報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「大宮に到着」

2018-05-31 14:08:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月11日15:22.天候:曇 JR大宮駅]

 稲生達を乗せた列車は、順調に東北新幹線の上り線を走行していた。
 利根川の橋は、さすがに新幹線であってもトラス橋である。
 それを越えたら、すぐ左手にラウンドワンのボウリングのピンが見えて来る。
 更に南下すると東北自動車道と立体交差するが、夜間は高速道路のオレンジ色の街灯が整然と並んでいて実に神秘的な感じである。
 昼間は、ただ単に立体交差しただけという感じだが。
 もっと進むと、上越新幹線と北陸新幹線の共用線路が並行してくる。
 それだけではなく、埼玉新都市交通ニューシャトルの軌道もその横に付く。
 そうなると、大宮はもうまもなくだ。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。上越新幹線、長野新幹線、高崎線、埼京線、川越線、京浜東北線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、上野に止まります〕

 稲生:「何だか、あっという間だったなぁ……」
 威吹:「さようだな」

 ところで、随分と中途半端な時間に帰る稲生達だと思う。
 それには理由があった。

 マリア:「師匠が到着したらしい。やっぱり、私達の方が遅かった」

 マリアは水晶球を見ながら言った。

 稲生:「ありゃりゃ。やっぱりそうですか。“はやぶさ”は満席で取れなかったんですよ」
 威吹:「……というよりは、3人まとまった席が取れなかっただけの話では?」
 稲生:「はははは……。まあ、そうなんだけど」
 マリア:「まあ、師匠のことだ。どうせ、アイスクリームでも食べながら待っているさ」
 稲生:「それもそうですね」
 威吹:「本当にいいのか、それで?」

 威吹が呆れる中、列車はホームに滑り込んだ。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。14番線に到着の電車は……」〕

 稲生達はホームに降り立った。

 威吹:「この駅に来るのも、久方ぶりだ……」

 威吹は懐かしそうに言った。
 不老不死同然の妖狐からしてみれば、それほど長い時を経たというわけではないのに、妙に威吹には懐かしく思えたようだ。

 稲生:「そうだね。じゃ、取りあえずイリーナ先生と合流しよう」

 ホームからコンコースに下り、そこから新幹線改札口を出る。

 稲生:「先生はどこにいらっしゃるでしょう?」
 マリア:「向こうのカフェで、アイスでも食べてるさ」

 マリアは東口を指さした。
 そこで稲生達、在来線コンコースの人波をかき分けるようにして東口に近い改札口を出た。
 これで完全に、松島海岸駅で買ったキップは全て回収されたことになる。

 マリア:「多分、あの店だ……」
 稲生:「最近、リニューアルされたカフェですね。あそこで作者が紹介された女性と会う度にフラれるそうです」

 こら!

 マリア:「あー、いたいた。師匠〜!」
 威吹:「相変わらず、暢気な婆さんだ」

 イリーナは若作りの魔法で、見た目30代半ばほどの女性の姿をしているのだが、威吹の目には誤魔化せなかったようだ。
 もっとも、威吹とて齢400年以上は過ぎているのだが。

 イリーナ:「マリアは心の中で、威吹君は実際に声を出して私の悪口を言ったわね?」
 マリア:「ええっ?!」
 威吹:「は?オレが?いつ?……え?いや、あんた婆さんだろ」
 イリーナ:「

 ガッコーン!(何故か威吹の頭上に金ダライが落ちて来た)

 威吹:「……いってぇ……!おい、コラ!」
 稲生:「威吹。イリーナ先生に、年齢のことを言うのは大変失礼なことなんだよ?」
 威吹:「妖狐の世界じゃ、齢4桁は既に老翁の域なんだがな!」

 威吹は頭を押さえながら文句を言った。

[同日16:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生達は大宮駅からタクシーに乗って稲生家に向かった。
 魔道師達はリアシートに座り、威吹は助手席に座った。
 シートベルトを忘れずに締める辺りは、人間界にそれだけ長く住んでいたことの証であろう(アルカディアシティの辻馬車にはシートベルトは無い)。

 稲生:「すいません、そこでお願いします」
 運転手:「ここでよろしいですか」

 稲生は財布の中から料金を出そうとした。

 イリーナ:「いや、いいよ。アタシのカード使って」
 稲生:「あっ、すいません……」

 マリアがイリーナから預かったゴールドカードを出す。

 威吹:「懐かしいな……」

 威吹が先に降りて、稲生家を眺めた。

 稲生:「威吹、多分母さんは中にいると思うから、一緒に行こう」
 威吹:「おお、そうか」

[同日17:00.天候:晴 稲生家]

 威吹が勇太の母親の佳子に挨拶すると、佳子はとても驚いていた。
 客間はイリーナとマリアの師弟が使う為、威吹は勇太の部屋に布団を敷いて寝ることにした。

 稲生:「布団なら余ってるからね」
 威吹:「ふっ。本当に、懐かしいな」
 稲生:「そうだねぇ……」
 威吹:「ユタが顕正会を辞めたことで仏の加護が無くなったことを知った悪い妖(あやかし)共の襲撃が激しくなり、ボクが泊まり込んで護衛したこともあったな」
 稲生:「そうだね」

 高等妖怪たる妖狐・威吹の睨みにより、多くの中・下等妖怪達は稲生勇太襲撃を躊躇したが、それでも威吹の監視の隙を突いて勇太を襲おうとした者は多かった。

 威吹:「おお。2階のシャワールームはまだ稼働させているのか?」
 稲生:「そうなんだ。マリアさんが気に入ったみたいでね」
 威吹:「おいおい。急ごしらえの設備で、脱衣所は無いのだぞ?ユタが部屋にいても使うのか?」
 稲生:「そうなんだ」
 威吹:「ユタ」

 威吹はポンと勇太の肩を叩いた。

 威吹:「『据え膳食わぬは男の恥』という言葉について、今一度勉強しようか。この場合、女が無防備な姿で湯浴みをしていることに端を発し……」
 マリア:「おい!

 いつの間にか、マリアが勇太の部屋の前にいた。

 稲生:「あっ、マリアさん!?」
 マリア:「ディナーの前に、シャワーを使わせてもらうよ。……そこのアホ狐は首輪付けて、リードで繋いでおけ」
 威吹:「オレは犬か!」

 まあ、確かに狐はイヌ科の動物である。
 が、生態行動については、どちらかというとネコに近い。

 稲生:「あ、そうだ。威吹、もうすぐ17時だよ」
 威吹:「ぬ?というと……」
 稲生:「ほら、例のアレを」
 威吹:「おお、そうだったな」

 威吹は着物の懐から篠笛を取り出した。
 そして、軽業師のようにヒョイと2階の屋根の上に上がる。

 稲生:「始まるぞ。威吹の笛の独奏」

 本来なら他の和楽器とも合わせれば最高なのだが、威吹の場合は篠笛だけでも、相当の聴き心地がある。
 ヒマさえあれば笛を吹いていたのだが、いつの間にか毎日17時ということになった。
 この時ばかりは、他の妖怪達も勇太に手を出すのを止めたほどである。
 奇しくもこの時間は、威吹が人喰いを開始する時の合図で吹いていた時刻と同じであった。

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