[7月5日15時00分 天候:雨 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所2階]
リサは傘を差しながら事務所に帰って来た。
雨が1日中降っていて、いわゆる梅雨寒の状態。
気温はいつもより低いはずだが、体温の高いリサにはあまり関係無かった。
むしろ、これから梅雨が終わって、また暑い暑い夏が来る事が憂鬱だ。
鬼形態でいると、服など邪魔で仕方なく、裸になりたい衝動に駆られる。
さすがにそれは大好きな愛原に怒られるから堪えているが。
リサ「ん?」
ガレージのシャッターが開いていて、来客用の駐車場にはシルバーのミニバンが止まっていた。
リサは直感で、それが警察関係の車だと思った。
ナンバーこそ違うが、東京中央学園に来た刑事達も、同じ車種の車で来たからである。
リサ「……お兄ちゃんの関係かなぁ?」
リサの所にも、高橋脱走の話は来ていた。
昼休みの後で、職員室に呼ばれた。
そこでは警察が待っていて、高橋の事を聞かされ、どこか逃走先を知らないかと聞かれたものだ。
当然リサが知る由も無く、学校側も5時間目の授業が始まっているからと、警察の食い下がりを制止した。
最後には名刺を渡され、高橋の居場所が分かったら、ここに連絡をと言われて解放された。
5時間目は体育だったので、リサは無理やり復活させたブルマを穿いていた。
刑事は、『東京中央学園さんは、ブルマを復活させたの?』なんて質問をしてきた。
学校関係者は、『あくまでも、生徒の自主性を重んじる教育方針なので』と誤魔化していた。
リサ「ただいまァ……」
リサはエレベーターではなく、階段を昇って事務所を覗いてみた。
事務所の中には誰もいないようだが……。
愛原「リサ!」
すると、3階から愛原が下りて来た。
下りて来たのは愛原だけではない。
2人のスーツ姿の男達も一緒だった。
リサはすぐに刑事だと分かった。
東京中央学園に来た刑事とは違うが。
リサ「先生、ただいま」
刑事A「このコは?」
愛原「NPO法人デイライト様よりお預かりしているコですよ」
刑事A「このコが……」
さすがにリサのことは、お役所関係には隠し切れないようである。
もっとも、デイライトだって、公安調査庁の隠れ蓑の1つに過ぎないのだから、似たような仕事をしている公安警察には隠せないか。
リサ「どうしたの?」
愛原「高橋が脱走したという話は聞いただろう?当然、逮捕前にここで住み込みで働いていてたうちが疑われるわけだ。それで、中を見せて欲しいってさ」
リサ「ふーん……。パールさんは?」
愛原「出てった」
リサ「ファ?」
愛原「警察で追ってるって」
刑事A「何か疚しいことがあって逃走したかもしれませんからね。しかもこの雨の中、傘も差さずに、でしょ?」
リサ「傘を差さずに!?」
刑事B「本当に、行先に心当たりは無いのですね?」
愛原「先ほども言いましたように、彼女の交友関係からして、アキバのメイドカフェか、閉鎖中の埼玉の斉藤秀樹容疑者の家しか無いですね」
刑事A「アキバの方は、彼女が現れたという連絡は無い」
刑事B「斉藤容疑者の行き先については?」
愛原「残念ながら、それについては公安調査庁の方から口止めをされていますので」
刑事A「チッ……」
公安調査庁と公安警察は、このように縄張りが重なることがあり、そこで軋轢が発生することもあるとのこと。
その為、公安警察が公安調査庁の協力者をマスコミにリークして、公安調査庁の捜査を妨害したこともあった。
愛原が正にその立場。
隠れ蓑たるNPO法人を介してとはいえ、実質的に公安調査庁から委託を受けている立場なので、愛原としては警察よりもそちらが優先なのだろう。
但し、逮捕権があるのは警察の方。
そして、当然ながら捜査令状を持って来られたからには、たちまち優先順位は警察側に転位することとなる。
刑事A「ありがとうございました。また何か分かりましたら、こちらに御連絡を……」
愛原「どうもお疲れさまでした」
愛原は刑事達と共にエレベーターに乗って1階に下り、刑事達の見送りに行った。
そしてしばらくするとエンジン音が聞こえて来て、刑事達の乗った車は、降りしきる雨の中、事務所のガレージから出て行った。
高野「警察はもう帰ったかしら」
リサ「! わっ、ビックリした!」
天井の点検口をパカッと開けて、そこから高野芽衣子が出て来た。
さしものリサもビックリしたほどだ。
ショックで角が生えたくらいだ。
高野「久しぶりね、リサちゃん?」
リサ「た、高野さん……」
高野「愛原先生とは、進展があったのかしら?」
リサ「お、おかげさまで……」
高野「さすがに指名手配犯の私がここにいたら、先生に迷惑が掛かるからね。警察が帰るまで、隠れてたの」
リサ「そ、そう……」
そして、愛原がエレベーターで戻ってくる。
愛原「警察は帰ったぞ。高野君はいつまでいるんだい?」
高野「あら?私、まだ全てを話しておりませんことよ?」
愛原「しかし、さっきから表現が曖昧じゃないか」
高野「実は“青いアンブレラ”内でも、情報が錯綜しておりましてね、どれが真実で、どれがウソなのか、トンチを働かせている最中なんですよ」
愛原「いいのか、それ!」
高野「それより、もう警察は来ないでしょうし、デイライトの善場も、テラセイブのパールも今日は戻って来ないでしょうから、今日は私がここでボランティアしますよ」
愛原「いいのかよ……」
リサ「何か、昔に戻ったみたいだね。これでお兄ちゃんがいれば……」
高野「マサはホント残念だったわね。正規メンバーの誘いを受けたのが、運の尽きだったってわけ」
愛原「何であのタイミングで脱走したりしたんだ?」
高野「恐らく、テラセイブ側の作戦失敗でしょうね」
因みにテラセイブとは、1998年に起こったアメリカのラクーン市壊滅をきっかけに立ち上げられたNGO団体である。
主な活動内容は、『バイオテロ・薬害事件を秘匿・隠蔽する企業や組織を糾弾・告発すること』『バイオテロ・薬害事件に遭った被害者や犠牲者を支援・救済すること』としている。
BSAAが国連機関の1つであり、どちらかというと、バイオテロ組織の掃討や壊滅、そのメンバーの拘束を主な活動内容としているのとは違い、その後方支援活動を主にしていることが分かる。
その為、基本的にはBSAA側であり、“青いアンブレラ”側でもあるのだが、何回か起こった不祥事により信用が低下し、今はBSAAや“青いアンブレラ”ほど目立った活動はしていないと言われている。
ただ、霧生市のバイオハザードをきっかけに日本支部が作られたという噂はあったが、実際にそのメンバーが現れることは無かったので、ただの噂だったのだろうと思われていた。
ところが……。
愛原「パールって、テラセイブの人間だったんだ」
高野「ええ。日本人名の霧崎真珠は、恐らく通名。本名は恐らく横文字です」
愛原「でも顔は日本人だで?」
高野「日系人もそりゃいるでしょうからね。霧生市で、私達の前に現れたジョージ伍長みたいに」
愛原「そうか……」
高野「と、いうわけで、今夜の夕食はパールに代わり、私が作ります。何がいいですか?」
リサ「肉!」
愛原「そうだな……。今日は雨のせいか、少し寒い。梅雨が明けたら、もう食べる気無くすだろうから、今のうちに鍋にでもするか」
高野「了解しました。それじゃ早速、買い出しに行って参ります」
愛原「ああ。それじゃ、カード渡すよ。本当にいいのかい?指名手配……」
高野「この辺りには交番もありませんし、警察に見つかる心配はほぼゼロです。今はマサや“コネクション”のメンバーを追うのに忙しいでしょうからね。……あ、ビニール傘借ります」
愛原「いいよ。リサも連れて行かせるか?」
リサ「むふー!」
高野「いいですよ。リサちゃんは、テスト勉強してて」
リサ「テスト明日まで……」
愛原「あー、だったら勉強しておきな」
リサ「はーい……」
リサは渋々、階段で自分の部屋がある4階に向かった。
リサは傘を差しながら事務所に帰って来た。
雨が1日中降っていて、いわゆる梅雨寒の状態。
気温はいつもより低いはずだが、体温の高いリサにはあまり関係無かった。
むしろ、これから梅雨が終わって、また暑い暑い夏が来る事が憂鬱だ。
鬼形態でいると、服など邪魔で仕方なく、裸になりたい衝動に駆られる。
さすがにそれは大好きな愛原に怒られるから堪えているが。
リサ「ん?」
ガレージのシャッターが開いていて、来客用の駐車場にはシルバーのミニバンが止まっていた。
リサは直感で、それが警察関係の車だと思った。
ナンバーこそ違うが、東京中央学園に来た刑事達も、同じ車種の車で来たからである。
リサ「……お兄ちゃんの関係かなぁ?」
リサの所にも、高橋脱走の話は来ていた。
昼休みの後で、職員室に呼ばれた。
そこでは警察が待っていて、高橋の事を聞かされ、どこか逃走先を知らないかと聞かれたものだ。
当然リサが知る由も無く、学校側も5時間目の授業が始まっているからと、警察の食い下がりを制止した。
最後には名刺を渡され、高橋の居場所が分かったら、ここに連絡をと言われて解放された。
5時間目は体育だったので、リサは無理やり復活させたブルマを穿いていた。
刑事は、『東京中央学園さんは、ブルマを復活させたの?』なんて質問をしてきた。
学校関係者は、『あくまでも、生徒の自主性を重んじる教育方針なので』と誤魔化していた。
リサ「ただいまァ……」
リサはエレベーターではなく、階段を昇って事務所を覗いてみた。
事務所の中には誰もいないようだが……。
愛原「リサ!」
すると、3階から愛原が下りて来た。
下りて来たのは愛原だけではない。
2人のスーツ姿の男達も一緒だった。
リサはすぐに刑事だと分かった。
東京中央学園に来た刑事とは違うが。
リサ「先生、ただいま」
刑事A「このコは?」
愛原「NPO法人デイライト様よりお預かりしているコですよ」
刑事A「このコが……」
さすがにリサのことは、お役所関係には隠し切れないようである。
もっとも、デイライトだって、公安調査庁の隠れ蓑の1つに過ぎないのだから、似たような仕事をしている公安警察には隠せないか。
リサ「どうしたの?」
愛原「高橋が脱走したという話は聞いただろう?当然、逮捕前にここで住み込みで働いていてたうちが疑われるわけだ。それで、中を見せて欲しいってさ」
リサ「ふーん……。パールさんは?」
愛原「出てった」
リサ「ファ?」
愛原「警察で追ってるって」
刑事A「何か疚しいことがあって逃走したかもしれませんからね。しかもこの雨の中、傘も差さずに、でしょ?」
リサ「傘を差さずに!?」
刑事B「本当に、行先に心当たりは無いのですね?」
愛原「先ほども言いましたように、彼女の交友関係からして、アキバのメイドカフェか、閉鎖中の埼玉の斉藤秀樹容疑者の家しか無いですね」
刑事A「アキバの方は、彼女が現れたという連絡は無い」
刑事B「斉藤容疑者の行き先については?」
愛原「残念ながら、それについては公安調査庁の方から口止めをされていますので」
刑事A「チッ……」
公安調査庁と公安警察は、このように縄張りが重なることがあり、そこで軋轢が発生することもあるとのこと。
その為、公安警察が公安調査庁の協力者をマスコミにリークして、公安調査庁の捜査を妨害したこともあった。
愛原が正にその立場。
隠れ蓑たるNPO法人を介してとはいえ、実質的に公安調査庁から委託を受けている立場なので、愛原としては警察よりもそちらが優先なのだろう。
但し、逮捕権があるのは警察の方。
そして、当然ながら捜査令状を持って来られたからには、たちまち優先順位は警察側に転位することとなる。
刑事A「ありがとうございました。また何か分かりましたら、こちらに御連絡を……」
愛原「どうもお疲れさまでした」
愛原は刑事達と共にエレベーターに乗って1階に下り、刑事達の見送りに行った。
そしてしばらくするとエンジン音が聞こえて来て、刑事達の乗った車は、降りしきる雨の中、事務所のガレージから出て行った。
高野「警察はもう帰ったかしら」
リサ「! わっ、ビックリした!」
天井の点検口をパカッと開けて、そこから高野芽衣子が出て来た。
さしものリサもビックリしたほどだ。
ショックで角が生えたくらいだ。
高野「久しぶりね、リサちゃん?」
リサ「た、高野さん……」
高野「愛原先生とは、進展があったのかしら?」
リサ「お、おかげさまで……」
高野「さすがに指名手配犯の私がここにいたら、先生に迷惑が掛かるからね。警察が帰るまで、隠れてたの」
リサ「そ、そう……」
そして、愛原がエレベーターで戻ってくる。
愛原「警察は帰ったぞ。高野君はいつまでいるんだい?」
高野「あら?私、まだ全てを話しておりませんことよ?」
愛原「しかし、さっきから表現が曖昧じゃないか」
高野「実は“青いアンブレラ”内でも、情報が錯綜しておりましてね、どれが真実で、どれがウソなのか、トンチを働かせている最中なんですよ」
愛原「いいのか、それ!」
高野「それより、もう警察は来ないでしょうし、デイライトの善場も、テラセイブのパールも今日は戻って来ないでしょうから、今日は私がここでボランティアしますよ」
愛原「いいのかよ……」
リサ「何か、昔に戻ったみたいだね。これでお兄ちゃんがいれば……」
高野「マサはホント残念だったわね。正規メンバーの誘いを受けたのが、運の尽きだったってわけ」
愛原「何であのタイミングで脱走したりしたんだ?」
高野「恐らく、テラセイブ側の作戦失敗でしょうね」
因みにテラセイブとは、1998年に起こったアメリカのラクーン市壊滅をきっかけに立ち上げられたNGO団体である。
主な活動内容は、『バイオテロ・薬害事件を秘匿・隠蔽する企業や組織を糾弾・告発すること』『バイオテロ・薬害事件に遭った被害者や犠牲者を支援・救済すること』としている。
BSAAが国連機関の1つであり、どちらかというと、バイオテロ組織の掃討や壊滅、そのメンバーの拘束を主な活動内容としているのとは違い、その後方支援活動を主にしていることが分かる。
その為、基本的にはBSAA側であり、“青いアンブレラ”側でもあるのだが、何回か起こった不祥事により信用が低下し、今はBSAAや“青いアンブレラ”ほど目立った活動はしていないと言われている。
ただ、霧生市のバイオハザードをきっかけに日本支部が作られたという噂はあったが、実際にそのメンバーが現れることは無かったので、ただの噂だったのだろうと思われていた。
ところが……。
愛原「パールって、テラセイブの人間だったんだ」
高野「ええ。日本人名の霧崎真珠は、恐らく通名。本名は恐らく横文字です」
愛原「でも顔は日本人だで?」
高野「日系人もそりゃいるでしょうからね。霧生市で、私達の前に現れたジョージ伍長みたいに」
愛原「そうか……」
高野「と、いうわけで、今夜の夕食はパールに代わり、私が作ります。何がいいですか?」
リサ「肉!」
愛原「そうだな……。今日は雨のせいか、少し寒い。梅雨が明けたら、もう食べる気無くすだろうから、今のうちに鍋にでもするか」
高野「了解しました。それじゃ早速、買い出しに行って参ります」
愛原「ああ。それじゃ、カード渡すよ。本当にいいのかい?指名手配……」
高野「この辺りには交番もありませんし、警察に見つかる心配はほぼゼロです。今はマサや“コネクション”のメンバーを追うのに忙しいでしょうからね。……あ、ビニール傘借ります」
愛原「いいよ。リサも連れて行かせるか?」
リサ「むふー!」
高野「いいですよ。リサちゃんは、テスト勉強してて」
リサ「テスト明日まで……」
愛原「あー、だったら勉強しておきな」
リサ「はーい……」
リサは渋々、階段で自分の部屋がある4階に向かった。