドの整備を一手に引き受ける、デイライト・コーポ―レーションの研究所に行った理由はただ1つ。
 産休に入るアリスに代わり、ボーカロイドの鏡音リン・レンの修理を引き継ぐ為だった。
「こんな時期に、こんな損傷を受けて、誠に情けない限りです……」
 敷島は項垂れた様子だった。
 台の上に大の字に仰向けに寝かされた鏡音レン。
「これは……拷問でも受けたのですか?」
 さすがの平賀も面食らった感じになっていた。
 お互い、ロボット・テロリズムという修羅場を掻い潜って来た仲でもあるにも関わらず、動揺している。
「拷問……でしょうね、きっと」
「いや、しかしこれは……文句無しの犯罪レベルですよ?」
「そうですね。今も尚、ヤツは逃走中です」
 レンは修理のため、全裸の状態になっていて電源が切れている。
 で、1番目立つ傷は、なるべく人間に近づける為なのか、本来なら再現されている、下半身についているはずのアレが無くなっていた。
「もしレンが人間なら、ヤツは傷害致傷罪でしょう。しかし哀しいかな、現実は器物損壊罪と、それによる会社の業務を妨害した業務妨害罪でしか訴えられないのです」
「知り合いの法学者から聞いたのですが、ボーカロイドを稼働不能にして敷島さんの会社の業務を妨害したのだから、威力業務妨害罪というよりは電子計算機損壊等業務妨害罪に問えるかもと言ってましたね。まあ、法定刑はどちらも同じらしいですが」
「ええ……」
「リンは?リンは直接、虐待を受けたわけではないでしょう?」
「用途外の仕事を強制的にさせられたことで、ソフトウェアに異常を出して、これまた再起動すらできなくなっている状態で……」
「参りましたね」
「参ってるんですよ、だから……。何とか、先生にお願いしたいんですよ。ここの研究員達は、ボーカロイド達に関してはまだ駆け出しらしくて……」
「分かりました。うちの大学の卒業式もあと少しですから、それが終わったら、集中的にやりましょう。ナツにも手伝わせますよ」
「ありがとうございます。どうか、よろしくお願い致します」
「お互い、ウィリーの攻撃を掻い潜って来た仲じゃないですか。だから敷島さんにも、自分からお願いしたいんですよ」
「何をですか?」
「芸能界の方がマスコミに近いでしょう?もし十条の話を聞いたら、自分にも教えて下さい」
「なるほど。マスコミの情報は速いですからな。幸い従弟が記者をやっているので、それに関してはご期待に沿えそうです」
「では、急ピッチで行います」

[同日15:00.東京都墨田区菊川 敷島エージェンシー 井辺翔太]

「こんにちは」
「あら?未来のプロデューサーさん、どうしました?」
 井辺が事務所を訪れると、一海が出迎えた。
「いえ。自分、もう卒業式を待つだけで、ヒマなので、来てみました。本当は世界1周旅行の準備に取り掛かるはずなんですが、両親がどうしても許可してくれなくて……」
 井辺は眉を潜めて頭をかいた。
「そのことなんですけど、社長が、『御両親からうちへの入社は了承してくれただろうか?』と、気にしてましたよ?」
「ええ、それについては喜んでくれました。……ので、大丈夫だと思います」
「良かったです。奥に未夢ちゃんとLilyちゃんがいますから、どうぞお話ししていってください。……あ、今お茶出しますね」
「あの……もう1人のメンバーは?」
「今修理に入っているボーカロイドがいて、そちらが優先になるようです」
「随分と時間が掛かるんですね。確か、鏡音リンとレン。故障で休業するとマスコミで発表があったのは、2月の半ばぐらいだったと思いますが」
「まあ……そうですね」
 そこへ、外線電話が掛かって来る。
「お電話ありがとうございます。敷島エージェンシーでございます。……あ、はい。いつもお世話になっております。……はい」
「…………」
 井辺は事務所内に貼られたボーカロイド達のポスターを眺めていた。
 その中に仲睦まじく手を繋いで満面の笑みを浮かべる鏡音リン・レンの姿があった。
『2月5日はふたごの日!』
 と、ポスターに書かれている。
 本来の双子の日は12月13日なのだが、語呂合わせと多胎児グッズを取り扱う民間企業がキャンペーンの一環として打ち出している。
 その為、12月の方は『双子』、2月の方は『ふたご』と漢字と平仮名表記で区別している。
 リンとレンは、その民間企業とCM契約をしていたのだろう。

「あ、プロデューサーさん、こんにちは」
 奥の休憩室に行くと、未夢とLilyがいた。
「どうも。……まだ事前研修も受けてないので、『プロデューサー』と呼ぶ必要は無いですよ」
「そうでしょうね」
 井辺の言葉に無表情で答えるLily。
「Lilyさんは早速、お仕事が入っているようですね」
「まあ……劇場時代、それなりに歌っていたので」
「私はまだ実績が無いので、待機状態です」
「4月からプロジェクトを始動すると、社長から聞きました。どうか、それまではお待ちください」
「はい!」
「……ところで、鏡音さん達に何があったか、ご存知ですか?時間が掛かっているところを見ると、かなり重大な事態があったと予想されるのですが……」
「さあ……」
 Lilyは首を傾げ、
「私も何も聞かされていません」
 未夢も申し訳無さそうに答えた。
「そうですか。頂いた資料を自分なりに熟読してみたのですが、やはり皆さんは精密機械の塊だということで、取扱いには十分注意しなければならないようですね」
「まあ、少しぶつけたくらいで壊れるほどヤワではないけどね。あそこにいる一海さんや、そこの未夢ほど頑丈でもないけど……」
「なるほど。もし鏡音さん達が、こちら側……人間側の取扱い不備によるものが原因だったとしたら、私も気をつけなければならないと思い、まずは何があったのか知ろうと思ったんです」
「多分、後で社長が教えてくれるんじゃない?」
「そうですよ」
「そうですかね……」
 井辺は首を傾げた。

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