日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

祝 塩野七生著「ローマ人の物語」全十五巻の完結

2006-12-15 21:14:55 | 読書

塩野七生著「ローマ世界の終焉」が刊行され、これで「ローマ人の物語」全十五巻が目出度く完結した。1992年7月7日に第一巻「ローマは一日にして成らず」が出版され、その後正確に毎年一冊ずつ刊行された。第十巻以降は12月中旬以降に出るのが慣例になり、手にすると年賀状つくりに拍車がかかったものである。最終巻は本日12月15日に刊行された(実際に買ったのは昨14日)。年表、地図、引用文献を除いて総ページがほぼ5450ページにおよぶ大作を、よくもま無事にそして見事に完結させた著者のパワーと精進にただただ頭が下がる。心からお祝いを申し上げる次第である。

著者との出会いは1968年に遡る。そのころ勤務していたカリフォルニア大学サンタバーバラ校の図書館に日本語書籍・雑誌のコーナーがあった。月遅れで目にする中央公論に「ルネサンスの女たち」の連載が始まったのである。これを読み始めてぐいぐいと話しに引きずり込まれたことを覚えている。その後刊行された単行本の第一章に「イザベッラ・デステ」が収められているので、多分彼女の伝記を目にしたのであろう。

私はシュテファン・ツワイクの「ジョセフ・フーシェ」や「マリー・アントワネット」を愛読していた。緊張感のある彫心鏤骨の一言一言を追っていくと、世界が次から次へと広がっていく、その彼の文体に魅せられたのである。ところがそれと同じような興奮を彼女の作品から味わって、いっぺんに虜になってしまった。それ以来ファンとして彼女の作品は出るたびに手元に置いている。あるサイン会で「ローマ人の物語」の第一巻に彼女のサインを頂き、短い言葉を交わした貴重な思い出もある。

「ローマ人の物語」がどれほど大掛かりな著作なのかは、ギボンの「ローマ帝国衰亡史」とくらべてみるとよく分かる。エドワード・ギボンが1776年から1788年の12年余りを費やしてこの大著を完成させたが、「ローマ人の物語」は上にも述べたように前後15年かかって仕上げられている。その「ローマ帝国衰亡史」の翻訳が筑摩書房から出版されたが、それは「ローマ人の物語」と同じサイズのA5版で全十一巻になり、総ページ数は3230ページである。これは「ローマ人の物語」のちょうど60%にあたる。

英文学者の中野好夫氏が「ローマ帝国衰亡史」の翻訳を始めて第一巻を出版したのが1976年11月20日、最終巻が出版されたのが1993年9月25日だから、足かけ18年かかって翻訳が完成したことになる。その間、中野好夫氏が第四巻を完成させ81歳で逝去、その後を継いだ朱牟田夏雄氏も第五、第六巻の翻訳を終えて中野氏と同じく81歳で亡くなられた。その後を継いだのが中野氏の子息好之氏である。このように三人の翻訳者の協力でようやく翻訳の大業が終わったのである。

「ローマ人の物語」の中身とはかかわりのない話しになったが、塩野七生さんの大著完成がいかに超弩級の壮大なものであるかを強調したかったのである。

一つ楽しみに考えていることがある。「ローマ人の物語」の第十五巻を読み終えたら、今度は第一巻まで逆に読み返していこうと思うのだ。著者は「終わりに」でローマ史を書いた動機を「素朴な疑問」に置いている。「なぜこうなったのだろう」と素朴な疑問が生じたら、解答を見付けるには時代を遡らざるを得ないではないか。私の考えている読み方が案外歴史書のまともな読み方なのではあるまいか。と思ったら、現代から古代へ遡った日本の歴史物語を塩野七生さんにおねだりしたくなった。

最新の画像もっと見る