以前に「大ビル」に昔を懐かしむで書いたことであるが、大ビルが今月いっぱいで立ち入れなくなると言うことなので、最後のお別れに昨日出かけた。
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いかにも戦争を耐え抜いてきましたと言わんばかりの趣のあるこの建物に入ると、正面左のエレベーターの扉が開いていた。まだ動いている証である。その横にあるのは私設郵便函と記されたポストで、真鍮であろうピカピカに磨き立てられている。建物の中はガランとして一度に目に入る人影は一人二人である。写真を撮っていると一人の男性に声をかけられた。このビルで働いている人らしい。写真を撮りに沢山の方がこられます、とのことであった。このエレベーターには「閉じる」なんてボタンがないから乗ってご覧なさいと勧められた。のんびりとした時代のエレベーターと言うことなのだろう。
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この通路はビルの東の方を向いており、床のタイルがやわらかな光沢を放っている。取り壊しとなったら瓦礫になってしまうのだろうか。そんなことなら庭の敷石に貰って帰りたいと思った。今度は年配の女性に声をかけられる。名残を惜しみにやってきているというのが分かるのだろう、ごゆっくり、と言われた。通路の両川に店舗が並んでいるが、二、三を除いてもう店じまいを完了していた。なかには移転先の張り紙もあった。
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そう、渡辺橋からこちらに来る途中に高いビルが建っているなと思ったらそれが中之島ダイビル、すなわち新しい大ビルなのである。旧大ビルの店舗の多くが新大ビルに移ったのだろうか。
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帰りにこの中に入ってみた。右側にまず花屋さんがあってその奥隣がワイシャツ屋さんである。正面にシンガーミシンが招き猫のように置かれているので釣られて中に入った。いや、シンガーミシンが目についたもので、と店員さんに言うとこれはクラシックミシンで凄く程度の良いものです、と仰る。ところがよく見ると電動式なのである。わが家には50年以上も使っている足踏み式のがあるんです、とちょっと自慢げに言ってみる。動きますかと聞くから、もちろん、最近も調子が悪くなったのをちゃんと直しました、と答える。若い店員さんなのに、部品の調達はどうすればよいとかなかなか知識をお持ちなので、嬉しくなってしばらくミシン談義で時間を潰した。
その続きにはケーキ屋さんがあって、オープンは9月になるとのこと。そしてその隣にはかって私が不思議な体験をした老舗のMF珈琲店が入っている。ひょっとしたらまた怖い体験を出来るかと思って入ったが、期待に反してとてもモダンなまさに現代風カフェで、禁煙エリアがちゃんと設けられていた。7月13日に開店したとのこと。グラスのしたに敷かれたコースターに書かれた創業年がちょうど私の生年であったので、記念に頂いてきた。
このビルが取り壊される頃には日本はどうなっているだろう、とSF物語の書き手になったような気分で建物を後にした。