
新聞の書評欄だったか、この本の紹介を見て面白そうだったので書店で買おうとしたら、生憎と売り切れだった。一昨日、京都にお稽古に出かけたついでに入った書店でたまたま見付けたので購入、奥付に2007年6月20日 第1版第2刷とある。
一種の暴露本である。「本書に登場する外務官僚の実名&写真」付録つき、ということで、巻末4ページにわたって28人の顔写真が出ている。いいことを書かれている人もなかにはいるが、ほとんどの人が、私なら書いて欲しくないようなことを書かれている。現職の人が結構多いので、何を書かれてもなかなか反論しづらい状況下にいるように思う。この『登場人物』に較べて、現在組織からはみ出たような身分の佐藤氏は、個人の意見を発信することに関しては圧倒的に有利な立場にある。その強者の佐藤氏が弱者をいたぶっているようで、ちょっとフェアーではないなと思った。私が感じた『毒』の一つである。
裁判所と検察のかかわりは従来から両氏により指摘されてきたが、あらためて両者の癒着ぶりに目を向けられると慄然とした。裁判所は司法、検察は行政でそれぞれが独立であるべきである。それを佐藤氏は今の日本に司法権の独立など存在しない、と断言する。裁判所が検察ベッタリなのである、と。その証拠に検察に起訴されたら99.9%が有罪になるというのだ。なるほどこの有罪判決率は官製談合による落札率にひけを取らない。そんなことを言われたら、元来は正義を貫く最後の拠り所である裁判所すら信用できなくなる。そう思わせるのがこの本のもう一つの『毒』である。
衆議院予算委員会で鈴木議員への参考人質疑が行われた際に、質問者の共産党議員が「秘 無期限」と書かれた外務省の内部文書「国後島緊急批判書兼宿泊施設(メモ)」などを示した。その文書がなんとその朝、共産党議員に茶封筒に入れられて届いたのである。「親展」としてあり差出人はなし。これをこの件で対談に参加した元共産党員の筆坂氏は外務省の文書だと断言している。後で分かったことは同じ文書が民主党議員にも送られていたというのである。外務省は共産党を利用して鈴木議員の失墜を計ったとのストーリーになる。共産党議員が汗水垂らして見つけ出した文書ではなくて、外部からの『たれ込み文書』を材料に国会の舞台で見えを切る。それではまるで猿回しの猿ではないか。立法府である国会がこのざまでは、と思わせてしまうのがまたこの本の持つ『毒』である。
暴露本だからその内容をここで書いてしまえば「はい、それまでよ」になってしまう。とにかく、わが国の立法・行政・司法の場における出鱈目ぶりが並べ立てられているので、読むとげんなりしてしまう。どうもこれがこの本の最強の『毒』のようだと述べて私の読後感とする。
そうそう、言い忘れた。反省を態度で示すのに、反省猿のポーズをした肖像写真で表紙を飾ったほうが、お二人にはピッタリで良かったと思う。
追記(7月5日)
以前に読んだ佐藤優氏の著書の読後感は以下の通り。
誰もが引っかけられうる『国家の罠』とは 佐藤優氏の著書から
佐藤 優著「獄中記」を読んで